METAMORPHOSIS 4 その晩は様々な感情と思考に翻弄されて布団の中で転々としたが 朝には何とか気持ちが纏まっていた。 するしか、ない。 昨夜の様子を見るとこのまま布団を並べつづけるだけでは誤魔化しようが なさそうだった。 とすれば、本当の夫婦のようにするか、あるいは何もかも白状して 全て嘘だったと謝るしかない。 後者は実質選択肢としては、ない。 そんな事が出来る程なら最初からこんな大掛かりな事はしていない。 苦肉の策として自分の身体に問題があって出来ないのだと言う事も出来るが それならそれで何故結婚前に言わないのだと、ボクが彼(彼女)の立場なら問い詰める。 その挙げ句詰られて離婚だなどと、嘘だとしても不名誉というか正直 考えたくない展開だ。 だから覚悟を決めたのだ。 出来るかどうか判らないし、出来たとしてもその時進藤にバレるかも知れない。 性別を自覚させてしまって良くない症状が出るかも知れない。 それでも、ボクは賭けずにはいられなかった。 勝っても得るもののない、哀しい賭けだった。 昼間、バスで有名な日本庭園や江戸屋敷を巡った後繁華街で昼食を摂る。 その時インターネットカフェを見つけ、「メールチェックをしたいから」などど 理由をつけて入店した。 進藤がマンガを読んでいる間、個室に入って急いで検索をする。 ……ボクが思っていたよりも、それはメジャーな世界だったらしい。 いや、匿名の電脳世界だからこそ派手に花開くのか。 とにかく、思ったよりも簡単に目的を探し当てる事が出来た。 いくつかえげつないトラップを踏みながらも「それ」が可能である事、 またスムーズに事を進める為のいくつかの方法を得てボクはウィンドウを閉じた。 夜になった。 楽しい夕食(進藤のバカ話は本当に下らないが、聞いていると面白い)の後 昨日と同じ流れで一緒に露天風呂に入る。 今回はボクは進藤の背中を流した。 少しでも男性の身体に対する耐性をつけておきたかったのだ。 覚悟は決まっている。 心配事はただ、自分がその時役に立つかどうかだけだ。 時間はゆっくりある…とは言え、今日出来なければ今後出来るようになるまで かなり苦心しそうな予感はあった。 部屋に戻り、布団の上で差し向かいになった時既に進藤は欲情していたらしく 躊躇いながらも自分からそうっと口をつけてきた。 何となくイニシアチブを取られては不味い気がしてボクも進藤の首を抱え、 顔を動かす。 そのままでは何か不自然な気がして少しだけ舌を入れてみた。 出来るだけ何も考えないようにしていたつもりだが、その時、 進藤の唾液の臭いというか、何か男臭さのようなものが感じられて つい反射的に顔を離す。 離してからそれも不味いと気が付いて、慌てて頬と頬をつけて抱きしめた。 進藤の頬は熱く、そり残したか伸びるのが早い髭がちくちくとして そう言えば進藤はどんな顔をして髭を剃っているのだろう、と初めて疑問に思った。 さて、そのままの流れで進藤の布団の上に折り重なるように横たわった訳だが さすがにまだ「男とする自分」を直視する度胸はないのでまず電灯を消す事にした。 小丸電球の薄明かりの中、自分の鞄から薬局の紙袋を出して布団に戻る。 もう一度覆い被さって今度はキスをせず首の辺りに唇をつけると 思ったより滑らかな肌で少し石鹸の匂いがした。 「進藤……いい?」 「…決まってんじゃん…」 期待していた訳ではないが進藤の方が断ってくれるのではないかという 一縷の望みも絶たれ、聞こえないように溜息を吐きながら自分の浴衣の帯を解く。 その後進藤の浴衣も脱がせる事になると思っていたが、彼も起き上がって 無造作に自分の浴衣の襟を抜いていた。 そのまま下着も取っているようだったが、よくは見ない。 ボクも下着も取って謂わゆる「生まれたままの姿」で向き合い しばしお互いの目を覗き込むようにしてから、いよいよ事に及んだ。 