白と黒の石 4
白と黒の石 4








その夜、城の外まで来たヒカルは、アキラをおぶって
永夏の部屋のバルコニーまで飛んだ。


「永夏」

「待っていたよ」


昨夜と同じく、足首まで届く長い寝着に着替えた永夏が迎え入れる。


「アキラ、だったね。昨日はありがとう。碌にお礼も言えず、」

「お気になさらないでください」


永夏が誘うように笑うと、アキラも媚を滴らせた視線を返す。
ヒカルは、笑い出さないように必死だった。


「ところで永夏、犯人は分かった?」

「ああ。大体」

「え?もう?」

「今朝広間に顔を出したら、あからさまに狼狽えているのがいた」

「誰?」

「名前を言っても分からないだろうが、伯母……父王の姉の従者だ」

「ふーん、なんだろうな」

「伯母には父も頭が上がりかねるからな。
 もし王位を狙っているという噂が本当なら、私を消したいのも分かる」

「伯母さんが?」

「いや、伯母に隠し子がいると言う話があるんだ。
 私が王位継承者である間は言い出しにくいだろうが、もし私が死んで
 父に何かあった場合、実はこういう子がいる、と披露できる」

「ふ〜ん……なんかややこしいな。でも気をつけろよ?」


命を狙われていると言うのに、永夏は鮮やかに笑った。


「まあ、今日は難しい話は無しで楽しもう」


アキラの手を取り、ヒカルの腰を抱いてベッドに腰掛ける。
そこで初めて、アキラは怪訝な顔をした。


「あなたは、王位継承者なのですか?いや、伯母上が、という事は女系……」

「可愛い人、あなたの唇に政の話は似合いません」


微笑みながらゆっくりとベッドに押し倒した所で、アキラの顔色が変わった。


「やめろっ!」

「今更」

「いやだ、ちょ、」


アキラが体を捻った所に永夏が覆いかぶさる。
遅いな……と呟きながら、ヒカルが窓の方を見たまさにその時、
ノックもなく扉が開いた。


「誰だ!」

「私です」


現れたのは、最初にアキラと出会った時、部屋にいたオガタだった。


「なんで窓からじゃなくて中から来るの?」

「なんだ、伯母上のお付きはいいのか?」

「どうしてオガタさんがここに?」


ヒカルとアキラと永夏は三人三様、同時に言ってしまってから
お互いに顔を見合わせる。


「永夏様こそ、何をなさっているのですか?」

「……遊んでいたのだ。紹介しよう、新しい友人達だ」

「存じております。というか、あなた様が押し倒されているのは
 お従兄弟様のアキラ様です」

「従兄弟?という事は、こいつが伯母上の……」

「はい。ご子息です」

「げっ」

「げ、とは何だ、げ、とは。あなたは王子だったのですね?」

「当たり前だ。おまえこそ女の振りをして、」


そこで二人は漸く思い当たり、ヒカルを見やった。


「ヒカル!」

「ヒカル……どうして、」

「だってー。永夏があまりにも女は落ちて当然、みたいな態度だからさ」


永夏は思わず絶句した。
確かに、その身分と美貌から、今まで永夏に媚を売らなかった
女の方が少ない。


「お前のどや顔、すげえムカつく」


満面の笑みを浮かべながら言われて、永夏の口が開く。


「おまえ程可愛くない女は、初めてだ……」

「可愛いとか思って貰わなくて結構!正直、助けたの後悔したぜ」


王子を助けたのはやはりこのガキか……と、オガタの顔がぴくりと歪んだのに
気づいた者はいない。


「ムカつくのはこっちだ!絶対いつか姦ってやる!」

「うぜーうぜー。人間ごときが妖魔に敵うもんか!」


「ところで永夏様」


黙って見ていたオガタが、ベッドにずい、と近づいた。


「あなた様が襲おうとしていたアキラ様は、私にとっても大切な人でしてね」

「……」

「あなたに男を襲う器量があるとは思わなかったが、そうと言って下されば
 この不肖オガタが手取り足取り教えて差し上げましたのに」

「ひっ、」


オガタが永夏に覆いかぶさってベッドに押し倒した時、
アキラがヒカルの手を掴んで飛んだ。





「っまえ!びっくりするだろ」

「あの場にもっと居たかったか?」

「そういう事じゃないけど」

「オガタさんは、キミが呼んだのか?」

「ああ。一応おまえのお目付け役だからな。
 窓から入ってくるかと思ったら、人間みたいに扉から入ってきてびっくりしたぜ。
 あいつが城にいるって知ってたの?」

「ああ。長年人間として城に仕えているのは知っていた。
 ボクの母が、城にいるというのも。だけれど、もっと……」


アキラはもっと、自分の母は平凡な人だと思っていたのだ。
城の侍女か小間使いか料理人か。
それが、何の因果か山の主の寵を受けて、自分のような非凡な子を産んだ。

異種の血のせいか病弱だったが、それを乗り越えれば一人前の妖魔になれると
そう信じて今まで頑張ってきたのだ。
母が人間の中でもそんな身分のある人だというのも初めて知ったし
自分を王位に据えようと画策しているなんて寝耳に水だった。


