開かずの間/関西棋院Vr. 進藤と大阪に出張に行くことになった。 北斗杯後のイベントで、ボクは社との対局、進藤はその解説と指導の仕事だ。 お客さんも多くない筈だし、どちらかというとお遊びの要素が強いので 進藤もボクも緊張もせず観光気分で前日大阪に入った。 棋院近くの淀屋橋のビジネスホテルにチェックインし、ツインの部屋に荷物を下ろす。 「ケチくせーよな。シングル取ってくれてもいいのに。」 「仕方ないよ。ボク達はまだ若手も若手だし。」 と言いながらも正直、他人と同じ部屋というのは気を使うな、と思った。 しかし同年代で、しかもその中では一番知っている進藤なので困るという程でもない。 ボク達は寝る前に一局打ち、真夜中前に就寝した。 翌日は早めに行って、社と会った。 「おはようさん。」 「おはよう。今日はよろしく。」 「久しぶり、でもねえよな。」 「ああ。こんなに早よう一緒に仕事する機会が来るとは思わんかった。」 社は笑っていたが、やはり対局を控えているからか少しぎこちないようだ。 「今日は本気で勝たして貰うで。こっちがホームやしええ格好さして貰わんと。」 「北斗杯でもボク達がホームだったよね。」 「嫌な事思い出させんなぁ。」 と言いながらもやっと本気で破顔する。 いい対局が出来るかも知れない。 それから一緒に事務局に挨拶した後、他の棋士との顔合わせまで棋院の中を案内して貰うことになった。 「あははっ塔矢見てみろよ。『阪神タイガース碁罫紙』だって!社も持ってんの?」 「アホ。オレはヤクルトファンや。」 「え!大阪人なのに!」 「大阪人はみんなトラキチでバファローズファンなんかい。」 「違うの?」 馬鹿馬鹿しい会話をしながら、七階から順々に階段を降りる。 「んで今日の仕事は七階でぇ、六階は棋院いうても・・・。」 ・・・その階は、何か暗い感じがした。照明ではない。 何か・・・。 「なあ、社。あの部屋は?」 進藤が指さしたのはエレベーターからは一番遠い端の部屋。 「ああ・・・。」 社の口が止まったのに、進藤はそちらに向かって小走りで駆けて行く。 確かに、その部屋は少し他と違った。 建物の中だと言うのに扉の両脇に盛り塩がしてある。 誰かに踏まれたのか、片方が潰れていた。 「これ、何?」 「塩だろう。」 「え?何でこんなトコに塩が置いてあるんだ?」 「お祓いか何かだと思うけど。」 二人で社の顔を見る。 社は、 「4〜5年前、ここで女流棋士が亡くなったからちゃう?」 「え!うそ。」 「5年前というと・・・野田絵美五段?」 「ああ、よう知っとるな。まあそういう訳やからここは『開かずの間』やねん。 オレらには関係ないから気にせんでええ。」 「ふ〜ん。鍵掛かってるのかな?」 進藤が何気なく扉に手を掛けた時、社の表情が一変した。 「あかん!『開かずの間』やって言うとるやろ?用もないのに触んな。」 進藤はビクッとして慌てて手を離した。 だが、その時ボクは見てしまった。 その勢いで1センチほど隙間が開いたのを。 その後みんなで近くのレストランに行って早めのお昼を食べた後、七階に戻った。 いつもは関西棋院の棋士が数人で指導にあたっている囲碁サロンらしいが、 今日は加えてボク達がゲストのような形で呼ばれ、ちょっとした公開対局になる。 「社くん、負けたらしばくで。」 「ほんなん言うたら塔矢三段が可哀想やがな。」 「わー、ホントにみんな関西弁だ。緊張するなぁ。」 「進藤初段はこっち初めてでっか?」 「あ、はい。あんま東京から出た事なくて。」 お客さんも来てがやがやと始まった対局に、指導碁担当棋士がちゃちゃを入れるような形で 面白可笑しく解説していく。 進藤も悪のりして、社やボクの手を貶したりしながら進んで行ったが。 だんだん場が静かになって行った。 周囲も確かに鎮まっているのだが、ボクの頭の中が澄んできたのだ。 周りの景色が消える。 社の姿が、いや自分さえ消える。 碁盤と、それを打つモノだけの世界になる・・・。 久しぶりに恐ろしい程集中できたいい対局だったが、結果としてボクは負けた。 それでもこれが公式戦でないのが残念な程だ。 「いや、ありがとう。本当にいい対局だった。」 「ああ。」 「塔矢先生、気ぃ使こて手ぇ抜いたんちゃいまっか。」 「そんな事しません!」 「冗談でんがな。それ位わいらにも分かりますて。」 