シリコン・ラブ1








がこん。

金型から外されて、ボクは生まれた。

まだ熱が冷めない内にバリを削られて、後頭部から体の中に手を突っ込まれる。
股間と尻に別パーツを付けられ軽くて丈夫なカーボンの骨が慎重に入れられた。
関節の位置に合うように微調整した後接続し、発泡ウレタンで固定しながら
「肉」部分を埋めて行く。

それから爪をつけられ、乳頭や唇、微妙な部分に塗装を施しやっと九穴を切り抜かれた。
そう、実はこれらは手作業だ。
職人の手が頭の内側から歯と口腔を接着し、特殊な熱針で丁寧に睫毛と眉毛を植え込んで行く。
(眉毛まで植毛されるというのは、ボクが余程の高級品だという証拠だ。)
最後にシリコンアイが取り付けられた。

・・・やっと見えた。
目の前の男性は難しい表情でボクの顔を覗き込んだ後、もう一度頭の中に手を突っ込んで
眼球の向きを調節した。
ああ・・・焦点が合った。よく見えるよ。

その後股間や尻に指を入れられて具合を確かめられ(感じてしまうじゃないか)、
頭を接着されて、鬘をつけられ、左右バランスを見るために大鏡の前に連れて行かれた。



ボクのふるさとはUS。シリコン製の一体成型ラブドールtype-Bright。

珍しい少年タイプのボディで男の物もちゃんと付いているけれど、膣もある。
お尻にも入れられる便利物だ。
その代わり、口は(一応少し開いているけれど)他のに比べて小さいから勃起した物を
飲み込むのは無理かも知れない。

鏡の中には真っ直ぐな黒髪が鬱陶しい程の少年が映っていたが、おじさんが鋏を入れてくれて
目の上と肩の上で切りそろえられ、オカッパになった。
現れた瞳はブラウン。
東洋人だな。


・・・下は、いいの?

「ああ。アンダーヘアはシェイブドだそうだ。」

・・・そう。少し変わった人かも知れないね。

「まあな。しかしたんと可愛がって貰うんだぞ。」


ボクみたいなエッチな商品を作っている割りに、このおじさんからはいやらしい匂いがしない。
本当の息子にするようにぽん、ぽん、とボクの頭を叩いてから梱包の準備を始めた。








長旅の末、辿り着いたのは日本という国のマンションの一室だった。
ボクのご主人様は壮年の男性で、一人暮らしらしい。
過去に生身のパートナーがいたのかどうかは分からないが、
そんなに変質者という感じはしなかった。

初めは癇性に肌を拭いてばかりいたが(最初は油が分泌されるのは仕方がない)
すぐにボクの体に夢中になった。
ローションさえ使って貰えば人間の女性にも負けるとは思わない。
前に入れたり後ろに入れたり、ボクの物にローションを塗って自分の尻に入れたり
この年でお元気すぎないか、と心配してしまう程にボクで遊んだ。

そういう目的で使っていない時も、クラシックな男の子向きの服をいくつもオーダーして
着せ替えてくれたり、髪を撫でたり化粧をしてみたり、ただうっとりと眺めたり。
ボク達はそれなりに楽しい時を過ごせたと思う。


しかし蜜月は長く続かなかった。
自分のせいだとは思わないが、半年後にご主人様がぽっくりと亡くなってしまったのだ。





そういう訳で先行きに少し不安を覚えていたが、次に連れて行かれたのは
大きな家だった。
畳の部屋に寝かされたのは床の上に置かれているようで少し不快だったが
人間達も同じ地面に座ったのでこんなものかと思えた。


