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戦国ヒカアキ8 「ヒカル・・・これは・・・。」 「ああ・・・帰った・・・?」 布団に手を突いて起きあがろうとして、「痛っ!」と、また横たわった。 「痛ってぇ!痛ってーなぁおい。」 「誰に・・・。」 「緒方とすれ違わなかった?」 すれ・・・違ったけれど。 馳走に、なったと言っていたけれどでも。 「勘違いするなよ。」 「・・・・・・。」 「オレが抱かせたんだ。」 ・・・・・・。 「アイツ、上手いよな。初めてヤられてまさかと思ったけど、イっちゃったよ。」 「・・・・・・。」 「オマエがあんだけヨがってたのも分か・・・アキラ?」 私は背を向けていた。 「お主は、何故、」 そんな風に享楽的に、 男の誇りというものを持ち合わせて、 私が好きだと、 私を手に入れる為になら何でもすると、 思いが言葉にならない。 「いや・・・。何でもない。」 しかしその晩は、気詰まりな一夜となった。 隣にある身体が・・・緒方に抱かれた。 あの、意思を裏切る狂おしい快楽を。 いや・・・自らの、意思で。 次の夜は私にとって更に辛いものとなった。 緒方が忍んで来たのだ。 「あれ・・・?」 「また、来てもよいと仰ったでしょう。」 「言ったが。こんなに早く、ってか急だな。見張りはどうした。」 「申し遅れましたが私の祖先は薬師でしてな。」 ・・・それは私でも聞いたことがない。 私達は二人とも呆気にとられてしまったが、ヒカルがやがてぷっと噴き出した。 「あぶねー奴。味方に毒を盛るか。」 「毒ではありません。薬です。それに貴方様との逢瀬を邪魔する者は敵。」 「せいぜいオマエに出された茶は飲まねえようにしておくよ。」 それでもヒカルは自らの帯に手を掛け。 私も立ち上がった。 「アキラ。何処へ行く?」 「どこかへ。」 「行くな。ここに、いろ。」 「・・・・・・。」 私達の関係は、対等などではない。 表面上、いくら呼び捨てを許されようと、城内を歩き回る自由が与えられていようと。 「左様。如何です、ご一緒に。」 緒方が私の方に手を延べたが、その袖をヒカルが掴み、 引き寄せて自分の首に回させた。 緒方は抵抗せず顔を重ね、その動きが激しくなる。 やがてヒカルが小さな呻き声を漏らし始め、いつの間にか二人は布団の上で折り重なっていた。 「緒方・・・痛く、するなよ・・・。」 「昨日は急なお誘いでしたからご無礼仕ったが・・・先祖が薬師だと申したでしょう?」 絶対者だと、最強の男だと、思ってしまいそうな程の激しさを誇っていたヒカルが、 緒方の下に組み敷かれて、そう、まるで狼藉を受ける姫のように痛々しい。 一体どれが、お主の本当の姿なのだ。 狡猾な謀略家で、数多の武士を束ねる国主。 好色な若武者で、貞淑な姫君で・・・私の為に国を滅ぼしたと身を震わせる、童子。 「あ・・・、緒方、な・・・?」 「快いでしょう?快ければもっと声を出しなされ。もっと鳴きなされ。」 「・・・・・・ッ!」 「御身は、まこと、」 やがて女のように細く高く、そして掠れた、喘ぎ混じりの、 数多いヒカルの変化に「淫奔な遊女」という一面を加え、 私を忘れた二人に背を向けて几帳の陰に蹲り、両手で耳を塞いだ。 衣擦れの音に目が覚めた。いつの間にやらうたた寝をしていたらしい。 障子に目をやると、少し白んではいるがまだ夜と言える刻限のようだ。 寒い。 自分が何故几帳の陰で身を丸めて眠っていたのかなどと考える前に、 布団を求めてさまよい出る。 そして、立ち上がって夜着の帯を結んでいる緒方と目があった。 瞬時に昨夜の事を思い出して、息を呑む。 それを見て私が声を立てるとでも思ったのか、緒方は素早く自分の唇に指を当てた。 斜め下に目をやって、眠っているヒカルを示す。 手足をばらばらな方向に向けたままで、まるで水死人のようだった。 緒方が一礼して退出した後、私はヒカルの枕元にいざり寄った。 はだけた胸に、緒方の口の痕が幾つも残っている。 弄ばれたらしい片方の乳首が、少し腫れている。 眉が開き、前髪が鼻柱に掛かっている。 