それから5時まで和やかに検討して終わり、ボク達はエレベーターに向かった。 「この後どないする?せっかくやからみんなで梅田でも出てメシ食うか。」 先輩の棋士が声を掛けてくれてそんな話になっていたが進藤は、 「ゴメン、オレ階段で行くから後で事務局で。」と一人で階段に向かった。 「なんや?あ、オレも着いてきますんで下で待っといて下さい。」 社も行ってしまい、ボクは慣れない人たちと一緒にエレベーターに 押し込まれる形になった。 「で。さっきはどないしたんや?」 落ち着いた店に入って、漸く場が打ち解けて来た所で棋士の一人が進藤に声を掛けた。 「いや、『開かずの間』が気になって。」 「ああ・・・。」 その棋士も社のように、言葉を濁した。 どうもみんなあまり『開かずの間』について語りたくないようだ。 「別に何もあらへんやろ。」 「天満さんは入った事あるんですか?」 「いや、開けへんはずやし。」 「でもさっき、出て来た人いたよな?」 社に語りかける進藤。 その瞬間、気のせいか空気が凍ったような気がする。 みんなが怖いくらいの早さで社に注目した。 「え・・・?」 「ほら、さっき。福島九段と森ノ宮八段が出て来たじゃん。」 「・・・・・・。」 「エレベーターの扉が閉まる時だったから、ちらっとしか見えなかったけど 間違いないよ。オレ、森ノ宮八段とはリーグ戦で対局したことあるもん。」 「・・・進藤くん。」 「なんか潰れた盛り塩なおしてたよ。」 「進藤くん、それはないわ。」 年長の桃谷さんが静かに、だが断言的に言った。 「え。何で?」 「ここだけの話、その二人ごっつ仲悪うてな。個人的に打ったり会ったりするやなんて考えられへん。」 「だって、オレ見たもん。社だって見たよな?」 「・・・いや。」 「は?何言ってんの?だって、一緒に見たじゃん。」 「オレは見てへん。」 「嘘つくなよ!おまえだってちょっとびっくりした顔してたじゃん!」 「まぁまぁ。」 駄々っ子のように言いつのる進藤を、桃谷さんが笑いながら宥める。 「多分進藤くんの見間違いやで。それか・・・幽霊やったりしてなぁ。『開かずの間』だけに。」 「桃谷さん、それ失礼やなぁ。」 「ホントだよ。オレ見たのに。」 「いや、福島先生も森ノ宮先生も生きとるのにって。」 「そっちかよ!」 笑いに紛らわして、進藤の見間違いだろうという方向に進められているようだ。 進藤もそれ以上押すのは得策でないと判断したのか、その話をやめた。 福島先生が、突然引退されたと聞いたのは東京に帰ってからだった。 「え、キミ森ノ宮先生に電話したのか!」 「うん。だって気になるもん。『開かずの間』から出てきた後片方が急に引退なんてさ。」 「急と言っても結構なお年だから隠居したくなったんだろう。」 「普通引退ってなかなかしねえだろ?おまえのとーちゃんじゃあるまいし。」 塔矢行洋を「おまえのとーちゃん」と呼ぶのは進藤の悪い癖だが、 父ではなくボクを中心にしてくれているのが少しくすぐったくて、注意出来ない。 「で。キミはまだ『開かずの間』からその二人が出てきたと信じているのか?」 「ひでえ。おまえも信じてくれてないの?」 「森ノ宮先生はなんだって?」 「・・・入った事もないし、ここ数年福島先生と個人的に会った事もないって。」 「じゃあやっぱりキミの見間違いだろう。」 「違うって。」 「社もそう言っていたじゃないか。」 「ん〜、それが謎なんだよな。どうして嘘つくかなぁ。」 ボクからすればどうしてキミがそんなに『開かずの間』を気にするのかが謎だ。 でもそう言えば。 「・・・ボクもちょっと気になった事があった。」 「何?」 「社が、『中で野田絵美5段が亡くなった』って言ってたよな?」 「うん。」 「ボクの記憶では・・・野田さんは、ただ行方不明になっただけだと思うんだが。」 「えっ!」 「いや、定かではないが、棋士の事件なんで子ども心に印象に残っている。」 「それって・・・。」 「分からないよ。その後あの部屋で死体で発見されたのかも知れない。」 「でもそれだったら余計に強烈に覚えてね?」 「さぁ・・・親がボクにそのニュースを見せないようにしていただけかも知れないし。」 と言いつつ、自分でもあまり信じていなかった。 ボクの両親は子どもの教育にそんな小細工をする人ではない。 