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日々是盲日8 |
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『・・・それではよろしくお願い致します。 芦原 beatle@ns2.00000.ne.jp 』 棋譜の整理、新聞の原稿、メールの返事。 全てを終わらせてやっとPCを閉じる。 モニタが黒く光り、微かなモーター音が止むと、 部屋に心地よい静寂が訪れる。 これからはオレの時間なんだよね・・・。 背もたれに一つ、思い切り体重を預ける。 これがオレの頭を切り換える儀式。 ・・・よし! 弾みをつけて椅子から飛び起き、興奮で足が弾みそうになるのを 敢えてガマンしながら隣の部屋へ。 ガチャ・・・。 やあ!ボクの夢の部屋! 寂しかったかい?ボクの宝物たち。 この、オートセンサー付き湿度調整器! 見てよ!高かったんだから。 と言いたいけれどこれを見て感心してくれる人は残念ながら回りにいない。 というか、この部屋全体がね。 湿度調整器を買うまでは、黴や痛みに随分心を痛めたものだ。 でも、やっとまとまった時間のとれる今日、病気を隔離できる。 壁から箱の一つを外して、慎重に机の上に置く。 こういう趣味って凄く健康的だと思うんだけど 誤解するヒトは誤解するんだよね。 ああ、もしかしたら緒方さんだったらある程度理解してくれるかな・・・? 彼の熱帯魚を思い出す。 前まではファッションっぽかったけど最近本腰入れ始めたような。 ・・・そう言えば、時期を同じくしてアキラに執着するのをやめたようだ。 アキラより熱帯魚の方が良くなった・・・? でも小さい頃からそれはそれは大事にしてたのに。 お姫様のように。 まめに送り迎えをして、彼の友だちにまで目を光らせて。 お姫様と言うよりは籠の鳥か。 いや、籠の鳥というよりもチョウチョのように、の方がいいかな。 でもああいう柔らかいのってキレイかもしれないけど弱いよね。 ボクは「チョウやさん」でも「トンボやさん」でもないから詳しくはないけど。 捕まえるときに既に「ボロ」になりやすいし鱗粉は落ちるし、管理が難しい。 そう、やっぱりボクは「クワガタやさん」。 うっとりしながらガラスの蓋を開ける。 子どもの頃は何故かカブトだったけど単に大きくて重いからかな? 今思うとどう考えてもクワガタ、だよねぇ。 人気こそないけれどノコギリだってよく見ればステキなフォルムだ。 今年こそはタテヅノマルバネ、捕りに行きたいなぁ・・・。 でもでもベタだけど一番は。 バブル時代には黒いダイヤ・・・とまで言われた。 でも棋士としては那智黒、と呼んで上げたいところだよね。 この色と言い艶消し具合といい。 ああでも、それは失礼かな。 ・・・オオクワガタくん。 この圧倒的な迫力! 小さいのにずっしりとしていて平たくて。カチョイイー! アメ車に通じるものがある、かな。 この立派なアゴに挟まれたら血が出るけど思わず恍惚としちゃうよね。 どうしてもキミがクワガタ界のキングだ。 囲碁界でいうなら塔矢行洋。 ははっ、じゃあアキラはコクワガタ?いやうそうそ。 キミだってオオクワのさなぎだよ。しかも特大の。 そのアキラと最近よくつるんでる進藤クンは、何だろう。 あのツートン頭はなぁ・・・。外国種だよな。 フェモラリスってところか。くぅ!かっこよすぎ?! でもさ、「生きた」外国種が解禁されてからデパートでヘラクレスオオカブト とか売ってるの見るとさ、ちょっと不安になる。 大きいんだよ。 強いんだよ。 色も変わってるし確かに格好いいんだけど、子どもだって買うんだよ? うっかり逃がしてしまったり、可哀想だからなんてわけわかんない理由で 野山に放したり。 それで日本固有種が駆逐されるかも、なんて思い至る奴ばかりじゃない。 アメリカザリガニに住む場所を追われたニホンザリガニの末路や ブラックバスの繁殖力を思うと、とても「わあ格好いい」なんて単純に 喜んでいられない。 