実は女性との経験もないのでよくは分からないのだが、とにかく揉むべき胸はないので 右手で何となくその辺りを撫でさすり、指に当たった乳首を軽く抓んでみる。 進藤は声になるかならぬかの呼吸で「あ。」と小さく呻き、その声は意外にも 色気があった。 このままなら、何とか為りそうだ。 出来るだけ女性の裸を思い浮かべながら、左手で自分のものを撫でさすってみる。 まだまだ硬度は足りない。 利き手をそちらに動員した方が効率良いことに気付き、左手を進藤の胸に持っていって 右手でまた作業を再開した。 偶然手が当たって気が付いたのだが、驚いたことに進藤は既に勃起しているようだった。 上半身を撫で回すだけのこんな拙い愛撫に感応してくれたのか。 男とは言え何となく嬉しくて、その竿を握ってやりたくなったがやはり抵抗がある。 それに「男の象徴」に手が触れる事で進藤の内面に妙な変化が生じかねないので そこには手を出さず、布団の横に置いてあった薬局の袋を手探りした。 中にはローションと避妊具が入っている。 購入する時に顔から火が出そうだったが旅の恥はかき捨てだ。 プラスチックの蓋を開けて瓶を傾け、掌に出す。 手元が狂って少し布団に落ちたようだが構うものか。 そのまま両手を軽く摺り合わせてもう一度自分の股間に手をやった。 優れた道具…というか液体だと思う。 普通の薬局で買ったのだから勿論「それ用」ではないが、その ぬるぬるとした感触は驚くほどボクを興奮させてくれた。 結果、ボクは勃起する事が出来たのだが実はこの時一瞬進藤のことを 忘れていた。 少しの時間とは言え自分のことを全く忘れて自慰に耽る夫をどう思ったのか分からないが 進藤は足を開いたまま大人しくしていた。 ボクは、とにかく出来るものなら早く済ませたいと思っていたし、現に 早く済ませなければ半永久的に終わらない懸念に苛まれてもいたので 躊躇いを捨ててぬるぬるとした指を進藤の足の間に伸ばし、尻の穴を探る。 実はここも本来危険なポイントで、「女性」である進藤に「そこは違う」と言われてしまったら 進退窮まる所だった。 「ならどこに入れればいいんだ」と言う以外ボクに何が出来るだろう。 だが怖れていた事態にはならなかった。 進藤はごく当たり前にその事を受け入れているらしい。 だから、ボクも最後の覚悟を決めて紙袋からもう一つの箱を出した。 「塔矢…?」 「ああ、少し…待ってくれ。」 「なに…」 「……コンドーム…着けるから」 進藤が悪い病気を持っているとは思わないが、衛生面から言っても これは必須であるとあるサイトには書いてあった。 しかし。 「んなのいいよ…」 「どうして?」 「どうしてって…オレら夫婦じゃん?」 ……夫婦間の性生活で、避妊具を使用するのが一般的なのかそうでないのか 分からないが、少なくとも進藤の中では使わないものらしい。 そう彼が思っていても実際入れる場所が場所であるだけに 困惑しないでもないが…今はまず、この事を成功させるのが第一だ。 進藤と議論をして自分を萎えさせるのは得策ではない。 だから腹をくくって彼の足をぐいっと持ち上げ 自分のものをそのままあてがって…… 「ぐっ……あ……」 「…痛い?」 「だい…、大丈…あ…」 「先が、入った……。でもきつい…力を抜いてくれないか」 「う…ん…」 「もう少し、入れていい?」 「…うん……あ、つっ…!」 進藤の声は殆ど言葉にならず、呻くばかりだ。 他人事ながら余程痛いのだろうなと予想はつく。 腹に当たる彼のものは先程までの勢いが嘘のようにぐにゃりと垂れ それでも健気に「痛い」と口に出さず努力してボクを受け入れている彼が 初めていじらしいと、愛しいと思えた。 今までのライバル関係に於いて、彼とボクの利害が一致しなかった時に 彼の方が譲ったり我慢した事は皆無と言っていい。 ボクも主張すべき事は主張する方だが、どうしても最後は「我を通す」事に 迷いが生じて、一歩引いてしまったりする。 