普通にニュースも見ていたし、新聞だって子どもの頃から読めと言われたものだ。 進藤は、深く物思いに沈んだようだった。 それからまた暫くその事は忘れていたのだが、父が帰国した折りにふと、 関西棋院にある『開かずの間』を知っているかどうか聞いてみた。 「ああ、言われてみればそのような部屋もあったように思うが。」 父も、十代の頃初めて関西棋院に行った時、通りすがりにちらっと 盛り塩を見ただけだと言う。 ・・・って、え? 「盛り塩?」 「ああ。屋内で妙な事をする、と思ったものだ。今でもあるのか?」 「・・・ええ。ありましたよ。」 ・・・社の話では、「5年前の事件」以来、といったニュアンスではなかったか? 「その部屋で何か不幸でも?」 「いや。聞かなかったが。」 あの部屋には、少なくとも三十数年前から盛り塩がされている。 そして、当時から『開かずの間』だったのだ。 『開かずの間』で死んだ女流棋士。 『開かずの間』から出てきた直後引退した棋士。 この意味は、何だ? それを進藤に言ったら、息を呑んだ後目が輝いた。 言わなければ良かったかも、と少し思った。 二人とも手合いが休みの日は碁会所に来ると思っていたのに、 ある日、進藤はなかなか来なかった。 しかし閉店間際になって息を切らしながら駆け込んできた。 「お、遅くなってゴメン!ま、前言ってた、検討だけでもしよっか。」 「ああ・・・今日は何か用事があったのか。」 「うん。」 そのまま何も言わず席に座ってペットボトルを取り出し、ごくごくと飲み干す。 その後、進藤は改まってボクを見た。 「・・・関西棋院に行って来たんだ。」 「えっ。日帰りでか?」 「ああ。明日仕事だもん。」 いやだからって。 というか何しに。 「『開かずの間』に、入ってみた。」 「え。止められなかったか?」 「だから廊下に人がいない隙にさ。」 そんな悪戯をしに、わざわざ大阪へ?新幹線で? 「・・・大胆な事をする。」 「うん。ドキドキした。でも、あの部屋実は鍵掛かってなかったの、おまえも見ただろ?」 「ああ。」 子どものように目を輝かせて、でも勿体ぶって口を噤む。 ボクが聞くのを待っているのだと分かったが、やはり興味はあって聞いてやった。 「で、どうだった。」 「それがさぁ。普通の和室だったんだ。」 「和室か。」 進藤の話によると、期待したように(進藤が、だ)血糊が残っていた訳でもなく、 碁盤はあったけれど他に怪しい物もない普通の対局室か旅館のようだったらしい。 「あ、でもあの部屋、窓がなかった。」 「行燈部屋か。」 「そう言うの?窓があるっぽい所に障子はあんだけどさ、 開けてみたら壁だった。」 「何かの理由で塗り込めたのかな?」 「いや、そうじゃない。ちゃんと木枠もあるのにサッシは全然ない。 あれはな、『最初からそういう造り』なんだ。」 それは・・・どういう事だろう? 何の目的でそんな部屋を? 「けどな、あの部屋が『開かずの間』ってのは、やっぱり嘘だぜ。」 「どうして。」 「畳もキレイだったし、碁盤の上にも埃積もっていなかった。」 それから進藤はますます『開かずの間』に夢中になり、折に触れ何か調べているようだった。 碁が疎かにならないかと、ボクははらはらした。 「それがさぁ、酷いんだぜ?社に電話しても、『開かずの間』なんてない、忘れろって 言うんだ。『別になんてことのない部屋だ』って。」 「ならそうしろよ。」 「馬鹿いうな。んな事言われて引き下がれるかっての。」 「そうは言ってもとぼけられた以上どうしようもないじゃないか。」 「そうでもない。ここ何週間か図書館に行ってたんだけどさ。」 ・・・何をやっているんだ、全く。 「驚くなよ。あの野田さん。当時の新聞調べてもやっぱり『行方不明』で終わってるんだ。」 「え?」 「『関西棋院で死体が発見された』なんて記事、どこにもないんだ!」 それは・・・驚くが、なら社の記憶違いとも考えられる。 あるいは進藤が見落としたか。 「見落とすはずねえよ。それにな、地方紙で偶然別の記事も見つけた。 これは一般客なんだけど、何年か前に関西棋院からの帰りに行方不明になってる。」 「自分で失踪したんじゃないか?大勢の人が出入りするんだからそういう事もあるだろう。」 「でもさ。そもそも『関西棋院から出てきてない』って事も考えられるんじゃない?」 「馬鹿馬鹿しい。怪談じゃあるまいし。」 