サイエンス・フィクション7
サイエンス・フィクション7










「・・・・・・それで、どうして進藤がボクを好きだと言う話になるんです。」


弁天小僧ならここで胡座をかいて片肌脱ぎで「知らざぁ言って、」と言いたい所だが、
生憎ボクは普段から丁寧な立ち居振る舞いを心懸けているので大した違いはない。

だがもう敢えて女性らしさを装う必要もない。
付近の席に誰もいなくて良かった。

加賀は開き直ったボクに少し驚いた顔をした後、噴き出した。
テーブルに突っ伏してしばらく震えた後、顔を上げて目尻の涙を拭う。


「・・・いや、悪りぃ悪りぃ。分かってはいんだけど、やっぱり見た目は
 キレーなねいちゃんだからさ、そんないきなり『塔矢アキラ』になられたら、」


また爆笑。
ボクは彼の発作が収まるのを待って、お茶を啜った。


「もういいですか?」

「あ、ああ。えっと何だったっけか。」

「どうして進藤がボクを好きだなんて突拍子もない事を思われたのか、という話です。」

「突拍子なくもねえさ。アイツ、最初にオマエに抱いてくれって頼んだんだろ?」


そんな事を他人に言うかキミは。


「ええ。まあ。」

「そりゃ女が処女を捧げたいってのは、よっぽどの事だろう。」

「女の子ならね。でも進藤は男です。」

「女じゃねえか。」

「それは身体だけでしょう?中身は全く以前と変わりませんよ。」

「それがどうだか。」


加賀は眉間に皺を寄せて、頬杖をつく。


「身体が女になったら、心も変わるんじゃねえか。」

「経験もないのに。」

「そっちこそ経験もねえのに否定すんなよ。」


・・・それも、そうだ。
化粧品売場で立ち止まった進藤の横顔を思い出す。


「大体、自分がもし急に女になったとして、いきなり男に抱かれたいとか思うか?」

「・・・絶対思いませんね。」

「だろ?それで最初ひいたんだが。」


進藤は、この人の前でもいきなり大股開きをやったんだろうか。
というか、もし自分が生まれた時から女性だったとしてもあれはやらないと思うが。


「まあ、進藤は自分でも気付かない間に男に恋愛出来る体質になってて、
 それで惚れたのが・・・オマエだと考えるべきだと思う。」

「・・・・・・。」


顔が、熱くなる。
今までもよく知らない女の子が自分の事を好きらしい、という話を聞いたことがないではないが
こんな気持ちになったのは初めてだ。


「そうじゃなきゃあ、元々潜在的に惚れてたか。」

「進藤が、だ、男色だとでも?!」

「男色って・・・いや、まあそこまでじゃなくてもさ。」


何だか余計に恥ずかしい。
進藤が元々女性だったら、こんな複雑な気分にもならずに
何もかも上手く行ったものを・・・。


「とにかくそれで、好きなオマエに振られてオレんとこ来たんだとしたら、
 そらぁ気の毒だよなぁ?」


一応殊勝げに言うが、どこか楽しそうだ。
いや楽しんでるな、絶対。


「だから、元男だとかライバルだとか、そういう事は忘れて自分に惚れてる
 一人の女として見てやったらどうだ?」

「でも・・・今はあなたに。」

「オレにゃあ惚れてねえよ。ただヤってるだけ。」

「・・・・・・。」

「色気もクソもねえしオレに彼女いるのも知ってるし。」


また・・・腹が立ってきた・・・。

恐らくわざと煽っているのだとは思う。
最初に進藤と別れてくれと言った時点からボクが塔矢アキラだと気付いていて、
それでもポーカーフェイスを崩さず終局まで持っていった曲者だ。

でも、本気でコイツに進藤は任せられないな、と思えてきた。


「抱いてやれよ。」


でも。ボクは。


「そんな、男・・・じゃなくても、愛してもいない人を。」

「何言ってんだよ。惚れてなきゃ、何でオレに食ってかかってきた?
 女装までして正体隠して?」


女装は偶然だ。
と言ったらまた何か誤解を招きそうなので言わないが。

確かに普段の男姿だったなら、彼を見つけても声を掛けなかったと思う。
別の男にいきなり女と別れてくれだなんて、そんな理不尽な、嫉妬しているような・・・。

・・・嫉妬?