唇が、いつものような引き結んだ形でなく自然に閉じられているので、別人のような様相に見えた。 片方の瞼の上にごく細くて青い血の管が走っている。今初めて知った・・・。 そういえば、始めて出会ってから幾夜も過ごしたが、 この様にじっくりと無防備なヒカルの寝顔を見たのは始めてだ。 そしてこれが見納めになると思いながら、私は見つめ続けた。 「ん・・・。」 ヒカルが一瞬強く目を瞑ってから、ぱちりと瞼を開ける。 「おはよう。」 たった今まで寝ていたとは思えない冴えた目だ。 「ああ。」 「オレの寝顔見てたの?」 「ああ。」 「悪趣味だな。」 自分が他の男に抱かれているのを見せる方が余程であろう、と思ったが 最早どうでもよいことだ。 「・・・どうした?」 「何だ。」 「何か言う事があるって顔だ。」 「お主は相変わらず鋭い。」 「オマエがオレを褒めるなんて気色悪いな。何だよ。」 こんな朝にいつも通りのヒカルに安堵もするし、苛立ちもする。 「・・・以前私が出て行きたいのなら止めないと言ったな?」 「ああ・・・言った。」 「されば、本日出て行こうと思う。」 「何故。」 「何時までも穀潰しでいたくない。」 「んなことねーよ。第一オレがお前を、」 「言うな!」 どの口で、そんな、 「・・・私は女子ではない。お主の物にはならぬし、なれぬ。」 「側にいてくれればいいんだ・・・。ただそれだけで。」 「ただ側にいて、」 ただそれだけ? それがどれ程私の精神を蝕む事なのか分からぬと言うのか。 「・・・・お主の為に戦略を立て、お主が緒方に抱かれているのを見て、 お主の気が向けばこの身体を差し出せばよい?」 「・・・・・・。」 「断る!」 ヒカルが目を見開いた。 そういえば私が声を荒げるのは、随分久しぶりだ。 「私はお主の家臣ではない。人形でも道具でもない。」 「・・・・・・。」 「お主に忠誠など誓わぬし、致したければ・・・緒方でも遊女でも呼べばよい。」 さらば、と立ち上がりかけて、そう、着物と最初に持っていた刀だけは頂こう、と 言おうと思って振り返ると、 どさっ。 「え?」 私の袖はヒカルに引かれ、布団の上に身体を引き倒されていた。 「何をする!」 この期に及んで、と睨み付けようとすればヒカルは、 微笑んでいた。 笑っている。我々は只でさえ敵同士なのだから、笑い顔など似合わない。 しかも別れの朝なのだ。 ともすれば獅子身中の虫が去るのはめでたい事かも知れぬが、 面白いという程の事でもなかろうに。 この朝に、笑いは似合わなすぎる。 「何だ。」 「オレ、長いことオマエを抱いてないよな?」 「最後にさせろというのか。」 「させてくれるの?」 「断る。」 勿論。 誰がお主などに。 私はもう塔矢の嫡男ではない。だが、一人の武者に戻る。 お主の「女」は、もう終わりだ。 「オレを抱いていいぜ。」 ・・・え? 「何を・・・申しているのだ。」 何を、急に。 ヒカルの意図が見えない。あまりにも。 「ほら、コウ、」 呆然とする私の手を取って、自分の着物の袷目に導く。 しっとりと湿った皮膚に昨夜の艶声が甦り、自分の中の牡が疼きそうになる。 いや、何を考えているのだ。 ヒカルは男だ。 そして国の敵で、父の敵で、私の誇りの、身体の敵で・・・ 「離せ・・・。足りなければ緒方を呼べ。」 「緒方はもう呼ばない。」 「知らぬ。とにかく私を緒方の代わりにするな。」 ・・・っくっくっく。 今度は声を出して。 この朝に、笑いは似合わぬではないか。 「オレがオマエを抱かなかったのは、オマエが嫌がってると思ってたからだよ。」 「な、嫌に決まっているだろう!」 「ふふ。そういう事にしておこう。だから今度はオマエがオレを抱け。」 「断る。私にはそういう趣味は、」 「ではこれは?」 前を、撫で上げられる。 声が漏れそうになるのを抑えるのに苦労するほど、 私はいきり立っていた。 「・・・・・・。」 「昨夜のはだいぶ堪えただろう。よく粗相しなかったな。」 目だけで懐剣を探す。 どこか近くにあるはずだ。 見つけたら自分の陽物を切り取ってくれるつもりだった。 「おい!戯れ言にいちいち殺気立つなよ。」 