フェモラリスなあ・・・。このツートン、キレイなんだけどな。 まあどっちみちボクは生きてるのは飼えないから標本で十分だし。 てゆうか、今持ってるし。 でもこれ、穴開いてるしダメっぽい。 まあ最初から展足も下手だと思ってたんだよ。これだから外国産の標本は。 ごみ箱にポイ。 そう言えば前、アキラと進藤クンも仲悪かったよな。 いや何でもクワガタに喩える訳でもないけれど、 思えば見た目だけじゃなく、進藤くんは在来種の群に切り込んできた 外国種のように鮮烈だったから何となく、ね。 アキラはアキラで間違いなく正統な日本囲碁界の至宝だし。 その二人が名人戦の一次以来急速に接近しているのは変だった。 門下が違うから一応隠してるみたいだったけどあれだけ目立つ二人なんだから 分かるって。 取りあえずアキラに同じ年のライバルというか友だちが出来たのは 本当にいいことだ。 あ、だから緒方さんもアキラを放したのかな?いや。もうちょっと後か。 だけれど、そんなに仲の良かったアキラと進藤クンが確かセミナーの後位から 同じ部屋にいても離れて座るようになった。 ああやっぱり種別が違いすぎたか、なんて妙な感想を持ったもんだけど。 ・・・うーん。このオオクワなぁ。75ミリ。大きいけど虫が食ってるんじゃ。 それに今は80ミリ時代。これ買ったときは高かったけどもう珍しくもないしな。 置いていても仕方ないからこれも思い切ってごみ箱にポイ。 まあ、しばらくしてまた打ち始めた所を見ると、 あのアキラと進藤クンの不仲は子どもの喧嘩のようなものだった訳だ。 今じゃ前以上に仲がいいというか、偶に見せつけるようにイチャついてる、 とまで思えるような仲睦まじい雰囲気まで感じる。 ちょっと危うい感じもしなくもないけれど、まあたわいのないイタズラだろ。 あんまり大人をからかうのは良い趣味とは思わないけれどね。 でもアキラには子ども時代につるんで悪さするような子がいなかったんだから いいんじゃないかな。 おせっかいかも知れないけど、彼には子ども時代を取り戻して欲しい と思っていた。 出来れば捕虫網持って野山を駆けめぐったりさ。 進藤クンってそういう王道な少年時代を送ってそうじゃない? そんな彼の隣にいるとアキラまで子どもっぽくなって、嬉しくなる。 勿論喧嘩に関してはしたこともなかっただろうから辛かったかも知れないけど 仲直り体験も出来たんだから結果オーライってとこ。 いいコンビだよ。彼らは。 オオクワと、フェモラリス。 黒と白。 弱い方が駆逐されるのはこの際もう仕方ないってところ。 二人が、無数のオオクワとフェモラリスで碁を打っているところが 頭に浮かんでしまう。 はっはっは!大きな碁盤がいるな。 アキラが真面目な顔でオオクワを摘んで、そっと盤上に置く。 すかさず進藤クンがフェモラリスで挟んで乱暴にオオクワを掴む。 足が一本取れて、アキラに凄い剣幕で怒られる。 で、さっきのフェモラリスが実は生きてたりして、わさわさ移動して 盤の上でオオクワを襲ってみたりして。 ああ、楽しそう! ふと。 思い直してごみ箱から二体のクワガタを拾い上げた。 台所に行って小さなタッパを一つ持ってくる。 虫の食った胸や腹をぱきりとむしり取って、これはごみ箱に戻す。 残りをタッパに放り込む。 仲良く並んだ二つの頭。 四つの大あご。 よし。 何が「よし」なんだか分からないけどとにかく一つ頷いて、蓋をする。 軽く振ってみるとからからと乾いた音がした。 彼らは永遠の命を持っている。 外骨格のいいところ。 緒方さんも標本にすればいいのに。 生きているのは何かと面倒だよ? でも、彼がくわえ煙草で熱帯魚の魚拓を録っている図を想像すると また一人で笑ってしまった。 この空想癖も、もうそろそろなんとかしたいところだよね。 −了− |
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