なつやすみ5
なつやすみ5








「塔矢くんと私、ヒカルのお父さんとお母さんみたいだね。」


進藤を真ん中に、3人で手を繋いで公園に向かう途中、藤崎さんが可笑しそうに言った。
ボクはほぼ毎日進藤の家に通っているので
(その為に対局以外の仕事は入れないように頼んであったりする)
偶に藤崎さんとも会う。

二人いれば進藤が暴走しても何とかなりやすいのではないかというのと
偶には彼のお母さんを休ませたい、という思いから、ボク達が揃ったら三人で公園に行く、
というのが恒例になっていた。


「そうだね。」


ハイテンションでボク達の手をぶんぶんと振り回す進藤に閉口しながら、頷く。







藤崎さんは、本当に進藤が好きなんだろうな、と思った。
単なる幼馴染みでは、ここまで出来ないだろう。

一度彼に振られているのに、それでもこうやって彼の為にやって来るのだと思うと、健気だと思う。
その振られた理由がボクなのだと思うと・・・胸が痛む。

彼女はとても可愛くて、いい人だ。
でも、


「塔矢!みてみて!」


進藤が、誰かの落としたらしいゲームのメダルを拾って見せに来たのは、ボクだった。


「がいこくのお金かなぁ。」

「それはね、ゲームセンターって言う所でだけ使えるお金だよ。」

「げーむせんたー?」

「大人の人が、遊ぶところだ。」

「ふーん。」


じゃあ、おとなになるまで大事にもってる、と言った進藤に、藤崎さんと顔を見合わせて笑った。
こんな時の進藤は、自分の体がもう大人と言えることをすっかり忘れていると思う。




「やっぱり、男の子は男の子同士がいいのかな。」


藤崎さんを無視して砂場の方に走って行く進藤の後ろ姿を眺めながら、
彼女が寂しそうに呟いた。

最初あかりちゃん、あかりちゃん、と藤崎さんにばかり懐いていた進藤も
最近はよくボクに話しかけたりおぶさったりする。

それは、ボクの方が会う回数が多いというのもあるだろうが・・・。






進藤に人に言えない「ご褒美」を上げるようになってから、
碁で勝負が決まるまで、あるいは終局まで打ちきれるようになって来た。

とても嬉しい。

ボクがこうやって進藤の家に通うのは、やはり彼と碁を打つためなのだ。
その後で進藤の体に触るのは、おまけのようなものだ。
彼にとってはメインかも知れないが。


「昔からそうだったのよ。ヒカルは私を置いて男の子と遊びに行っちゃったり。」


・・・・・・。

ボクは、藤崎さんの目を見る事が出来なかった。

ごめん。藤崎さん。
ボクは男だけれど・・・男なのに、肉欲で、進藤を縛り付けている・・・。






進藤は早く終わらせたいが為にワザと荒っぽく打ったような時もあったが、
純粋に碁を楽しみ始めている部分が見受けられる事もあった。

まだボクに勝ったことはないが、この様子なら、遠からずもっと強くなるかも知れない・・・。
例え今は「ご褒美」の為に打っているのだとしても。


今でも進藤に触れる時には、一抹の後ろめたさを感じる。
以前はあんなにボクに触れたがった進藤があまりにも受け身なので、
自分が小さい男の子に性的虐待を加えているような、そんな気がして仕方がない。

それは進藤の望むことだけれど、
ボクはただ進藤に打たせたいが為にそんな卑怯とも言える手段を使っているので。




ボク自身は今の進藤にあまり欲情しない。

それは、進藤に触れて彼が悦がってくれれば嬉しいし、少しは興奮しないでもないが
やはり相手は6歳なのだ。
どうにかしようという気が・・・起きない。


こんな時逆に、進藤が恋しくなる。

あの、ボクと同じくらいに碁に打ち込んでいた、
誰のためにでもなく、自分の為に碁を打っていた、
ボクの愛した進藤は、何処へ行ってしまったのかと。







藤崎さんが予備校へ行った後、ボクはそっと溜息をついた。

進藤は「たからさがし」と言って、そこら中を掘り返し始めた。
どうもさっきのメダルも、半ば地面に埋まっているのを見つけたらしい。


「もっともっとうまってるかもしんない。見つけたら大金持ちだ!」


あの、ボクの手の中で達してしまう進藤とは別人だと思いたい。
思いたいが、あの額に光る汗も、きらきらとした瞳も・・・。

じゃなくていやだからゲームのメダルだと言ってるじゃないか。
だが楽しそうに「おおばんこばんがざっくざく〜」と歌いながら掘っている進藤を見ると
別にいいかと思ってそのまま放っておいた。


「100まいくらい見つけたらね、塔矢にも半分やる!」

「それはありがとう。」

「やっぱりやーめた。」

「何だよそれ。」

「代わりにお城みたいなおうちをたててやるよ。」


それにはキミが碁を精進した方がずっと近道だと思うけど。
でもキミの気持ちが嬉しいから何も言わない。


「あまったお金でおとうさんとおかあさんにも家買って。あとあかりにも。」


・・・気前がいいな。ボクだけじゃないのか。


「だから塔矢もほって。」

「え。」


改めて進藤を見る。
スコップなど持ってきていないので、拾った木の枝で掘っている。
一応道具を使っているのにそれなのに、どうしてそんなに全身泥だらけなんだ?

見ていると進藤は汚れた手をぐいっと服で拭った。
これか・・・。

まだ汚いその手で、ボクの腕を掴もうとする。


「や、やめろよ。」

「いっしょにほってよー。」

「スコップがないから無理だ。」

「ん〜。じゃあ、きて!きて!」


・・・結局掴まれてしまった。





引っ張って行かれた場所は公園によくある砂場。
他に子どもがいなくて良かった。


「ここなら手でほれるよ。」


え、キミ宝探ししてたんじゃないのか?


