サイレント・ファンタジー2
サイレント・ファンタジー2










屈辱の・・・時間だった。


この姿は誰にも見せたくなかった。
出来れば医者にも。
それもあって今まで病院に行くのを躊躇っていたのだ。

だが、一番知られたくないのは進藤だ。
彼に知られる位なら、何だって出来る。
自分ではどこまで女体化しているのか分からないのだが、結局の所は男だと
納得してくれたら緒方さんも諦めもするだろうと。
だからボクは

くるくると晒が閃いて順番に足元に落下する。
全裸で、立ち尽くしていた。
女の子みたいに恥じらうように胸や恥部を隠して喜ばせたくもなかったので仁王立ちだった。

緒方さんは煙草も吸わず、こめかみに指を当ててじっとボクの身体を凝視していた。


「なかなか、イイ体をしているな。」


いわゆる、男として「イイ体」でないのは自分がよく知っている。
女性として、だろうか。
よく分からない。

それから彼は立ち上がってボクの前まで来て腰骨を触り、そのまま撫で上げて
胸を鷲掴みした。
以前布越しに触られた時よりも明確な意思を持って親指が乳首を嬲る。
気持ちよくもないのに、硬くなってくるのが不思議だった。
いや、この感じは寒気というか悪寒にかなり似ている。
鳥肌が立つように、乳首が立っている。


そのまま押し倒されるかと必死で覚悟を決めようとしたが、
その後はバスルームに連れて行かれた。



緒方さんは自分は着衣のままボクの体に一通り湯を掛けた後、
片足を浴槽の縁に乗せるように要求した。


「処女は碌に洗い方も知らんからな。」


いきなりシャワーを当てられて、思わず逃げてしまう。

今、今、股の間に、いや、あれは萎縮したボクの、でも、場所が、

女性は膝をきっちりと閉じるもの。
それは普通に作法のようなもので、特にその意味を考えた事はなかったが、
そうか、足を閉じるのには弱い場所を保護するという意味があるんだ。
男だってぶら下げている物が隠せる場所にあるのなら、隠すだろう。

などと頭の中で現実逃避の考察をしている間に、緒方さんはボクの腕を掴んで引き寄せ、
再び足を広げさせた。


「オレに掴まっていろ。」


濡れて皮膚に貼り付いている緒方さんのシャツ。
湿気で香り立った煙草の匂い。


「あっ・・・。」


自分でも触った事のない場所に、堅い指が触れてくる。
なんて敏感な、場所なんだ・・・。
これは、まるで。

指はじわりと股の奥をなぞった。
そう、どうも感触からして、有り得べからざる所まで・・・割けているようなのだ。
なんだか、べらべらした鉤裂きのような傷口を、ゆっくりと往復している。
痛い!のではないかと思ったが、痛くはなかった。

慣れてきてみると、自分が震えているのが分かった。
情けない。
ぐっと歯を食いしばって、震えを止める。
すると緒方さんの顔が近づいてきて、耳を舐め、口に含んだ。

気持ち悪い気持ち悪い何するんだ!

顔を逸らすと下の指がくっと曲げられ、悲鳴を上げそうになってしがみついてしまう。
いつの間にかシャワーはフックに掛けられ、緒方さんの片手はボクの体が逃げないように
抱きしめていた。

熱い雨。
股間の、異様な感触。
鋼のようにボクを拘束する腕。
濡れた布。

追いかけてきて、追いかけてきて、ボクの唇を塞いだ粘膜。

ざらついていて、堅くて柔らかくて、自由自在に動き回る蛇のようなモノを
目を閉じて口内に受け容れると意識が飛びそうになる。


これが進藤なら、いい。


そう思うと下腹の方でじわりとするものがあった。
と同時に指が・・・

体の奥に、差し込まれる。
尿道をこじ開けられたような恐怖があったが、さほど痛くはなかった。

どこまで行くんだ、やめてくれ、

心の悲鳴も届かず、指は根元まで入れられたらしい。
そして中で動くのが、恐ろしく気持ち悪かった。
一体これは、


「緒方さん・・・これ、」

「ああ。完全に女性として機能しているらしいな。」


ニヤリと笑って顔を離し、指も抜いた。
体全体の緊張が解ける。
だがホッとしたのも束の間、ボクの目の前にかざされたそれには、

ぬらりとした透明な粘液が糸を引いていた。





ベッドに横たえられても、まだボクの頭は上手く回転していなかった。

自分に、膣が、あった。

それだけで世界の全てのネガポジが反転してしまったような気がした。
どこかで危惧してはいたが、確かめたくもなかった場所。
胸が膨らもうが、性器がめりこもうが、ただそれだけの事だと。

