初夏の魔物








「じゃあ、打とうか。」


終わって早速服を着け始める塔矢の手を掴む。


「何だ?」

「お前さぁ、もしかしてここに、碁を打ちに来てる?」

「そうだけど?」


なんつーか、こう、もうちょっと甘い時を過ごそうとか二人で惰眠を貪ろうとか
もう一戦交えようとか、そういう余韻みたいなのはないの?


「じゃあ、オレとするのは指導料前払いみたいなもんなわけ?」


言ってしまってから、しまった、と思う。
滅茶苦茶嫌味を返しやすい事言っちゃったじゃん。

「そういうセリフは僕より強くなってから言って欲しい」とか
「いつのまに僕を指導できるほど強くなったんだ気付かなかった」とか。

案の定塔矢はにっこり笑いながらオレを振り返る。



「指導するほど棋力に差はないと思うけれど。
 なかなか筋の良い碁を打たれます。」



こんちくしょう!
コイツだけはぜってー抜かしてやるからな!


「いーえ!アキラ先生にはいつもご親切にご指導頂いていますので
 存分に払わせていただきます!」


シャツに片腕を通した塔矢を引き戻して押し倒す。


「結構だ!結局楽しんでるのは君だろう?そんなの、指導料にも何も
 なりはしない。」

「だーかーらぁ、今からお前を楽しませるから。」

「やめろよ!」


そんなこと言ってオレが「サービス」しようとしても
いつもいつも拒むのはお前じゃん。
耐えるみたいな表情をしながらも結局唯々諾々とオレを受け入れるだけで、
自分は気持良いから今のところ別にそれでも構わないと思ってたんだけど、
そんなこと言うならもう、本領発揮しちゃうよ?

じたばた暴れる塔矢の太股を抱え込み、とにかくくわえる。


「!」


硬直する塔矢。いや、身体が。
その後死にものぐるいで逃れようとする。
そうは行くかよ。


「ひげはら、はむよ。」


通じている自信がなかったので駄目押しに軽く歯を当ててやる。
案の定大人しくなった。


それにしても勢いとは言えいきなり塔矢のモノをくわえてしまうとは。
さっきまでは触らせてさえ貰えなかったのに。
人生一瞬先は闇、なんてな。


時間が止まったような部屋の中、
窓の外は青すぎる空。


って漫然とくわえていても勃ってはこない。
でも、指で腹を、さわりと撫でるとズキンと脈打つ塔矢。

さわり。

ズキン。

さわり。

ズキン。


どんどん固くなって立ち上がって来る。
これは・・・・・可愛いかも。





調子に乗って少し頭を動かしてみると、
「あっ。」と小さな声を上げて足に力が入る。
やばいっ!興奮してきた。
オレが。


気持を落ち着かせようと努力しながら、いつか、いつかを思い出しながら
舌を使う。
上の方を見ると、塔矢は手の甲を目の上に載せている。
それでもその目が閉じられて、快感に歪んでいるのは、分かった。
滅茶苦茶・・・嬉しい。

・・・如何ですか?初めての挿入は。(口だけど。)
人の中は手よりも柔らかいだろ?あったかいだろ?


口を離さないまま手探りでローションを取り、掌にこぼす。
後ろに指を当てると同時にまたびくっと震えたが、拒みはしなかった。
あいや、拒めないか。


塔矢の尻はいつもより汗ばんでいて、中も熱いような気がした。
あれ、ぬるぬる・・・ああさっきのオレの。

前も後ろも、ってのはどうなんだろう。
そういえばやって貰った事ない。
きっとすごく気持いいんじゃないかな。
塔矢を見てると少し羨ましくなる。

オレの頭が、指が、動く度に、
揺れる息と、身体。

頑張らなくても、いいよ。
出しちゃって。
オレ、飲めるかどうか分からないけど、
あでも、顔にかけるのは、なしな。




とその時、動きの速くなったオレの頭を塔矢がガシッと鷲掴んだ。


「頼むから!やめてくれ・・・。」


えーなんでー?ここは「やめないで」とか言う所じゃないの?
同じ男なのに塔矢の考えることはよく分からない。

その顔を見てみると、
ほっぺが赤くなってて、
引きつった下瞼が震えて睫毛が揺れる。


ああ・・・・・もうダメ。
今オレ、恋に落ちた。

いや、前から好きなんだけど、多分そうなんだけど、
お前の新しい顔を見つける度に、
お前の新しい一手を見せつけられる度に・・・・

なんてったらいいのか、


・・・ガマンできなくなる。




「塔矢、オレ、も、」


顔を持ち上げてオレの下半身を見た塔矢は、少し眉を寄せたけど
何も言わずに頭を落としてまた目を閉じた。

よっしゃあ!



