WWU Continent 9 9.キスケ 「足木さま・・・!」 開け放したままのドアの外に、白い襟の給仕の少年が目を剥いている。 まずいな・・・と思ったのは一瞬で、緒方はすぐにまあどうにかなる、と開き直った。 「・・・こ、これは、」 「そういう訳だ。」 よく見れば給仕の後ろには何人かの汚い服を着た人間が立ちつくしていた。 その最前列に唯一身なりのいい眼鏡を掛けた少年・・・が立っていて 緒方に向かって物怖じもせずに問い質す。 「そういう訳だ、では分かりません。」 「オマエは何者だ。」 「これは、申し遅れました。越智財閥の越智康介です。」 「ほう。」 あの会長の 「三代目か。」 「まあ順調に行けばそういうことになりますが。」 倒れたヒカルに目をやって、眼鏡を持ち上げる。 「そんな事より、説明して頂きましょうか。当ホテル内の出来事の責任の一旦はボクにもある。」 「倒れているのはオレの連れだ。何処からか手に入れた短銃で、人の部屋で自殺を図りやがった。」 「進藤!!」 和谷が真っ先に叫んぶ。 給仕と越智の後ろに立っていた汚い集団は・・・言わずと知れた倉田、伊角、和谷だった。 伊角が塔矢家に電話して、アキラが「HOTEL OCHI」に向かったと聞いた瞬間、倉田は 「昨日もアイツ、向かおうとしてたよな?」 見上げたアキラの表情を思いだし、何か、激しい予感に見舞われて走り出したのだ。 その様子にまた只ならぬ物を感じた伊角や和谷も巻き込まれるように着いてきていた。 「進藤・・・一体、」 「取り敢えず医者を、」 「何故ここに?!」 「生きてるのか?!」 ヒカルを取り囲んでおろおろする和谷と伊角。その後ろで腕を組んだ倉田が 緒方に目をやった。 「まあ・・・アンタ誰か知んないけどさ、進藤はオレらの連れでもあるから。連れて行くよ。」 オマエこそ誰だ、と思いながらまた問い質すのも面倒になって 緒方は胸ポケットから煙草ケースを取りだした。 「勝手にしろ。」 「それと・・・進藤はどっからこんな物騒なもん手に入れたんだろうな・・・?」 倉田が物問いたげな視線をアキラに向けると、アキラはやっと呪縛から解放されたように、 ヒカルから視線を逸らした。 そして膝から力が抜けそうになるのを、すんでの所で緒方が支える。 「この人はオレの取引相手で偶々居合わせただけだ。」 理解したのかどうか、アキラは蒼白な顔で目を伏せてゆるゆると首を振ろうとするが その動きはあまりにも弱々しい。 苛立った和谷が、立ち上がった。 「んなわけねーだろう!進藤と塔矢が偶々、」 「取引の品を持ってきてくれただけだ。そうだろう?」 遮った緒方が腕の中のアキラの顎を掴んで持ち上げると・・・。 和谷は、何か見てはいけない物を見てしまったような気がして、目を逸らした。 「とにかくオレ達は関係ない。 ソイツは病院でも、短銃がまずかったら警察にでもどこにでも連れて行け。」 「それには及ばないでしょう。」 眼鏡を外して、胸ポケットから取りだしたハンケチで拭き始めた越智が即座に答える。 「ホテル側としても開館間もないこの時期、不祥事も不祝儀も避けたい所です。 表沙汰にはしたくないが、異論は?」 「英断だ。」 「おい!塔矢!」 そんな中、話の流れも何も関係なく、和谷がさらに駆け寄ろうとする。 それをギロリと睨んだ視線で止め、緒方はアキラの肩を抱くようにドアから足を踏み出した。 「・・・荷物は後で人を取りに寄越す。」 やはり和谷は動けなかった。 緒方に有無を言わせぬ迫力があったというのもあるが・・・ それ以上にアキラが和谷の方を見ようとしなかったからだ。 もし塔矢がオレに助けを求めたら。 もし、少しでも縋るような目で見てくれたら。 