「まぁ、本当になんてきれいなお人形。生きているみたいよね?」

「・・・そうだな。」

「叔父様も、どうして家にこの人形を引き取らせるのを迷惑だと思われたのかしら。」

「場所取りだからな。」

「いやだ、それならあの専門書のぎっしり詰まった本棚の方が余程でしょうに。
 ああ、寝かせたままじゃあ可哀想ね。そうだ、蔵に猫足の椅子があったわよね?」

「あれに座らせるのか?」

「ええ。今まで家に合わないから仕舞っていたけれど、この子を座らせるのならぴったりだわ。
 ・・・ねぇ?アキラさん。」

「アキラ?」

「誰かに運んでくれるようにお願いして来るわね。」


女の人が去った後、残された男性は腕組みをしてじっとボクを見つめた後、
困ったように人差し指で顔をぽりぽりと掻いた。

ああ、なるほど。
この男性はボクの用途を知っている。
けれど恐らく奥さんは、気が付いていない。単なるリアルな人形だと思っている。
で、堂々と飾ろうとしているのでこの人は困っている訳だ。


「それにしても。」


前のご主人様の遺書らしいものを手に取って、読み直す。


「『アキラ』ではなく『アキヲ』と書いてあるように思うのだが・・・。」


ボクに見せるようにひらりと顔の前に翳した。
一瞬だったが、「息子のように可愛がっていたのでどうか捨てないで欲しい」とか
「こんな人形があっては体裁も悪いだろうし迷惑かもしれないがどうかアキヲを」という
文が見えて、初めて見たご主人様の字は思ったよりも悪筆で、思わず涙が出そうになった。
勿論人形だから出ないけど。

確かにボクはアキヲと呼ばれていた。


「いずれにせよ・・・ううむ・・・。」


偶に夢中になると、ご主人はアキコと間違えて呼んだりした。

後に知ったのだがさっきの奥さんは「明子さん」と言い、前のご主人の血の繋がった姪御さんらしい。
そう言えば、ボクと彼女は少し顔立ちが似ている、ような気がする。
まあどうでもいいけれど。





それからしばらくは平穏な日々が続いた。
ボクはヨーロッパ風の椅子に座らされて床の間の横に置かれ、大事にされていたと思う。

着替えさせようとしたお母さん(明子さんをそう呼ぶことにした)をお父さん(同じく)が
慌てて止めたり、お弟子さん(お父さんは囲碁というゲームの達人らしい。)に見られて
戸惑われたり怖がられたり、面白いことが色々とあった。

だけれど。

ボクは、本来の用途では全く使われなかった。
それがご主人の意向なら仕方がないが、やはり望まれてこの家に来た訳ではないな、と
思い知らされ、大事にはされても愛されてはいない、という気がして寂しい。
愛されないラブ・ドールなど、存在価値のない、ガラクタも同然だ。

一度お母さんの留守にお父さんが風呂に連れていってくれた時、少し期待したが
局部に指を入れはしたものの、抱きはしなかった。
万が一前のご主人様のものが残っていたらそこから腐ったり匂いがするかも知れないと
心配になっただけらしい。

着物の裾を捲り上げてステテコ姿でボクを洗ってくれたお父さんの悪戦苦闘ぶりは面白かったけれど

やはり、ボクは寂しかった。





「へぇ〜!これが噂のアキラかぁ!美少年だなぁ!」


極力人に見せないようにはしているようだが、やはり前に見た人が言ったのだろう。
その日来た芦原という人は、手放しで感心しているようだった。
その後ろでは、白いスーツを着た人が仰け反っている。
ボクの用途に気付いた人と、気付かない人の反応を見るのは楽しい。


「ねぇ?緒方さん。本当の人間みたいですね!」


無邪気に振り返る芦原さんに、緒方さんは答えることが出来ず、額に汗をかいていた。


「すごいなぁ。睫毛まで植わってる。歯も・・・歯はいらないかな。」


・・・って、え?
最後は小声で言うと、芦原さんはボクの耳に口を寄せて


「・・・一度お願いしたいな。」


と囁いた。・・・侮れない。





それからしばらくして、お父さんとお母さんが長期の旅行に行ってしまった。
その留守にこの家の管理を任されたのは、件の芦原さん。

ウキウキとやって来て、掃除を済ませると早速ボクの服を脱がせにかかった。


「アキラくん〜アキラくん〜♪色が白いねぇ。」


シャツのボタンを外しながら、ボクの下唇に口をつける。
前のご主人が、舐めるとやはり少しゴム臭いと言っていたので、気になる。


「塔矢先生にも可愛がって貰ってるの?」


お父さん?お父さんは・・・抱いてはくれないよ。
よく弱ったような顔をしている。


「おほほっ!すごい。肌触りも本物みたいだ。」


それには自信があるんだ。何せ、それが全てみたいなものだからね。
芦原さんはボクのズボンと下着を脱がせると、顔を近づけてつくづくと観察した。
あんまり見ないでよ、恥ずかしいから。