けれど今の彼はどうだ。 自身は全く快感を感じていないらしいのに、耐えている。 ボクの為に。 この結婚は彼から言いだした事だし、彼の方にはこうなる事の予想がついていただろうから 当たり前と言えば当たり前だが、堪え忍んでいる彼というのは非常に新鮮で 何故か、思わず、股間に先程以上に血が集まってしまった。 またそれだけではなく……。 ボクにそういう趣味は断じてない。 と思う。 けれど、進藤の中は純粋にとても…気持ちよかった。 中は熱くきつくぬるぬるとしていて、けれど滑らかすぎはしない。 程良く油が網を張った肉を口に含んだ時のように、ざわざわと粘膜が刺激された。 危ない。 落ちる。 そんな思考の断片が頭を過ぎる。 このまま本能に身を任せていては危ない、そう思っても、 相手は男だと自分に言い聞かせても、 萎えることなど出来なかった。 止まらなかった。 勿論進藤の事を忘れた訳ではないが、彼の呻き声がそれ以上大きくならないのを幸いに ボクは少しづつ動く範囲を広げ、スピードを上げた。 …終わった時には汗で風呂上がりのように濡れていた。 左手の上腕筋が妙に痛み、筋力の限界を超えて進藤の足を持ち上げ続けていた事に 気付く。 早かった……と思う。 それでも進藤に文句を言われる懸念は全くなかった。 彼も頬を染め、苦痛から解放された安心感からか放心したような顔は 満足の表情にとてもよく似ていたからだ。 もう一度、キスをする。 今度は先程のような不快感はあまりなかった。 「進藤…痛くして、ごめんね」 「大丈夫だって」 これも、そう言われてしまうと返す言葉がない。 次から痛くしないよ、と言える保証もないし、キミもその内気持ちよくなるよ、 なんて余計に無神経な言葉だ。 しかし、次の進藤の言葉は。 「仕方ないよ。子ども授かるためには」 「え……?」 …子ども、子ども、今まで考えついた事もない言葉に頭が回転を止める。 結婚、避妊具、子ども、…… 「キミ…子ども欲しいの?」 「ったりめーじゃん。何の為におまえと結婚したと思ってんの?」 「……」 すうっと、 自分の顔から血の気が引いたのが分かった。 けれどそれが怒りの為かそれとも恐怖の為かは分からない。 何の、為に。 結婚とは。 愛し合う者同士がするものだと思っていた。 進藤がボクに結婚を申し込んでくれたのは、ボクを愛した故だと無条件に思っていた。 ボクは彼を異性として愛してはいないが。 それでも彼の為に出来るだけの事はしたいと思うほどに大切に思っている。 だから。 形だけであったとしても、 いつまで続くか分からないとしても それでもこの結婚は幸せなものに違いないと。 ……ボクは、進藤から直接愛を告白された事は、ない。 「…何の、為に結婚したの?」 「最強の遺伝子が欲しかったからに決まってっじゃん」 「最強の、」 …遺伝子。 進藤に、自分が酷い事を言っているという自覚はない。 それはそのあっけらかんとした表情を見れば分かる。 ホントは行洋先生が独りもんなら行洋先生にお願いしたかった位だけどな。 囲碁分からないおばさんとでもおまえを作ったんだからDNAは折り紙付きだよ。 だからこそ無理なんだけどね。ははは。 緒方先生も悪くないけど、聞いてみたらあの人の親は全然囲碁しない人らしい。 突然変異かもね。 いくら強くても囲碁が強い遺伝子持ってなかったら意味ないよ。 「オレも突然変異だけどさ、オレ達の子なら、きっと最強だ」 最強の、遺伝子。 ボクの全ての思いと、動機を崩壊させる言葉。 凄まじい早さで崩れ行く砂礫の王国に立っているかのように。 足元に、さらさらと 砂の舞い散る気配がする。 −続く− ※「最強の遺伝子」ってどっかで聞いた言葉だと思ったらグレイシー一族でしたっけ。 お察しの通り百題の「砂礫王国」にしたかった話。 |
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