オレはどんなに恐ろしくてもアイツから塔矢を取り戻した進藤の代わりに。 後々和谷は思ったものだが、その時は前日のアキラの怕い程の表情と相まって、 ・・・どうしても動くことが出来なかった。 緒方とアキラが消え、場から妙な緊張感が一掃された。 「とにかく君、病院に連絡を。ああ、桑原先生の所がいい。あそこなら大きいしこちらの顔が利く。」 越智が給仕の少年に指図すると、少年は「は!」と言って一目散に駆けて行った。 「・・・血は出てるけど、弾は肩から抜けてるな。多分命に別状はないよ。」 そして冷静な倉田の声に、伊角も和谷も安堵の息を吐く。 越智も内心胸を撫で下ろしたが表情には出さず、改めて全員を見回した。 「・・・ところで、君たちは?」 玄関を入った所でホテルにそぐわぬ汚い一団がいるな、とは思った。 後でつまみ出すように指示しなければ、と思いながらも越智は寸暇を惜しんで足木の部屋に向かったのだ。 そうしたら、何と彼等も同じ昇降機に乗ってきたと言うわけだ。 エレベータァボオイも何か言いたげだったが、越智が何も言わないので黙っていた。 そうしている間に、同じ部屋に向かい、気が付いたら進藤の連れだとか言っている。 「コイツの仕事仲間だよ。はす向かいの建築現場。はい、これ名刺。」 主格の男が小汚い服、巨躯に似合わずスマァトな仕草で白い紙を取り出した。 雛菊建設会社 取締役 倉田 厚 ・・・アキラが雛菊と呼ばれていた事があるのを知っていて日本語が読める者、 由梨か秀英がいれば笑えたかも知れない。 いや、あるいはヒカルは苦笑したことがあるかも知れない。 だが今は蒼白な顔をして気を失っている。 その手から伊角が短銃を抜き取った。 ヒカルが無意識に何かを求めるように指を開くのに、少し考えて・・・ 落ちていた石入りのペンダントを握らせたら、安心したように握りしめた。 その石は、ひび割れていたが。 「・・・ふ?ん。社長さん、か。」 この男は、自分の会社の社員が、昼間から殆ど素っ裸で怪しい男の部屋にいたことを どう思っているだろう・・・。 軽く頭を振る。 いや、関係ない話だ。もう、面倒は御免だ。 何も知らない洗濯係が丁度プレスし終わったヒカルの服を持ってきたのを機に 「ボクはここの後始末がありますから、あなた達、進藤に着いて行ってやって下さい。」 「ああ、そのつもりだけど・・・アンタは何でここに来たんだ?」 ・・・『あの人も見掛けによらずロマンチストだから・・・』 芦原の声がまた頭に響く。 ここに来たら塔矢アキラに会うかも知れない、とは思っていたが、よもや進藤ヒカルにまで 会うとは思っていなかった。 足元の、気を失って眉を顰めているヒカルの顔に、初めて見た塔矢アキラが重なる。 緒方の腕の中で青ざめていた・・・あれが・・・「塔矢アキラ」、か。 越智はもう一度頭を振った。 「さあ・・・。」 ハイヤーの中で、アキラは起きているのか寝ているのか、一度も目を開かず口も利かなかった。 緒方も眉間に皺を寄せたまま、無言で煙草を喫っていた。 やがて車は、緒方が非常用の隠れ家として借りていた小さな洋館に滑り込む。 追い立てるようにアキラを下ろして家に引きずり込んだ後 「ここを使うハメになるとは思っていなかったが、電話だけは引いてあって助かったな。」 緒方は呟くと何件か電話をし、アキラに向き直った。 「・・・さて。約束の物を貰おうか。」 「・・・え・・・?」 「楊海に預かった品を持ってきたんだろう?」 「・・・・・・ああ。」 アキラが鞄からのろのろと包みを取り出すと、奪うように受け取り、中を改める。 白い粉を確認してもアキラは何も言わず、何も見ていなかった。 「よし。