「ほら。」


砂に膝を突いて、両手でざくざくと掘り始める。
ああまた服が汚れた。


「塔矢もほって。」

「・・・・・・。」

「ほ・っ・て・え!」


仕方がないのでそうっと砂場に入り、進藤の向かいにしゃがんで片手で掘る。
革靴が・・・。

しかし進藤が移動しないのは楽だ。
目を離すとすぐに公園から出てしまいそうになるので。

その内、股を開いて「うぃー」と言いながら、重ねた両手を大振りに振りながら掘り始めた。
犬になりきっている?いや、カマキリか。


「ショベルカー。」


・・・そうですか。
しかしかなり恥ずかしいんだけれど。幼児ならともかく今キミは16歳の姿。
どうか誰も来ないで欲しい。

というか、そんなに砂を散らして掘ったらボクの靴の中にも砂が・・・。


「ちょっと待って。靴を脱ぐよ。」


ボクはあきらめて靴と靴下を脱ぐことにした。
後で足を洗うしかない。


「オレも!」


キミは既に充分汚れているから必然性がないように思う。
だが無闇にボクの真似をしたりするのは今に始まった事でなく、それに意味があろうはずもなく。
ボクは溜息をついた。


「・・・靴下だけ脱いで靴は履いておいて。ガラスの欠片とか落ちてたら切るから。」

「塔矢は?」

「ボクはいちいち自分で足場を確認するから大丈夫だ。」

「あしばおかくにんって何?」

「自分の踏む所を見る事だよ。」

「オレだって見てるよ。」

「ただ見るんじゃなくて、ちゃんと危ない物がないかどうか確認・・・チェックしなくちゃ。」

「してるもん。」

「嘘吐け。この間見てて画鋲踏んだじゃないか。」


あれには驚いた。
その十センチ向こうのおもちゃは見ていて、画鋲が見えていないんだから。
進藤はとてつもなく視界が狭い。
しかもその画鋲も数分前自分が落として拾わずに放っておいたものだと言うのだから
脱帽するしかない。

進藤の周りには危険がいっぱいだ。
ボクは自宅にいても気が気じゃなく、それでこうしてまめに通ってきてしまう訳で。

藤崎さんも、こんな気持ちなんだろうか。
だとしたら・・・少し救われるのだけれど。






そうこうする内に進藤は掘り進み、いつの間にか自分が入れる程の大きな穴が空いていた。
宝探しは何処へやら、既に掘る目的は掘ること自体になっていて・・・。

気が付けば進藤はすっぽり入り込んで頭を縁にのせ(汚い)、


「い〜い湯加減。」


風呂に入っているてい。
服を着たまま砂風呂だ。そのまま埋めてやろうか。
他人事ながら洗濯が心配だ。

そして気が付けば知らない間にボクも両肘の上にまで砂がついていて。
まあ洗えばいい。服が汚れるよりマシ・・・って汚れてる!
このまま電車に乗るのは無理そうだ。
今日は進藤に服を借りて帰るしかないか・・・。

彼のTシャツとハーフパンツに身を包んだ自分(しかも革靴)を想像すると、気が重くなった。






「そうだ!これおとしあなにしようぜ!」

「誰を落とすんだ?」

「ん〜、あかり!」

「もう帰ったじゃないか。」

「だーかーら。」


藤崎さんがキミと遊んでくれるのは彼女の厚意で、本当はもっと別の事に使いたい時間でも
あるだろうし、勉強も忙しいだろうし、なのに来てくれる恩を仇で返すつもりかキミは
大体さっき藤崎さんに家を買ってやるなどと言った舌の根も乾かぬ内に、

といったボクの言葉に進藤が耳を貸すはずもない。

更にさくさくと掘り進み、子どもではないのでちょっとした縦穴になった。


「見て!塔矢。石がいっぱいでてきた!」


本当に、底には沢山石があった。
なるほど、砂場の底には砂利が敷き詰めてある訳か。初めて知った。


「よーし!このままちきゅうの反対がわまでほるぞー!」


またしても目的を忘れた進藤が雄叫びを上げた途端に・・・。
掘って周りに積み上げてあった砂の重みで、壁ががっさりと落ちた。

呆然とした顔の進藤の膝のあたりまでが砂に埋まる。


また大声で泣き出すんだろうか。
どれ程がっかりするだろう・・・。

と思ったが、進藤は突然笑いだし、


「いきうめいきうめー!」


と喜んだ。
彼の感情の動きは、ボクには全く読めない。


「だーれーかー。たーすーけーてー!」


笑いながら泣き真似をして、ボクに手を差し出す。

仕方がないので縁に立って手を差し出すと、進藤は両腕でボクの首にかじりついてきた。
外でそれは止めて欲しい・・・。

と思ったら、その途端にボクの立っていた場所も崩れる。
ずるりと穴に引き込まれ、ボクは砂場に仰向けに倒れた。


「わっ!」


バランスを失った進藤もボクの上に倒れてくる。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・くっ、あーっはっはっは!」

「あっはっはっは!」


公園の、有り得ないほど掘り起こされた砂場で抱き合ったまま倒れているプロ棋士二人。
何故か笑えて仕方なかった。

背中も髪も砂だらけなのも、もう良かった。


今度は着替えを持ってこよう、と思った。








−了−



※ヒカ碁の二次創作だということを忘れたわけじゃありません。

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