神の子は皆踊る  〜 「ムーラン・ルージュ」ロートレック〜












なー、塔矢って嫌がらせするようなヤツだったかぁ?
まあ、確かに、思い込んだら一念、みたいなコワイところは確かにあったけど
趣味の悪い冗談のようなことをするようなヤツじゃ、なかったよな、うん。

それがさ、いきなり、だぜ、
外国人風のサダコの絵葉書送ってくんだもん、
これ絶対、嫌がらせ、って思うよな。
長い黒髪でニヤニヤしてて、びっくりしてさーオレ
呪いのハガキかと思って、慌てて捨てそうになって、
でも、誰だ、こんなことするのは、と思って差出人みたら
塔矢で。
ソッコー電話して、何しやがるんだ!って言ってやったさ。
こんな気持ち悪いことすんな!ってね、
したら、モナリザも知らないのか!って逆ギレしてきて。

なんか、アイツ、最近特にヘンだよ。
気がつくと、すんごくコワイ目でオレ見てたり。
そりゃさ、始めのうちはオレが自意識カジョーかな?とも思ったけど、
いやアレは違う。
なんかヘンなのに、とり憑かれてんじゃねーのかなぁ、アイツ。
そうそう、それで、そのあと、一緒に絵でも見に行かないか、って
言い出して。
キミは基本的な教養が足りない、だのなんだの、回りくどいこと
言いやがって、
オレもなんかムカついたから、あーその絵描きなら知ってる、
行こうぜ、ってことになったの。

そいで、二人で上野公園にいたわけ。
まー、驚くよなー。
まるでデートみたいじゃん、え?違うよーもちろん。
でさー中入ってみたらすんごい人でさ。
なんか空気も悪くて、帰りたかったけど、
でも仕方ないから、行列に並んで、
見るは見たけど・・・あー退屈だった。






  退屈だから、ついつい目は目の前にいる塔矢を見るしかなくて。
  どうやら、どんどん混んできた様で、
  後ろから押される格好で、自然に塔矢の体に密着してしまうのは仕方ないことで。
  でも、その体温を布越しに感じた瞬間、
  以前にしがみついた塔矢の感触が、
  細いけれど、しっかりした肩の骨格とかが急に蘇ってきて、
  意識した途端、体温が上がった。
  加えて、少し汗ばむほどの熱気に包まれた館内では
  密着した塔矢の体から立ち昇る体臭は
  モロにオレの鼻腔を直撃して、
  どうも、オレは少しおかしくなってきていた。

  そんなときだ、塔矢がふりかえったのは。

  「進藤、ほら、あれだよ。」

  塔矢が指差す先には、ひときわたくさんの人に囲まれている作品があった。

  「あれが、有名なムーラン・ルージュだよ。」

  「む、ムーラン・・・なに?
   それ、なんなの?」


  「あれはね、ムーラン・ルージュという娼館の宣伝ポスターなんだよ。」

  「しょうかん?召還魔法の?」

  「・・・・いや、魔法はしらないけど、娼婦のいるところのことだ。」

  「へー、じゃ、あのおねーさん、売春婦なの?
   えー、でも全然色っぽくねーじゃん。
   へんなのー。
   あれで誘ってるつもりかなー?」


  でも、もしあれが塔矢アキラだったら・・・?
  塔矢があんなふうに足を広げてるとこなんて想像できな・・・
  い、けど、・・・けど。
  あれ、オレなんでこんなこと考えてんだろ。
  オカシイ、おかしいよ、絶対・・・

  




え、そいで、美術館デートがどうだったかって?
うーん、なんか結局塔矢しか見てなかった気がスル。
つーか、だからデートじゃないって!あんなの。
あのあと?あー、勿論いつもどおり碁会所で打って検討して
おしまいだよ。
別に塔矢もそれで満足してたみたいだし。
あ、でも不忍池のほとりを歩いていたとき、
塔矢が思いつめた顔で、何か言いかけたんだけど、丁度
鳥がいっせいに飛び立った瞬間と重なって、
なんて言ったか聞こえなかったんだ。
すごく大事なことを言ったような気がしたんだけど、
確かめるのが怖くて、ただ、うん、としか答えなかった。
それきり、碁会所につくまで、殆ど喋らなかったな。
なんて、いったんだろ。
確か、「僕はキミの・・・」いや、やっぱりわからない。
わからないほうがいいことのような気がする。
なんでだろう、怖いんだ。

誰かの想いを受け止めるということが、何故だかとてつもなく怖い。
大事なものは大事すぎて、見つめることさえ恐ろしくなる。
塔矢も塔矢の想いも、オレにはきっと重たすぎるんだ。







「ヒカル〜!いつまで電話してるの?
 携帯代だってバカにならないのよっ!
 もう、ご飯済ませてないのアンタだけなんだから、
 はやく食べちゃいなさい!」


「はーい、今行くよーっ!」


あーもう、うるさいなぁ。
邪魔すんなよなー。
せかくオマエと久しぶりに話してるのにな。


あれ?なんだろ、これ、髪の毛?
真っ直ぐで黒くて、オレのじゃないな。
おかしいな、今日はずっと部屋にいたのに、どっからくっついてきたんだろ。


その時、それまで床に放り出されたまま冷たくなっていたオレの携帯に
メールを知らせる着信音が響いた。
添付ファイルで送られてきたのは
オレでもわかる、ムンクの「叫び」だ。
きっとこんなことをするのは、塔矢に違いない!
まったく、何考えてんだ!
オレは一発どなってやるために、今日はじめて、通話ボタンを押した。












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