「ともかく、」 「来いよ。オレの中に挿れろ。オレの中に出せ。」 「・・・・・・。」 そんな言葉にくらくらとするほど、 開いた足を絡められると、逃げられなくなるほど、 私は一体、どうしたというのだ。一体。この熱は。 「効果覿面。」 「な・・・にが、」 「緒方の媚薬だよ・・・。」 緒方の・・・? そういえば薬師、だと、 そんな。 「いつ・・・」 「オマエが眠ってる時に口の中に流し込んだ。」 「・・・・・・。」 「ほら、淫らな気分になって来ただろう?オレを抱きたくて仕方ないだろう?」 人差し指と中指を自分の口の奥深くに差し込む。 「もう、遅いよ。」 げぇ、とえづいたが、唾がだらだらと出るばかりで何も出てこなかった。 「効きはじめてから吐き出そうったって無理だって。」 ヒカルが私の手首を取って、唾液に濡れた指を開いた自分の足の間に持って行く。 堪らなく扇情的な光景と・・・感触。 「この一度だけだ。だから、存分・・・味わうがいい。」 ・・・ぐ。 力を込めたのは、私自身だった。 ヒカルの仰け反った喉に、なけなしの理性が飛ぶ。 薬に溺れ、霞んだ目にヒカルは既に姫と映り、時さえ戻る気がする。 この城の高楼で、果たせなかった初夜の夢へと引きずり込まれ、 伏せられた桜色の瞼、桜色の、・・・。 獣と化した私は初めて触れるヒカルの中を掻き回し、慌ただしく欲望をねじ込んだ。 「・・・ったく。ちったあ手加減しろよ。」 本当に。自分の中にあれ程の獣性が潜んでいるとは思わなかった。 薬の力で引き出された欲望は、こうして我に返ってみると目を覆いたくなるようなものだった。 「すまぬ・・・。」 「そう思うなら人が来る前に朝餉を取りに行って来てくれ。」 「あい分かった。」 「それと、責任取って少なくともオレが良くなるまではここにいろよ。」 「・・・心得た。」 ヒカルは自らの力で立ち上がる事も出来ず、厠に立つにも私の肩を借りねばならぬ程だった。 恐らく緒方に散々致された後、私がそれ以上に無体な事をしてしまったのだから、 さぞや辛いだろう。 当分は公務も休むだろうし、馬にも乗れまい。 ヒカルが弱っている。 あの傲岸無比な。鬼神の如きヒカルが。 弱らせてしまったのは私だ。 自分がしてしまった手前、それを出来るだけ彼の家臣の目に触れさせぬよう、 この一日二日は付ききりでいてやろうと思った。 「オマエ、凄かったよな。オレに抱かれる時よりも断然、」 「それは!男子の性としてされるよりもする方が、自然に決まっている。」 「とにかくオマエがオレとしたくないんじゃなくて良かったよ。」 「な、男とまぐわいたい訳がないだろう!あれは薬が、」 「薬?」 「緒方の媚薬がなければ絶対あのようにはならなかった。」 ヒカルの唇が、徐々に吊り上がった。 くくく、と寝転がったまま身を捩って笑う。 嫌な感じ。 訳もなく背中に汗が滲む。 「・・・薬なんか、最初からないぜ。」 ?! 何、だと? 「緒方の媚薬だ。」 「何だよそれ。」 「効果がどうなどと・・・、申した。」 「そういやそんな事言ったかな。」 「私が寝ている間に口に流し込んだと、」 「う・そ・だ・よ。」 「そんなはずはない!お主も使っておったではないか。」 「入り口を弛める軟膏はな。」 「・・・軟膏。」 「そもそも媚薬なんて本当にこの世にあるのか?」 私は息を呑み、 昨夜とは違った意味で、目の前がくらくらとする。 媚薬など、なかった・・・。 「オマエは自分の意志で、オレを抱いたんだ。」 また私はヒカルに、 はめられた、 思考が止まった私に、ヒカルがいつものセリフを繰り返す。 「オマエが、欲しい。」 頑是無い童のように。 芸がない。 そんな事を言われても、 「その代わり、」 私は国も城もいらぬ。 そなたから何かを恵んで貰おうなどとは思わぬ。 「オレを、オマエにやる。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・。 −続く− ※乙女な展開。自分で照れます。 |
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