自分が女性になっただなんて、絶対に認められなかったのだ。


ふと前を見ると、服を脱いだ緒方さんがのし掛かっている。
ボクの体を撫で回し、胸を揉んで乳首を口に含む。
そのまま唇は下がって臍に尖らせた舌を差し込み、その間に足を開かされた。

また指が何度も往復し、差し込まれ、抜かれ、やがて二本になり、


「アキラくんは感度がいいな。もうドロドロだ・・・。」


幽体離脱をしているようだ。
確かに体は何かを感じているけれど、それは既にボクの体でないような。
きっとテレビを見ているんだ。
夢を見ているんだ。
誰かの悪戯だ。

こんなの。


だが、指とは違ったぬるりとした感触に、目の前で手を叩かれたように目が覚めた。
顔を上げると緒方さんの頭が、ボクの股間に、


「嫌だっ!」


その時、
確かにこの体は自分のもので、目の前にいるのは知らない男ではなく兄弟子で、
小さい頃から知っている人だと、はっきり認識した。

足で思いきり蹴り上げる。


「いやだ!離して下さい!」

「大人しくしろ!痛い思いをしたいのか!」


緒方さんは体をずり上げてボクの足を抱え、硬くなったものを足の間に押しつけてきた。


「やめろ!離せ!」


パンッ!!

一瞬何が起こったのか分からなかった。
耳が遠くなり、頬が熱い。動けない。


「いい子だ・・・。誰でも好きな男の顔を思い浮かべておけ。」

「・・・・・・。」

「芦原でも、いやそうだ、お前が惚れてるのは進藤だったな?」


・・・どきりと、する。

バレていたのかとかそんな事よりも、本当に進藤の顔を思い浮かべてしまった事が
ショックだった。
何だか申し訳がない。
けれど、それでも、今押しつけられているのが進藤なら、などと。
そう思うだけで、体の中心がまた、どろりと。

めりめりと、体の中に熱いモノがくい込んでくる。


「力を抜け・・・違う、尻の穴を開くようなつもりで。」


何度か押しつけられ、引かれ、ある時すぽ、と感触がして、ほんの少し楽になった。
かさの部分が通ったんだな、などと妙に冷静に考えていた。

体を引き裂いているものが、小さく動く。

熱い。痛い。

これで本当に・・・・・・「女」から逃れられないのだな・・・。

目を閉じていても、ボクの上にいるものはだんだん進藤でなくなって来た。
しかし緒方さんでもない。
ただ、ボクを「女」にする、凶暴な何か。


目尻から流れる水は、ただ純粋に痛みから来る生理的なものだと思いたかった。




その日は緒方さんのマンションに泊まったのだが、その間の事は
よく覚えていない。
特に言い争いをした訳でもないが、会話をした覚えもない。
かといって険悪なムードだった訳でも居心地が悪かった訳でもない。

ただただひたすらに機械的に朝食を平らげ、失礼しますと頭を下げて帰ってきた。



仕事が休みだったので家で少し休んで、晒を巻き直して進藤の携帯に電話をした。


『お。おまえから電話なんて珍しいな。何?』

「今どこ?」

『棋院だって。丁度終わったとこだけど、いつもならまだ電源切ってる時間だぜ?』


そういえば、今日は進藤は手合いだな。
ボクにもあるまじきことに、すっかり忘れていた。
だが、無性に会いたかった。


「これから会いたいんだけど。」

『は?急にんな事言われても困るよ。夕方から和谷んちで・・・』

「・・・・・・。」

『・・・どうした?何かあった?』

「いや・・・。いいよ。」

『待て!分かった。分かったよ。ええっとじゃあ、40分後に駅まで来てくれる?
 和谷んちはその後でいいから。』

「うん・・・。」


進藤は、優しくて残酷だ。
一晩中側にいてくれと言ったらどうするだろう。

自分の身体が、一見だけでなく機能まで女性になっていた事が、まだ信じられない。
信じたくない。
そしてその上「女」にされた事。
しかもよりによって緒方さんによって。