しかし、それはどことなく薄気味の悪い記憶となってボクの頭に残ってしまった。 全く、進藤がそんな下らない事に興味を持たなければ・・・。 だがどうした事か、それからしばらくして進藤は『開かずの間』の話をしなくなった。 気にはなったが、対戦成績も伸びている事だし藪の蛇を敢えてつつくこともあるまい、 と思って何も聞かずにおいた。 何ヶ月か過ぎ、前の出張碁が好評だったと言って、また進藤と二人大阪に呼ばれた。 ちらりと『開かずの間』の事を思い出したが、日々に忙殺されてもう記憶の彼方だ。 今度は社と進藤が対局し、前回のように検討して5時に上がる。 だが今回進藤は関西の棋士の食事の誘いを断り、ボクにも断らせた。 「偶には子どもだけで夜遊びしたいんですー。」 へらへらと言う進藤に、みんな「気持ちは分かる」と言って頷き、 酒を飲んでも飲まれるな、という言葉を残して去っていった。 だが、進藤は7階で他の人と別れた後、ボクの手を引っ張って階段に向かった。 「どこへ行くんだ?」 「分かるだろ?」 ああ『開かずの間』か、と思い、うんざりする。 だがもう飽きたんじゃなかったのか・・・? 久しぶりにその扉の前に立った。 相変わらず盛り塩がしてあって、どこか薄暗い不気味な場所だ。 中で人が死んだと聞いたからかも知れない。 進藤は辺りに人がいないことを確認すると、躊躇いもなく扉を開けた。 「おっとその前に。」 何故か盛り塩の一つを足で踏みつけて潰す。 「何をするんだ。」 「後で直すよ。」 「ボクは入らないぞ。」 「何。怖いの?」 「そうじゃなくて、入ってはいけない場所に入ってはいけないだろう? そうでなくともここは言わば余所のお宅なのに。」 「オレ、『開かずの間』の秘密が分かったんだ。」 「・・・・・・。」 「教えてやるよ。知りたいだろ?」 興味あるだろ?気になるだろ? 進藤の目が、怪しく光った気がした。 確かに気にはなる。 どうしたって解けない謎なら仕方ないが、それが分かったというならば。 ボクは、仕方なく頷いて進藤の後ろからその部屋に入った。 扉を後ろで閉められると、真の闇だった。 窓がないというのは本当らしい。 「おい進藤、電気。」 そういうと、フットライトだけがぼう、と灯った。 薄明かりに照らされた部屋は不気味ではあるが、聞いていた通り特に変わった所はない。 「上の明かりは点かないの・・・」 言い掛けた時、不意に後ろから締められた。 進藤が驚かせているんだと思いながらも、声も出せずにもがく。 そうして揉み合う内、足を払われて畳に転がされた。 「な、急に何するんだ!」 「そもそも。」 暗さのあまり顔は見えないが、覆い被さってきた影の声は間違いなく進藤だ。 「『開かずの間』はどうして『開かずの間』なんだと思う?」 「知るか!とにかくどけ!」 「・・・図書館でちょっと民俗学の本を見てね、」 言いながらボクのジャケットの襟を利用して首を締めようとする。 巫山戯すぎだろう!と思いながら不意をついて脱ぎ捨てた。 後から思えば失敗だったかも知れない。 「普通『開かずの間』ってのは、『開かない部屋』だよな。」 しゅる、と音がして進藤の手が離れたので体を起こそうと後ろに手を突いたら、 その手首を掴まれた。 「でもここみたいに『開く』『開かずの間』ってのも何パターンかあって、」 膝で肘を押さえられ、両手首を束ねて恐らくネクタイで縛られる。 そこでボクはやっと、空気の異常さに気付いた。 進藤は巫山戯て・・・いる訳ではない・・・? もしかして、5年前ここで同じ光景が繰り広げられたのでは と不意に思い付き冷水を浴びせられたように背筋が凍った。 「『あるはずのない部屋』という含みもあるらしいんだ。」 耳元で、囁くような声。 こんな事をしておきながら、いつも通りの進藤の口調なのが余計に恐怖を煽る。 震えないように奥歯を噛みしめていると、ボクを縛り上げた進藤の手が、次に首に掛かった。 殺される・・・! ・・・だが、訪れた衝撃は衝撃というにはあまりにも生温かくてぬるぬるしていた。 進藤の口で、口を塞がれていると気付いた時思考が止まる。 しばらくゆっくりと口を触れ合わせたり舌で舐めたりした後、ぴちゃ、と湿った音を微かにさせて 進藤の顔が離れた。 「『あるはずのない部屋』で行われた事は、『なかった事』。」 「・・・・・・。」 