中毒症 4 呑み込むことは出来ないが、口の中に放たれるのに慣れる事は出来た。 進藤のそれは、一振りすれば佐為の欠片を見ることが出来る魔法のステッキだ。 でも・・・自分がどんどん汚れていくのが怖い。 恐ろしいことをしていると思う。 僕は、人は一度間違いを犯せばその烙印は一生消えないと思っている。 誰に知られなくとも、自分が知っているからだ。 だからどんな小さな嘘もつきたくないと思っているし、恥ずべき真似はしたくない。 一生誰にも何一つ恥じる事のない、潔白なままの身でいたい。 と思っていた。 しかし、僕は既に欲望に負けていた。 sai の事を知りたい。 ただそれだけの望みだったのに、僕はその為に人に言えない事を沢山してしまったのだ。 救いと言えば、それが僕自身の性欲とは無関係な事だが 誰の性欲とも関わり合いたくないと思っていた数ヶ月前の清らかな自分が 少し羨ましい。 しかし時間が戻せたとしても、きっと僕は同じ事をする。 佐為を、手に入れる為に。 進藤は進藤で、僕の手や口に溺れていたし最近は酷く情緒不安定にもなっていた。 対局中にも僕の感触が思い出されると言っては僕の目の前で泣き、 毎日でもして欲しいと縋ってきた。 望むところだ。 一旦汚れる事に慣れてしまった僕に、もう恐れはない。 進藤をほぼ自宅に住まわせ、毎日のように口でしてやった。 結果として、僕は凄まじいスピードで佐為の事を知っていった。 進藤と佐為の、プライベートな対局の数々。 佐為が死を選んだ理由、そして幽霊になって現れた理由。 そして・・・実は、秀策の棋譜は、彼が作ったものであるという事。 進藤が小出しに教えてくれる情報には矛盾がなく、色々な事に納得させられる。 しかし今ひとつ、何か・・・物足りない。 「進藤・・・。もう、他に佐為の情報はないのか。」 「ない。・・・って言ったら、どうする?」 「そんなはず、ないだろう?」 微笑んだつもりだが、進藤は泣きそうに顔を引きつらせた。 「・・・なぁ。もしオレが、佐為の事洗いざらいぜ〜んぶしゃべっちゃったら、どうなる?」 「何が。」 「おまえ、もうこういう事、してくれなくなるよな?」 当たり前、と即答しかけて思い留まった。 進藤は、中毒している。 元々性欲の強いタイプなのだろうか。 自分の手ではもう満足出来ず、必ず僕の手や口を求める。 一方的に気持ちがいいのは進藤で、僕は不快な思いしかしていないのだから 確かに佐為の事がなければ、絶対にしていない。 しかし、最初に要求したのは進藤なのだ。 これは取引だろう? キミが僕に与えられる物がなくなったら、切れるのは最初から分かっていたじゃないか。 しかし、今それを言うのは得策ではない。 そろりとカマを掛ける。 「今、その佐為がどこにいるのか僕は知らない訳だが。」 ぴく、と進藤の肩が震える。 「もしまだキミの側にいるのなら、情報は無限だろう?」 言いながらじっと観察すると、進藤は伏せた顔を僅かに横に向けた。 なるほど。 やはり今は進藤の側にはいない訳だ。 予想もしていたし、いるとしたらこんな所を見られているのは嫌だが。 では、いつ進藤の側から去ったかと言えば、恐らくプロになってしばらく後 不戦敗を重ねていた時の事だろう。 その辺りのことはまだ聞いていない。 もっともっともっと、佐為が知りたい。 進藤と同じだけ。 いや、進藤以上に。 その日もいつも通りに、進藤の前に跪いてそのファスナーを下ろすと、おずおずと 頭の上に手を乗せられた。 「何だ。」 「今日はな、・・・佐為が消えた時の事を教えてやるよ。」 いよいよ・・・。 大詰めかと思う。 何か物足りない気がしていたのは、きっとその辺りのピースなのだろう。 「だから・・・今日は、して欲しい。」 「うん?」 いつもしているが。 何か、違うのか。 見ていると、進藤は自ら全部服を脱いだ。 上半身まで・・・これは珍しい。 「セックス・・・して欲しい。」 「・・・は?」 久々に頭が真っ白になった。 最初に手でしろと言われた時以来だろうか。 固まった僕に、進藤は早口で男性同士の性行為の仕方を教え(知りたくなかった) 抱いて欲しいと言ったのだ。 冗談じゃない・・・! 今までとは根本的に違う。 確かに僕は手や口で進藤の性欲に奉仕したが、それは自分の体を 道具として差し出したまでで、性行為だとは全く思っていなかった。 第一、僕自身全く欲情しなかったし、それは労働や苦行に似て、 目的の為の手段に過ぎなかったのだ。 「分かってる、そんな事、だからこれも手段だと思って、」 そんな事無理に決まっている。 そんな自分が許せる筈もない。 第一僕は、勃起したくないのだ。 進藤は悲しそうな顔をした。 少し心が痛んだ気がしたが、それは佐為の情報を得る手段がなくなったせいだろう。 それから僕達は、一時行為が途切れていた時のように、元の仲に戻った。 普通の碁敵のように打ち、たわいもない喧嘩をし。 しかしそれは表面上だけだったようで、進藤は普通に話しながらも 時折僕の体に触れようとしたり、切なげな目見つめてきたりした。 自分一人が苦しんでいるような顔をするな。 僕にとっても、新しい佐為の情報が入ってこない日々は辛いのだ。 教えて貰った棋譜を、また繰り返し繰り返し並べ。 秀策時代の棋譜と比べて研究をしたり。 逃がした魚は大きい・・・。 進藤の頭の中に入っている、佐為の情報の残りがとてつもなく貴重なものに思えた。 僕は、佐為に餓えている。 そんなある日、進藤が僕を呼び止めて使っていない狭い倉庫に連れ込んだ。 「今更、こんな所で何をするつもりだ。」 対局をするなら対局室でいい。 人気のない所という事は、それは性的な何かなのだろう。 思わず眉を顰めてしまう。 「いや、何もしなくていい・・・。」 そう言いながら自分のファスナーを下ろし、僕に息の掛かる近さで 自慰を始めた。 変質者・・・ そう心の中で毒づきながら、冷たい目で見つめる。 進藤は僕の目を見つめながら、涙ぐみながら、せわしなく手を動かして果てた。 「・・・で?」 醜いと思った。 性欲に支配された人間なんて、もう人間とは言えない。 他人の前で自慰をするような恥ずかしい男が自分の友人だと思いたくない。 佐為さん・・・どうして、こんな男の元に現れたのですか? 僕ではなく? 何度も過ぎった疑問がまた浮上する。 顔を伏せて一生懸命ティッシュで拭っている進藤の頭を殴りつけたくなる。 「これは、僕にとって何かメリットがある事なのか。」 「いや・・・。」 「ならばもう、二度とするな。不愉快だ。」 「塔矢・・・。」 何か言いたげな進藤に、背を向ける。 もう、自分の中にある佐為だけを大切に温めていこうと思った。 −続く− |
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