もう帰っていいぞ。」 「・・・・・・。」 「車を呼んで欲しいのか。」 「・・・帰る場所なんか、在りません・・・。ボクは、進藤をこの手で。」 「安心しろ。弾は急所を外れていた。」 他人事のように言う緒方に、カッと血が上った。 言えば、自分を追いつめる事になるかも知れない。 それでも言わずに居られない。 「緒方さん!あなたは、進藤を、」 その後何と、続けるつもりだったのか。 抱いたのかと? 進藤は自分の物なのに、と? だが 「ああ抱いた。」 「・・・・・。」 あっさりと認められて、返す言葉がなかった。 「実は男はあれが初めてだったが、なかなか。」 「何故・・・。」 「おまえだって高永夏に抱かれていたんだろう。」 気遣いの欠片もない言葉に・・・目の前が、昏くなる。 抱かれたくて抱かれたんじゃない。 進藤を忘れた事なんてなかった。 愛している時も。 憎んでいる時も。 それでもアキラは立ち続ける。少しでも気を抜いたら、堕ちそうだ。 「どうして・・・あなたは、あなた達はどこで繋がって、」 「蛇の道というやつさ。それに進藤の事は勘違いするな。向こうから誘って来たんだ。」 「・・・・・・。」 「ホテルまで来て服を脱がされたら、例え相手が男でも据え膳喰わぬは武士の恥というだろう?」 ・・・そんな。 でも。 だって。 進藤の胸には白い石が。 「どうして・・・。」 「外地に長く居すぎたな。日本は、変わったんだ。」 白い、石が、あったけれど。 緒方さんに抱かれ、碁を打ち、 中国にボクを探しに行ったというのも、嘘だった・・・。 ギリギリと立っていた崖縁が崩れ、 真っ逆さまに、墜ちてゆく。 アキラの思考は止まった。 「・・・・・・そう、ですか・・・。」 日が暮れて芦原がやってきた。 「緒方さん、ホントに生きてたんだぁ。良かった?。」 「何を言っている。自分でお膳立てしたんだろう。」 「本気じゃなかったんだって。だからちゃんと助けをやったでしょう?・・・よっ!アキラ。」 「芦原さん・・・。」 アキラの声が、掠れる。 だが、もう衝撃はなかった。 誰も信じない。 「そんな顔するなよ。悪かったよ、緒方さんと繋がりがあるのを隠してたのは。」 「その名前で呼ぶな。今は『足木』だ。」 「はいはい。『悪しき冗談』さん、ね。」 芦原がくすくすと笑う。 「アキラ、そういうわけだから。『足木』さんは強面だから逆らわない方がいいよ?。」 「・・・・・・通報、します。」 「只では済まんぞ。」 「ボクにはもう怖いものなんてないんですよ・・・。」 アキラがひっそりと自嘲する。 「失う物がありませんから。何も。」 「ほう。自分だけが正義の味方のつもりか?汚れていないつもりか?」 「そんなつもりもありませんが。少なくともあなた達よりはマシだ。」 緒方と、芦原が顔を見合わせて笑う。 イヤな、感じ。 「・・・おまえ、自分が何を運んで来たのか知らないのか。」 「?」 「単なる密輸品だと思ったか?」 「・・・・・・。」 「おまえが運んできたのは、麻薬。」 「麻薬・・・。」 「コカイン、ヒロポン、これは・・・阿片の試供品か。 戦争で疲れ、国を建て直す気力も果てた奴らに、一時の夢とゆるやかな死を与える。」 「そんな、」 「その代わりにオレはソイツらの作れるだけの金を頂く。 金の為に人を殺し、死ぬまで血を売ってオレを儲けさせてくれる訳だ。」 「・・・・・・非道い。」 「おまえも、」 おまえもその片棒を担いだんだ。 おまえも死の商人の一人だ。 逃げられないぜ。 凍り付いたアキラに関係がないように、緒方と芦原が会話を始めた。 「どうする?」 「お先にどうぞ。」 「では、遠慮なくいただくか。」 アキラの肩を抱き、寝台のある部屋へ。 