「『なかった事』を行う為に、この部屋は作られたんだよ・・・。」 意味が、分からない。 暗くて進藤の顔が見えない。 止まった思考のままに、 ボクのネクタイを解くのを、ワイシャツのボタンを外して行くのを夢のように感じる。 だがベルトを外された時に、我に返った。 足で思いっきり蹴り上げる。 だが上手く行かなくて、逆に腕を捻られた。 「・・・っ!」 「大人しくした方がいいよ。新聞で見た限りその女流の人ってキレイだったから、 もしかしたらここでこうやって・・・そんで抵抗して殺されたのかも。」 「・・・・・・。」 「福島先生と森ノ宮先生は・・・オレが思うに、ここで引退を賭けて賭碁をしたんじゃないかな。」 「・・・んな事・・・仮にもプロ棋士が賭碁なんて・・・。」 「してないんだよ。」 「・・・・・・。」 「この部屋であった事は、『なかった事』なんだから。」 動けなくなったボクのズボンを脱がせ、下着も取る。 狂っていると。 でも本気だと。 思った。どちらでもいい。 縮み上がった性器を握り、ふ、と笑う。 「そんなに怖がんなよ。すぐに済むからさ。」 「どうして・・・。」 「ん?」 「どうして、こんな事。どうして・・・ボクなんだ。」 「前から、したかったんだ。」 「・・・・・・。」 したかった・・・って、以前からボクをそんな目で見ていたと言うのか? 同じ部屋の泊まった事を思い出し、ゾッと総毛立つ。 キミはボクのライバルで・・・そして友人じゃなかったのか・・・? 「それとせっかくこういう場所があるんだから『外』では出来ないことをやってみたかった。」 ボクの足を大きく開かせ、ちゅぱ、と自分の指を舐めて尻の穴に当て・・・。 心の準備をする間もなく一気に突き入れられた。 「っつ!」 「痛い?でも後でもっと痛くなるからな、慣れといて。」 出し入れされて、涙が滲む。 進藤は指を増やし、穴を広げるようにしばらく弄んだ後、自分のズボンのファスナーを下ろした。 硬くて熱いものが押しつけられる。 「・・・大声を出すぞ。」 「いいよ。でも誰も来ないよ。」 一息に、体を引き裂かれるように、 「ここは、『存在しない部屋』なんだから。」 ・・・終わった後、ほとんど裸で横たわったまま黒い天井を見つめた。 泣きたくもないのに後から後から涙が溢れて止まらない。 暗くてまだ良かった、などと女々しいことを思う。 「・・・殺人、現場で、いい度胸だな・・・。」 「仕方ないね。」 「・・・訴えてやる。」 「無駄無駄。何であろうが、この部屋で起きた事は『なかった事』なんだから。 普段は公開できない対局程度だろうけど、時にはたとえ人を殺してもみんな見ないフリをしてくれる。」 多かれ少なかれ、全員が共犯者という事か・・・。 社会から隔離した、絶対の結束。 棋士を守り、そして解放する為のシステム。 そんなものが本当に存在するなんて。 信じられないが、今までの状況から信じざるを得ない。 「・・・今、人が入ってきたらどうするんだ。」 「それも多分大丈夫。盛り塩を潰すのは『使用中』の合図なんじゃない?」 「・・・・・・。」 「ここから一歩出たら、『なかった事』なんだ。おまえも忘れろよ。」 忘れろ。 だと? 「おまえは男に犯されてなんかいない。オレも犯罪者じゃない。」 『外』での『オレ』とは別人だよ。 だからここでは好きにさせて・・・。 呟くように言って進藤はまた、ボクの胸に舌を這わせてきた。 ボクはそれにびくりと反応しながら、 そうか、ここではたとえ人を殺しても『なかった事』になるのか、と頭の中で繰り返した。 −了− ※こちらも14万打踏んで下さいましたしおさんに捧げます。 リクエスト内容は「開かずの間」と同じです。 あまりにナイスリクなんでもういっちょ。 アキラさん可愛くないよ・・・足りないかどうかも微妙。 自己満足ですよ、ええ。ヒカ碁?という文章が書けて満足です。 勿論この関西棋院はホントの関西棋院とは何の関係もないですよ。 前回と同じく「開かずの間」講釈はまんましおさんのリクから頂きました。 しおさん、キリ申告&ナイスリクありがとうございました! 追記。タマネギさんにこの直後の展開で、この上なく後味のいい小話を頂きました。 小気味良い!→「つづき」 |
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