「永夏を殺そうとしたのは、オガタさん、なんだろうな」

「だろうな。ま、しばらくは永夏がオガタに殺される事はないだろ」

「何故だ?」

「おまえに知られたからさ。あいつは山の主の手下だろ?
 人間の女の言う事を聞いて、人間を殺したなんて山の主に知られたくないだろ」

「ならいいけど……」

「心配なら、時々様子見に行くか」

「……!」


ヒカルは、人間を助けたいだなんて粋がった過去の自分を少し恨んだ。
お互いに相手が女の子だと思っている、永夏とアキラを出会わせてみようなんて
思いついた悪戯心も。

そのせいで、アキラは知りたくなかった生い立ちを知ってしまったし
どうやらあの高慢な王子と関わり続けなければならないらしい。

悪戯以外の目的で人間界に行くのは退屈で億劫だった。




だがその日、ヒカルは夢を見た。

永夏とよく似た美しい女が、ヒカルの首を絞めてくる夢だ。
これが件の「伯母上」か、永夏を殺しそこなったのがそんなに悔しいか、

そう思っていると、本当に目の前が苦しくなって涙が出てきた。


……カル……ヒカル!……


サイの呼び声に、思わず起き上がり、げほげほと咳き込む。
目を開けると、そこはいつもの自分のねぐらだった。


……ヒカル、大丈夫ですか?……

「だいじょうぶ、ってか、あれ、夢じゃなかったんだ?どこから?」

……誰かに、とり殺されそうになっていたようです。
あなたの涙で、私が飛んで来られなければ危なかったですよ……

「ああ……、そっか。サンキュ」



あの女も、ただの人間じゃないのか?
それとも。


退屈な場所だと思っていた人間界には意外と沢山の妖魔が潜んでいる。
そして、妖魔との間に成した子を人間の王にするため、
実の甥をも手に掛ける女。

妖術を使って妖精を殺そうとする人間。

もう他人事ではない。
退屈どころではなさそうだ。


だが。
それならそれで、受けて立ってやる。
オレを敵に回した事を、後悔させてやる。


ヒカルは、闇の中でニヤッと笑った。



「人間って面白!」





--了--






※9999踏んでくださったゆきんこさんに捧げます。

リクエスト内容としましては、最初に


しょたっぽいファンタジー物か、ダークな男女男男もの

と頂きまして、その詳細は以下です。


妖精界と人間界で妖精のヒカルと佐為が生活するような感じかな?
佐為は指輪物語のガンダルフ的な感じの物で、森下先生はドワーフがいいなあと思います。

物語的にはこんな感じでお願いします。
誰もが固まるハートフルファンタジー

ヒカルは妖精族の子供、いつも元気いっぱいで色々な騒動を起こします。

加賀(火蜥蜴とか)の大事な魔法のカップを割ったり、あかりちゃん(シルフとか)が一生懸命集めたエーテルをぶちまけて泣かせたりして、皆に怒られています。
そのたんびに「おれ悪くねーもん」ですませています。

そんなヒカルもたまにはいいことをします。
暗殺されかけて死にかけている人間の王子(永夏あたり11才ぐらい)を助けたり(佐為が)病弱で死にかけている子供(アキラさんあたり)を助けたり(佐為が)しています。

しかし、掟や禁忌が存在し、特に人の運命にかかわってはいけません。
佐為はそれとなくヒカルに諭そうとしますがヒカルに「こいつが死んだらお前のせいだぞ佐為!どうするんだよ!」と理不尽に脅されます。
皆から尊敬され、大賢者の誉れ高い佐為もかわいいヒカルに逆らえません。
よよよと泣きながらも言う事を聞いていまいます。
そんなヒカルと佐為と愉快な仲間たちのハッピーハッピーライフ。

できれば森下門下は人間以外の生物、倉田さんはよくわからない生物でお願いします。数年後にはBL化が可能ですね(笑)

・・・・・・・・・・

@ストーカー話し アキラさん(男)は男に凄くもてます。彼氏もいます。ヒカルは女の子です。二人はお互いが相手を理解できると思わなくなりました。ヒカルはひたすら遠い先を見つめていました。ある日からヒカルの持ち物がどんどん無くなっていきます。犯人はアキラさんです。しまいには大事な白扇まで無くなります。後はおまかせです。相手が自分を理解してくれなくて哀しくてせつなくてつらい感じで。エロの有り無しもお任せです。アキラさんの相手は座間先生とかおっさん以外ならOKです。

A美人局な話し ドッグファイトっぽい。ヒカル(女)とアキラ(女)に誘惑される永夏(男)、二人共喰ってやろうとウハウハになるが、騙され男に襲われてしまう。男は誰でもOK。ヒカルと永夏の火花散るバトルがいいです。男女の対比をはっきりさせるためにヒカルの胸はCカップぐらいで。ヒカルに「お前のどや顔、すげえムカつく」と言ってほしいです(笑)あとはおまかせです。エロ有無もアキラさんの態度も性癖も。民族の違いもありますけど、かなりそりの合わない二人がぶつかると面白いのでは。

B美女永夏(女)に襲われるヒカル(男) 後はおまかせです。夢落ちでもなんでも。


ただの女体化話なのですが、偶然にも三人共男にも女にもなってしまいました。


実に詳細に、ありがとうございます(笑
ファンタジーか女体化か、どちらかという意味だとは分かっているのですが、
意地と自分の楽しみで両方入れてみました。
リクを詰め込む事に必死すぎて物語としてどうかという有様になっております。

反省点は、

・全体に駆け足すぎ
・ハッピーハッピーライフがない
・永夏が暗殺されかかった時の年齢が指定と違う
・全然ドッグファイト(碁の拙作ですね)じゃなかった
・永ヒカ(女×男)が無理でした……しかもこういう襲われ方じゃないよね?
・あ!倉田さん忘れてた!

でした。
壮大な物語の一部という雰囲気にしたかったので、ファンタジーっぽい伏線を
たくさん張りっぱなし放置ですがこれはわざとだと思ってください。

クロスワードパズルを解いているようで楽しかったです♪
ゆきんこさん、いかがでしょう。
マニアックなリクエストありがとうございました!








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