駅の柱に凭れていると、進藤が軽く手を振りながら改札から出てきた。


「やあ・・・すまない。急に。」

「うん・・・いや。」


進藤は何とも言えない、眩しそうな表情でじっとボクを見つめていた。


「どうした?」

「ん・・・何でもない。それよりそっちこそどした?」


肩を並べて、どちらへともなく歩き出す。

昨日と同じ顔でボクを覗き込む茶色い瞳。
けれどボクは昨日のボクとは違う。
見た目は同じでも、もう決定的に、違う。


今、今しか言えないと思った。
今なら言ってもいいと思った。


「昨夜・・・緒方さんにされたんだ。」

「へ?」

「セックス、した。」


自分でも驚くほど、人生初の言葉がするりと口から出た。
意外と平常心でいられるものだな、と思いながら二、三歩進んで、
隣の足音が消えているのに気付く。

振り返ると進藤が後ろの方で目を見開いて立ちすくんでいた。

ああ、そうだな。
それが正常な反応だ。


「う・・・そ。」

「本当。」


電車が到着したのか、増えた通行人に鬱陶しそうに避けられながら、
三歩離れた距離でボク達は見つめ合う。
やがて進藤は何故か怒ったような目をして、くるりと背を向けた。
仕方なく追って、その肩に手を伸ばす。


「どうした?」

「さわるなっ!」


パシッと音がする程の勢いで払いのけられた、手。


「な・・・。」

「そうかよ。さっきお前見た時、昨日よりキレイになってるような気がした。
 なるほど、そーいう訳なんだ。」

「一体、」

「触るなよ!緒方さんに抱かれた手で、オレに触るな。」


人が振り返る。
好奇心をそそる会話だとは思う。
けれど。
だけど。


何だって言うんだ!


ボクがそんな目にあったのは、キミにどうしても知られたくないからで、
元はと言えばキミのせいで、キミだけの為で、

腹の底からこみ上げるものがあった。

ボクに冷たい一瞥を投げてまた背を向けた進藤の肩を掴み、
今度は振り向きざまに、何も考えないままに、


ばきっ!!


・・・指が、折れたかも知れない。
人を殴った事などないから、何も加減しなかった。
それでも良かった。
ボクの手も、進藤の顔も、ぐしゃぐしゃに潰れてしまえ、と思った。


「ってえ!何すんだよ!」


殴ったんだよ!どうしてかって?
そんな事言えるぐらいなら殴らないさ!
何も、
何も言わなくてもキミが愛してくれたなら・・・!


盛大に転がった進藤が起きあがった時に、つ・・・と鼻血が垂れた。
ゆっくりと立ち上がり、膝をに手を突いて息を整えていると、足の間にぽたりぽたりと赤い花が咲く。
周囲の人は見てみない振りをして、早足に通り過ぎて行く。
遠くでは中学生が、こちらを指さして何か話していた。

やがて顔を上げた進藤は、鼻と口を片手で覆ったまま別の手で拳を構えて
バランスも悪いままにボクに躍りかかってきた。

予想された動きなのでそのまま避け、ボクは進藤に背を向けて走り出す。
人気のない自転車置き場の方へ。
もう、今日はこのまま帰るつもりだった。

進藤はどうするのだろうと思っていたが、後ろから何か喚きながら追いかけて来る。
へえ、意外と凶暴なんだ。
碁以外でもやられたらやりかえすんだね。
キミの新鮮な一面を見ることが出来て、こんな時でもボクは嬉しい。


やがて案の定追いつかれ、
殺風景なコンクリートの壁の前で肩を掴まれた時、殴られることを覚悟した。
進藤はボクをぐいっと壁に押しつけ、そして、



キスをした。



え・・・・・・?