進藤と、別れてくれだなんて。


「まあとにかく、オマエが付き合ったら、オレはもう手ぇ出さねえから。」

「はあ・・・。」

「ガンバレよ。」

「はあ・・・。」


加賀が財布からがさごそと取りだしてボクの掌に押しつけて来たのは、
薄くて丸い物が封じ込められた、パッケージの連なりだった。







それからは、進藤に会うと何となく気まずいような、気恥ずかしいような
そんな気持ちになってしまうようになった。
でも進藤はお構いなしで、


「よっ!塔矢。」


棋院で出会っても、周囲に人がいなければ、腕を取って自分の胸に押しつけて来たりする。


「あはははっ!何赤くなってんだ?今更オレの魅力に気付いた?」

「馬鹿か!キミは!」


ボクは・・・こんな男が好きなんだろうか。
進藤がこうやって、ボクに近づいて来るのは、本当にボクが好きだからなんだろうか。


「あの、進藤。」

「何?」

「その、調子はどうだ?」

「まあまあ。今週来週は負ける予定ねえけど。」

「いや・・・そうじゃなくて。」


今週の木曜日は進藤と相性のいい、御器曽七段とまた対戦だったはず。
まず負ける事はないだろう。


「ああ、もしかしてアッチの方?」

「・・・そうだ。」

「へえ。興味出てきたんだ?」

「そういう!訳じゃない!」

「まあまあ。それが健全なオトコノコってもんだよ。」

「それで!どうなんだ。」

「いやそれが、加賀最近女の方行っちゃっててあんまり相手してくんないんだけど。」


・・・『オマエが付き合ったら、オレはもう手を出さねぇから。』
頭の中に甦る、低めの声。


「でも昨日はアイツんちに遊びに行ったな。」


嘘かー!
いや、ボクが付き合ったら、だから嘘でもないか?
だがこんな時は進藤が自然にボクの所に戻ってくるまで手を出さないでいてくれるのが
親切ってもんなんじゃないのか!


「・・・で?」

「いや別に。それなりに気持ちいいけどイッちゃったって感じじゃなかった。」

「・・・そう。」


安心する自分がいる。
何となく、進藤が加賀で「イッちゃう」までが、勝負という感じがする。
・・・って、ボクは一体。


「とかって言ってる間に加賀の子ニンシンしちゃったりしてなー!」

「え!ちゃんと避妊してるんだろう?」

「うん。ゴム付けてくれてるけどさ、ああいうのって100%じゃないんだろ?」


ボクの財布の中にも、その100%じゃない避妊具が入っている。
同じ物だろうから、これを使って妊娠しても、どちらの子か分からないな・・・。
・・・って、え。だから。


「妊娠したら、どうする?」

「うわ、怖い事言うなぁ。でも多分こっそり堕ろすかな。」

「それがボクの子でも?」

「はあ?」

「いや例えば。」

「そんな、オマエの子妊娠しようもねえじゃん。ヤッてねえし。」

「それは・・・そうなんだけど。」

「そういうキモい事言うなよ。それよりこの後どうする?碁会所行く?」


キモ・・・くて悪かったな。
確かにしてないのにボクの子を妊娠したりしたら気持ち悪いが、
する事をすればさほど不自然でもないんだぞ。

いや・・・不自然か。
何と言っても、進藤は元男。
どこまで「女性」が機能しているか未知数だ。
ああでも生理はあったしな・・・。


「いや、そうだ!オレの部屋に来いよ!いいもん見せてやる。」


うーん・・・それにやっぱりキミの馴れ馴れしさは、
好きな男にというよりは、同性の友達に対するそれのような気がするのだけれど。








−続く−





※ 会話文ばっかりでした。
  パーセンテージは使用方法に拠ると思うのですが彼等は知らないようです。
  あと、加賀はもうちょっとアキラさんにセクハラしても良かった。(でもいい奴だから)

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