怖いモノなんてないんだ。 失う物なんてないんだから。 あるのは抜け殻と虚ろな心だけ。 好きにしてくれ。 だが理性の制御を離れた体は本能的に痛みを避けて逃げ回り、 緒方に腕を掴まれて噛みつき、 のしかかられて獣のように咆吼した。 「おまえは、野犬か、山猫か。」 進藤がこういう反応をするならともかく。 緒方は塔矢家で静養していた頃の大人しくて病弱な少年を思い、少なからず驚いたが それは彼の征服欲を煽りこそすれ削ぎはしなかった。 緒方はアキラを、支配した。 気を失ったアキラを放って浴室から帰ってきた芦原が不満そうに言う。 「つまんないよ、緒方さん。」 「何が。」 「オレは、もっと手応えのある女の方が好みだな・・・。」 「抵抗しなかったか?」 「全然。人形みたいだった。」 「フン・・・。もう油が切れたか。次は進藤ヒカルだな。」 「オレ、男はもういいや。」 「バカ。そうじゃない。あのガキ、船に乗らなかったんだ。」 「え?うそ!」 進藤は北京へ行っていない。 だが、アキラは品物を持って帰国した。 これは非常にまずい。 今まで信用関係で同時取引をしてきたが、金を払わずに品物をタダ取りでは、 一気にその関係にヒビが入る。 今後取引出来ないだけならまだしも、自分は中国国民党から命を狙われる事になる・・・。 楊海という男の恐ろしさを、緒方が十二分に知っているという前提のもとに 成り立っていた信用。 「とにかく、あのクソガキにはもう一度会わねばなるまいな。」 「金まだ持ってるかなぁ。」 「出航時間から考えて使う暇があったとも思えんが、荷物は持っていなかった。 誰かに預けてある可能性がある。」 「そっか。でも、ちょっと気になるなぁ。」 「何だ。」 「どうして緒方さん、半日も一緒にいて聞き出さなかったんですか?」 無邪気に、だが問う目もそれを見返す目も笑っていない。 「半殺しにしてもクスリ漬けにしても良かったのに。他の女はそうして来たでしょう?何故彼だけ?」 何故進藤ヒカルだけ。 過去に自問自答して答えらしきものを得たことがあったが、 それは、自分にとって非常に不本意なものだった。 「・・・大事な対局の、最中だ。」 芦原は「ロマンチストだよなぁ」と口の中でだけ呟いた。 ヒカルは病院で一通りの手当を受け、寮に運び込まれた。 勿論服を着せられ、煎餅布団の上でこんこんと眠り続ける。 そのヒカルの横で和谷が難しい顔をしていた。 「・・・なあ伊角さん。なんで進藤はあんな所にいたんだ?」 「・・・・・・。」 伊角には、その理由は大体分かっている。 収容所で起居を共にしていた頃からヒカルが、好むかどうかはともかくとして 男に性欲の対象として見られる事に抵抗がないタイプだとは思っていた。 もしかしたら、体を開く事にも。 男に巫山戯てでも尻を触られたら、和谷なら毛を逆立てて怒る。 自分でも眉を顰めないまでもやんわり、でも断固として拒否する。 進藤は、触った方が引くほど笑顔で受け流していた。 だから進藤があの男と関係を持っていたとしてもさほど意外な感じもしないが、 中等以前からの仲である和谷には信じられず、受け入れられないのだろう。 だが、やはり分からないのは、何故、中国へ行かなかったのか。 乗船直前に塔矢が帰国している事を知ったのか。 しかし、なら何故、あの男の所へ・・・。 そして何故、自殺など。 謎だらけだ。 「その件だけどね。」 「え?」 「自殺じゃないぜ。」 口に出していたのか。 「どうしてそう思うんだ?動機も・・・ないでもないし。」 「あのおっさんにヤられてる所を塔矢に見られて絶望した?」 「・・・・・・。」 「オレにだって、それくらい分かるよ。