・・・・・・。


思考が固まって、動けない。

緒方さんとは全然違う、押しつけるだけのキス。
あまりにも強く押さえられて、歯同士が当たる。

それなのに今まで感じたことのない陶酔をもたらすキス。
血の味が広がって行くのに、脳味噌が痺れる程甘い、キス。


随分長い時間経って、やっと顔を少し離した進藤はまだ鼻血を流していて、
そして何かに絶望したような、呆けたような顔をしていた。


「・・・・・・緒方さんの所へなんか、行かないでくれ。」

「・・・・・・。」

「好き、なんだ・・・。」

「進藤、ボクは、」

「男だって関係ない。おまえが、好きなんだ。
 女に持ってかれるのも嫌だけど、男に盗られるなんて、絶対我慢出来ない・・・。」

「・・・・・・。」


・・・なんて、なんて我が儘な、男なんだ・・・・。

そしてなんて強い男。
男同士の時はそれを言い訳にして、女になればそれを理由にして、
何の行動も起こさなかったボクとは雲泥の差。


頭の片隅で妙に冷静にそんな事に感動しながらも、身体は進藤に強く抱きしめられて、
気が遠くなりそうな、そのまま射精してしまいそうな幸せを味わっていた。

射精・・・そうだ、胸!

自分の胸が進藤に当たっていると気付いて、血の気が引いた。
気持ち悪がられる・・・!



だが・・・何だか晒が・・・きつく巻いてあったはずの晒は、たゆたゆとたるんでいた。
力を抜いたら落ちてしまいそうな。

さり気なく手で触ってみると・・・


胸は、洗濯板のようにぺたんとしていた。



治っ・・・た?



・・・一体どうした事だろう。
股間も、触って確かめなくても分かる。その重み。存在の主張。

・・・・・・。


「どうしたの?」

「・・・ん・・・いや。」

「変なの。」

「・・・・・・あのな、進藤。」

「何?」

「もしボクが・・・」


女でも、キミは愛してくれた?好きだと言ってくれた?
それとも、女の方が良かった・・・?


・・・いや、今となってはそんな事に意味はない。



「何だよ?」

「いや、ボクも、ずっと、ずっと、言えなかったけれどキミが好きだった。」

「・・・!」


進藤は泣きそうにな表情になり、その頬は見る見る真っ赤になった。
そして、もう一度キスをしてきた。




   王子様の心を射止める事は出来たけれど。
   人魚は人魚に戻ってしまいました。



・・・いや、違う。物語の結末はそうじゃない。


どちらかと言えばボクは長い長い夢の中にいた。


女になっていた事も、緒方さんとの事も、
みんなきっと夢の出来事だったんだ。


バラとトゲに封じ込められた城の奥深くで夢を見ながら昏々と眠り続け。

百年目の王子のキスで目が覚めた、



ボクはいばら姫。






−了−







※90000hitを踏んで下さいましたいばらさんに捧げますリクSS。
 リクエスト内容は 


 ヒカル同様、アキラが突然女の子になっちゃって、
 初ピーのお相手は…予定通り ( いつの間に予定?) オガタンでお願いします。
 シチュは和でも強でも ( どちらかというと強の方が…キャッ☆彡 )
 で、〆はヒカアキでお願いします。
 出来れば入れて欲しいシーンがあるんですが、
 アキラがヒカルを殴る…それも人前で。

 です。拙作サイエンス・フィクションを読んで下さって考えて下さったようです。
 本来アキヒカさんなのに男前なリク(笑)ありがとうございます。

 確かに同じ「突然女の子になっちゃう」でもアキラさんではピカと全然行動違うでしょうね。
 私はアキラさんは現実主義者っぽいし、きっと往生際悪く「認めない」んじゃないかと考えました。
 緒方さんはいばらさんの作品を参考にさせて頂いたのですが、結果的にどちらかというと
 ま逆の変態さんになっちゃいましたね。えへへ。
 あと和姦か強姦かも微妙。てへへ。

 「アキラさんの反応」「オガタンに強姦される」「ピカを殴る」この三つの要素を入れようと思うと
 思いがけず長くなってしまいましてリク初の前後編。
 大変楽しみながら書かせていただきました。

 いばらさん、キリ御申告&ナイスリクありがとうございました!





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送