「わ・・・パイパンかぁ。しかも両方ついてるんだ。お上品そうな顔していやらしい体してるんだねぇ?」


ありがとう。褒め言葉と取っておくよ。


「さて・・・どっちから貰おう?」


足を広げ、よく出来てるなぁ、と何度も言いながら、指でなぞる。
両手の指を膣に入れて広げ、うわお、と嬉しそうな悲鳴を上げながら楽しんでいた。
まあ最初は誰でもそうだと思うけどね・・・もうそろそろ。


「よし!じゃあ・・・いただきます、と・・・。」


満足行くまで手で触った芦原さんは鞄からローションを取りだし、まず前の方に
垂らし込んだ。
鼻歌混じりにカチャカチャとベルトを外し、ズボンを下げようとした所で・・・


「こらっ! 何やってる!」

「ひっ!」


悲鳴を上げて尻餅をついた。
玄関に鍵掛けてなかったのか?不用心というか、粗忽な人だな。


「お、緒方さん?!」

「芦原、さてはおまえ、アキラくんに良からぬ事をしようとしていたな?」

「いえ!いえ、これは違っ、」

「そこまで脱がせておいてそれはないだろう。」

「〜〜〜〜!」


今にも失神しそうな程怯えている芦原さんに、しかし緒方さんはニッと笑って見せ、


「・・・そういうのは、兄弟子が先だろう・・・?」


また怖い顔に戻って顎をしゃくると、芦原さんは慌ててズボンを持ち上げながら
どたばたと逃げて行った。





「さて・・・。」


足を広げたまま投げ出されたボクを見下ろし、緒方さんは煙草に火を点けた。
灰は落とさないでよ。シリコンはデリケートなんだから。


足の間にしゃがみ、無表情のままいきなり指を穴に突っ込む。
あ・・・。


「ふむ。」


小さく頷くと、携帯灰皿に吸いさしを突っ込んで上着を脱いだ。
ネクタイを弛め、前をくつろげる。


「女と違って、面倒がなくていいな。」


うん、そうだよ。食事もしないしプレゼントもいらない。
最初だけ少しお金が掛かるけど、あとは何も文句言わず、いくらでも、何でもさせるよ。

前のご主人様は人にするように、最初に撫で回したり前戯らしき事をしたりしたけれど
緒方さんは何も言わずいきなり突っ込んできた。


久し・・・ぶりの、感覚・・・。
てゆうか、ボク、前のご主人様しか知らなかったけれど・・・。
硬・・・。

思わず夢中になって、締め付けてしまった。


「なんだ?おまえ、こうされるのが好きなのか?」


うん、好き・・・。されるのが好き。愛されるのが好き。


「だが後ろも試してみなければな。」


一旦抜いてボクをひっくり返し、這わせて今度は尻の穴に入れる。
やっぱり凄く気持ちが良くて、人間だったらきっと淫らに腰を振った所だ。
緒方さんはそのままボクの尻を掴んでスパートをかけ、中で出した。





「無理ですよぉ。」

「何故だ。ちゃんと洗剤できれいに拭いたぞ。」

「そういう問題じゃなくてぇ。」


緒方さんはボクを裸にして横たわらせ、芦原さんを呼んできた。
で、目の前で抱け・・・って言われてもそりゃ芦原さんも困るだろうな。
だがその弱っている様を見るのが楽しいボクも少し性格が悪い。


