梅雨やすみ 5
梅雨やすみ 5








しかし……出来るかなぁ?あの体。
と、シャワーを浴びながら自問する。

無理。

……と言いたい所だけど、ちょっと興奮している自分がいて、驚いた。

十代の頃は、女の子の代わり……じゃないけど、どこかそんな風に
思ってた部分がある。
塔矢が女の子だったらもっと最高だなって、思ってた気がする。

でも、現在の、あの男でも惚れ惚れするような体を見ても……、

自分でも気持ち悪いんだけど、憧れもするし自分の物にしたいって気持ちが
湧いてくるんだ。

あのギリシャ彫刻みたいな体を組み敷く。
ところを想像すると、オレは。

タオルを巻いても、勃起は隠しきれなかった。




部屋に戻ると、塔矢は既にベッドに入っていた。
オレの股間に目を遣り、少し見開いた後、今までで一番っていう位
男前な笑顔を見せる。


「おいで」


毛布を捲って呼ばれて、なんか、オレの方が流されてるみたい。


「キミも何か、運動してる?」

「いや」

「その割に、大人の男の体だね」

「オレんち、じーちゃんが畳屋じゃん?時々荷物運び手伝わされるだけ。
 あ、ロードバイクもやってるけど」

「キミ、バイクの免許も持ってるのか」

「いやいや!ロードバイクって、スポーツ用自転車だよ」

「ああ、ロードレーサーの事?」

「懐かしいな、その呼び方」


そんな雑談も、照れ隠しだ。
お互い赤い顔をして、筋肉を触る振りをしながら肌をまさぐり合う。

塔矢の肌の手触りは、十年前と全く変わっていなかった。


「おまえも、大きくなってるな」

「……それは、まあ、ね」


覚えがあるようなないような、手触り。
熱く、脈を打つ肉の棒。

常に相手を射るような目をして。
タイトル戦の時以外も、最近は指導碁なんかでも和服を着るようになって。
きれいなまま、でも立ち居振る舞いはどんどん塔矢行洋化している塔矢の。

セックスなんかしません、ペニスなんか付いてません、みたいな顔を思い出すと、
ぞくりと、興奮した。


「進藤」

「何」

「その……舐めたり、した方がいいか」


……は?


「いやいやいや!いいって!おまえにそんな事させられない。
 っつーか、あの頃頼んでも滅多にしてくれなかったじゃん」

「二十六のボクなら、出来る気がする」

「いいよ。無理すんなって」

「でも。キミはいつも、してくれるのに」


あー、そうだったな。
そう言えばオレ、男の物を……舐めてたんだな。
今にしてみれば、よくやる、と思うけど。

塔矢のは、きれいだった。
塔矢を良い声で鳴かせる為なら、どんな事でもした。


「オレはただ、おまえとこう出来たら、いいよ」


そう言って指を舐め、塔矢の尻に持って行く。
固く閉じたそこを、ぬめりでこじ開けると塔矢は「あ」と、小さいけれど
脊髄を駆け上がるような喘ぎ声を上げた。


「ちょっと、ごめん」

「こっちこそごめん」

「え?」

「もう限界」


そう言って先を押しつけ、ぐい、と腰を進めると、一瞬にして塔矢の足の筋肉が張った。


「ああっ」


塔矢の中、こんなにキツかったっけ……。
女の子とばかりしていて、男の感触を忘れていた。


「ごめ、ん!痛い?」


塔矢は眉を寄せて、涙の溜まった目を伏せる。
その瞼に皺が寄っていて、ああ、やっぱり十年は経ってるんだな、と
改めて思う。
こんなに色っぽい皺が出来るなんて。


「正直、痛い」

「ごめん」

「まるで、初めてした時みたいだ」

「……」


そうだった……久しぶりなんだから、そりゃ、固いよな。
しまった。かも知れない。

と思いながらも、腰を止める事は出来なくて。
塔矢が文句を言わないのを良い事に、じわじわと、深く繋げて。
お互いが密着した時、思わず息を吐いて、塔矢の太股をぎゅっと抱きしめてしまった。


「……進藤?」

「うん?」

「繋がったね」

「うん」


なんか……恥ずかしいな。
でも久しぶりの感触に、なんか、何とも言えない感慨を覚える。


「進藤」

「ん。……あ、動いて良い?」

「その前に、確認したい事がある」

「うん。何でも言ってくれ」


目を開けると、枕に頭を埋めた塔矢の顔。
やっぱり、男前だなぁ。
王子と言われるだけの事はあるわ。

白い枕と白いシーツに、切りそろえられた黒い真っ直ぐな髪が広がる。
白い顔、興奮しているのか赤みを増した唇は、作り物みたいだ。

ちょっと似た奴を、オレは知ってる。
すごく昔。
こんな、穏やかな優しい顔をしていると、まるで……まるで。


塔矢はしばらくオレの顔を見た後、そっと口を開いた。


「なぁ」

「ん」

「実は僕たち、今は付き合ってないんだろう?」






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