進藤がそういう事してたって。」 「そうか・・・。」 和谷は、自分が思っていた程、子どもではない。 国のために闇雲に命を賭けていた何も知らない少年は、 いつの間にか懐の深い大人の男への第一歩を踏み出していたのか・・・。 伊角の場違いな感慨など置いてけぼりで、和谷は言葉を続けた。 「分からないのは、進藤はまだ塔矢の事が好きみたいだったのに何故あんな奴に抱かれてたか。」 「それと、どうして自殺じゃないと?」 「自殺だったら、自分のペンダントに当てて外したりするなんて有り得ないじゃん。」 「あ、そうか。」 「それにどこから短銃が出てきたんだよ?」 「一昨日大陸に行く予定だったのに直前で取りやめて、自殺するために急遽銃を手に入れた・・・。」 「それもねえでしょ。」 「そうだな。」 「何の話だ??」 倉田が買い出しから帰ってきたらしく、食い物の匂いをさせながら入ってきた。 「お帰りなさい!」 「今、進藤は自殺を図った訳ではないのではないかという話をしていたのであります。」 「ああ、そりゃそうだろうなぁ。」 「社長も思ってたんですか?」 「どこのバカが自殺するのに自分のペンダント撃つよ。」 ・・・なんだ。気付いてなかったのはオレだけか。 「多分撃ったのは、塔矢だ。」 「!!」 なんとなく、あの怪しい男が撃ったような気がしていた。 だって、アキラくんはあんなに進藤を探して、 進藤に出会う前から進藤を探して、 「部屋の奥に打ち掛けの碁盤があっただろ?進藤はかなり長いことあの部屋にいたんだよ。 それなのに入り口に倒れてたって事は、尋ねてきた塔矢がドアを開けるなり撃ったってとこだろう。」 最後に見た塔矢アキラのあの表情は。 特攻隊員にも似る、 殺人を決意した、死を決意した者の顔だったのか。 「・・・とにかく塔矢に進藤の居場所を知られない方がいいですね。」 「逆もな。」 「それにしても、以前は塔矢も進藤も大事な対局の最中だからって絶対他の人と打たなかったのに。」 「その辺が何か関係あるのかな。」 その時倉田が何か考え込みながら、ぽつりと言った。 「あの盤面なぁ。・・・白が優勢だったんだ。」 「・・・・・・。」 「あのまま打ち続けても、黒が逆転出来る可能性は低そうだったな。」 「・・・どっちが進藤だったんでしょうね?」 「さあ、なあ。」 「緒方さん・・・進藤は、見つかりましたか?」 寝台の上で静かに横たわり、瞼を閉じて寝ていたと思ったアキラが声を発した。 彼が人間らしい言葉を話したのは随分久しぶりだった。 悲鳴と、呻き声と、唸り声と、喘ぎ声。 およそ虐げられた動物の反応は一通り見せていたが、その代わり人ではないようだった。 実際殆ど人扱いしていなかった緒方は、少し驚いたが顔には出さなかった。 「・・・久しぶりにしゃべったと思ったら、まだ進藤か。」 「何の話ならいいんです。」 「そうだな。最近狎れて来たようじゃないか。」 「ええ。悪くないですよアナタとの情交は。」 「情交じゃない。」 まだ長い煙草を、大理石の灰皿に押しつける。 「単なる性交だ。獣姦でもいい。」 「そうですね。」 「人は、変われば変わるもんだな。」 「それはあなたの口癖ですか。」 「進藤は、」 焦らすように言葉を切っても、アキラは目を開けない。 「見つからん。あの、仕事仲間とかいう連中が隠しているらしい。」 「見つけたら、教えて下さい。」 「どうする。」 「殺します。今度こそ。」 ・・・そして、自分も死ぬのだろう。 それは構わないが、その前に、『佐為』との決着を。 長い煙が、空中で渦を巻いて、消えた。
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