「何せ師匠の物に手を付けてしまったんだからな。
 おまえにも共犯者になって貰わなければ枕を高くして寝られない。」

「そんな勝手な・・・。」


だが、促されて萎えた物をボクの口に含ませると、「うっ」と呻いて
すぐに硬くなってきた。


「やれば出来るじゃないか。」

「・・・・・・。」


泣きそうな顔をしながらもボクの股にローションを垂らし、躊躇いながら挿入したが・・・
その途端に、人が変わった。

緒方さんを忘れたように、最初から激しく腰を振り始める。
すぐに息が荒くなり、一休みして腰を抱え直し、また動き始める。

いくばくもしない内に首を仰け反らせ、芦原さんは終わった。


「早いな。」

「早く・・・したんですて!」


しかし、中で・・・一旦萎えかけたのにまた膨らみはじめてる?
と思った途端、慌てたように抜いた。







「アキラ・・・?」


翌日、芦原さんは一人で来た。
ニヤニヤしながらボクの側に来て、手の甲で頬を撫でながら覗き込む。


「あれ・・・?昨日と、顔が違う・・・?」


そんな訳ないだろう、人形なんだから。
と思ったが、仏頂面な心が少し表面に滲み出て仏頂面になっているのかも知れない。

芦原さんは首を傾げながらボクを横たわらせて、服を脱がせた。
今度は後ろ向きにして尻にローションを塗り、挿す。


「アキラ・・・アキラ・・・。」


呟きながらボクを揺らしたが、途中で抜いて仰向かせ、また首を傾げながら昨日と同じ体位で
前に入れてきた。


「アキラ・・・?」


やはり不審そうな顔は変わらない。


「どうして、そんなに不機嫌そうな顔なんだ?」

「体も、昨日の方が良かった。」

「緒方さんがいる時はあんなに色っぽい顔で。」

「緒方さんの目の前でした時は、中もあんなに良かったのに。」


眉毛を八の字にして情けない顔をしながら、体は逆に乱暴に、闇雲に、突きまくった。


「どうして・・・だ?緒方さんがいないと、駄目なのか・・・?」


ボクはラブ・ドール。
求められれば誰にでも足を開く。

だからそれはボクのせいじゃないよ。
それはあなたの心の中にある闇のせい。

弱い男。
やっぱりボクは、緒方さんの方をご主人様と呼びたい。



芦原さんは慌ただしく動いて、呻きながらイッた。
それから一人で気まずそうに服を着て、そそくさと後かたづけをして去っていった。






その後は、緒方さんだけがこっそり忍んで来るようになった。
相変わらず前戯も何もなく、正に性欲処理という感じの行為だったが
それでもボクに執着してくれているのが分かってボクは満足だった。

あとそういう行為の前や後、ボクの前で碁の棋譜を並べる時もある。
この部屋にさえいれば、例え芦原さんが来ても邪魔しないからだろう。


・・・あ・・・そこは、5の六なんだよな・・・。


思わず心の中で呟く。

これは全く役に立たない超能力で、何故こんな力があるのか自分でもさっぱり分からないが
ボクにはご主人様の知識をコピーする力があった。
前のご主人様の専門であった心理学についても一通り語れるし、
一応今のご主人であるお父さんに近い棋力も身に付いている筈だ。

だからと言ってこんなの全く役に立たない。
この手で碁石が握れる訳でもあるまいし。

せいぜいこんな時、心の中で一人突っ込むだけ。


・・・そうか、そういう手もあったか・・・。
・・・緒方さん、実は碁も結構強いんだね?


ボクの声は届かない。
だから、一人ごちてみる。


・・・いっそ、あなたの家に連れて帰ってくれればいいのに。


「駄目なんだ。オレもいつもおまえと一緒にいたいのは山々だが、独身男が
 自宅におまえのような人形を置いていては、洒落にもならない。」


ふと、顔を上げて緒方さんが話し始めた。
通じた・・・か、碁盤を見つめながら同じ事を考えていたか。


「まあ・・・先生が留守の間はせいぜい可愛がってやるから・・・。」


言い訳のようにぼそぼそと呟いた緒方さんが、
初めて少し詰まらない男のように思えた。








続く







※持ってませんから。

  あと二穴責めは自粛しました。(ただでさえ長いんで・・・)





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