図書館の冒険 4
図書館の冒険 4








「でも……一体、どうしてこんな事が起こるんだろうな?」

「思い出した事があるんだけど」

「ん?」

「この図書館、心霊スポットだっていう噂があるんだ」

「ま、まじで?!」


そんなに大げさに驚かなくても。


「そういう事はもっと早く言えよ!知ってたらこんな所来なかったのに!」

「いやいや、冷静に考えろよ」

「何を!」

「多くの人に幻覚を見せる場所、というのは確かに存在する」

「……」


進藤は無言で肩を竦め、腕を摩る。


「そういう場所は、大概磁場が特殊なんだ」

「磁場って何だ?」

「地球の磁力なんだが……まあ、ムラもあるし、時間変化もあるけれど
 磁場が強い場所は、脳にも影響を与えるんじゃないかという話を聞いた事がある」

「うん」

「つまりここでは今、何か強い磁場が発生していて……あんな空間移動とか
 時間移動みたいな事をしてしまうんじゃないだろうか」

「良くわかんねーけど……幻覚を見るのと変な所に移動しちゃうのと
 関係なくね?」

「……ないね。まあ、幽霊を見るのとは方向性もレベルも違うしな」


まさか進藤に突っ込まれるとは。
こんな事ならもっと深く考えてから口にするんだった。
恥じていると、目の前の進藤の方が、ぽかんと口を開く。


「進藤?」

「今、何て言った?」

「え……『幽霊を見るのとは方向性もレベルも』」

「そうか!幽霊か!」


進藤は、さっきあれ程怖がっていたのに目を輝かせた。


「えっと、住宅地図、さっきどっかにあったよな?
 あれは……1998年……」

「おい、何をするつもりだ?」

「ちょっと行ってみたい過去があるんだ」

「いや、さっきもう過去に行かない方が良いって話したばかりだろ?」

「あと一回だけ!いや、二回……」


大きく溜め息を吐いて、進藤の肩を掴む。


「進藤……」

「頼む!本当に、これだけは、」

「進藤!」

「磁場なんか関係ない!多分この事は、オレをタイムスリップさせる為に
 その為に起こった事なんだ」

「は?何故、」

「とにかく!大丈夫だ。さっきの人殺し、オレが見えてなかったみたいだ。
 それはおまえも気付いただろ?」


確かに。
あの男なら、ボク達が見えていたら、声が聞こえていたら、
絶対に投げた首飾りを外さなかっただろう。

それに……進藤がこういう訳の分からない事を言い出したら、絶対に引かない。
プロになった頃、不戦敗を繰り返した時もそうだった。
僕は、こっそり溜め息を吐く。


「……で。いつに行きたいんだ?」


進藤は、泣きそうな顔で微笑んだ。


「サンキュ。ええっと、平安時代と、1998年」

「何だそれ……」


1998年はまだしも、平安時代というのは全く解せない。
日本史にも興味なさそうだし。


「平安時代は、何年のどこに行きたいんだ?」

「えっと……」


進藤は首をくりくり回した後、頭を?いた。


「わかんない……」

「おいおい」

「碁のイカサマを一つ、防げたらなぁって思ったんだけどな。
 あ、でもそれしちゃったら会えないか……でも……」


何やら分からない事をブツブツ言いながら、住宅地図が置いてある一角に
向かって歩き出す。


「じゃあ、1998年だけでいいや」

「何があったんだ?」

「それは言えない」


言いながらもいそいそと巨大な本を取り出し、
床にべたりと置いて広げる。


「ええっと三丁目三丁目……よし!ここだ!」


進藤が指でぴしり、とその場所を指差すと……


「お!ドンピシャだ!」

「ここは……どこだ?」


また少し揺れた感じがして、ぐにゃりと曲がった空間の先にあったのは、
今までいた書庫と大して印象の変わらない場所だった。
暗く、閉じられていて色々な物がごちゃごちゃと積まれた
少し黴臭い部屋……。


「じいちゃんの蔵」

「キミの?」

「そう」

「合ってるなら良いけど、日時は大丈夫なのか?」

「……!」


進藤が頭を抱えたのに、また溜め息を吐くと、
どこかで少し騒がしい気配がした。


「誰か来た!」


慌てて隅に寄り、息を殺す。


「ヒカル〜やめておこうよ」

「大丈夫大丈夫!絶対気がつかねーって!」


床に開いた穴からひょいっと顔を出したのは、進藤自身……
幼い、恐らく僕と出会った頃の進藤ヒカルだった。






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