「ねえ、うつ伏せて。」

「・・・・・。」


なあ、塔矢お願い。今回は何もかも許してくれないかな。
オレ、きっと上手くやるから。


もうくわえていないけれど、塔矢はのろのろと動いてくれた。




・・・後ろから見る塔矢は、白くて、すべっとしてて。
腰が細く見えて、本当に女の子みたいだった。
背筋の長い窪みが
薄いけれどしなやかな筋肉が、
絶対、写真か何かに残しておきたい。
よく分からないけど、こういうの、ゲージツ的って言うんじゃないかなぁ。

うすら寒い図書倉庫を思い出す。
動けない塔矢の、海王中のシャツに手を差し込んだ。
そのシャツの下はこんな風だったわけだ・・・。




あの頃、塔矢は今よりまだ少し華奢で、オレなんかに汚されてなくて、
今にも手が届きそうでいて、どうしても届かない存在で。

だから、
偶然貴重な宝物を拾ってしまったみたいに、オレは有頂天だった。


目をつぶって、手を伸ばす。


今より少しだけ骨細いオレの手が、少しだけ狭い塔矢の背の素肌をまさぐる。
前に回した手をどうしていいのか分からないみたいに、
無器用にあばらを一本一本なぞる。

臍の辺の柔らかい皮膚を楽しんでから、胸に伸びて、
ふわふわした乳房がないことに、驚いた。
そうだ、オレ確か、一瞬驚いた。
可笑しいよなぁ。
夢中になりすぎて自分が誰に覆い被さってるか忘れてたなんて。

でも、がっかりはしなかった。

それどころか塔矢に涙声で「やめてくれ・・」とか言われて、
んで、勃っちゃったんだ。


そして、太股に回した手を伸ばして、塔矢を握り込んで。




びくりとした振動と、その重さに我に返って、目を開けた。


ああ、塔矢、感じてる。


そうだ。あれからオレは、塔矢アキラを手に入れた。
あの時みたいに服ごしでもなくて、
抵抗できない情況に置かれているわけでもない。

まあ色々と注文があったりもしたけど今日は
いつもみたいに触るなと、
叱るにはもう、気持ちよくなりすぎていて。
困ってますね。アキラ先生。


おもむろに穴にあてがうと、背中が少し震えた。
大丈夫。二回目だし馴らしたんだから全然痛くないよ。きっと。
心配しないで、オレに任せて。

ゆっくりと、入れて行く。
後ろからだと、誰でもいいみたいで、
例えばスレンダーな女優さんの顔を思い浮かべてても良いわけで、
そういうのもあってあんまり気が進まなかったんだけど。

顔が見えなくてもオレはやっぱり、
オレを受け入れて痛がる塔矢の顔、
さっきの快感に歪んだ塔矢の顔、
そして、
盤面に向かう鋭い塔矢の顔、を思い浮かべていた。



中に入ったままじっと背中に額を押し当てる。

その間も休まず塔矢をさすり続ける。
ああ、なんかいつもより計算してるオレ。
それにしても手を動かしても直接自分が気持ちよくないのは不思議な気分だ。

掌の中で塔矢が膨らんで、薄い皮膚が張りつめる。


「動いて、いい?」

「え・・・・。」


このまま手でいかせると思った?
そんな勿体ないこと、しないよ。

手で塔矢の様子を確かめながら、縮まないように騙し騙し自分も動く。
少しでも塔矢の張力が落ちたら、自分も止まり、また手に集中。
100%近くなったら、また腰の動き再開。
何かに似ているこの作業。

オレも辛いけど、塔矢も辛いよね。これ。
二人とも、いきたくて、いけない。



でも、だんだん・・・・。
オレの腰の動きに合わせて塔矢がビクビクって・・・。

ああ、
ここか。

入り口で
感じてる
訳じゃ
ないんだ、
そういや、
オレだって
そうだった、
もんな、
なるほど、
なる、
ほど。


しばらく動いていると


「進藤・・・いやだ・・・、」


近頃では制止の声を上げなくなった塔矢が。
でもその声は弱く、息は熱い。
自分から腰をうねらせる。多分、無意識に。

こんな塔矢。
見られるなんて。



それとも。
本当に塔矢なのか?

真っ直ぐな黒髪の向こう側は、塔矢の顔をしてないんじゃないだろうか。
オレをこんなに溺れさせて、どうするつもりなんだろう。
脳味噌がちりちりと焦がされるような快感。

こんなの、塔矢とのセックスじゃない。

オレを飲み込む、魔の、快楽。
お前は、誰だ。
いつ塔矢と入れ替わった・・・。




・・・「ふっ」とも「くっ」ともつかない呻きに目を覚ます。
オレが強く突き入れた時に漏らされた声は紛れもなく塔矢の物だった。


「いやだ・・・・・・・いや・・・・・いや・・・い・・」


再びバカの一つ覚えみたいに繰り返す「いや」の間隔が短くなる。
その度に先っぽから滲む液体がオレの指の動きを助けるけれど。

ダメだ。オレもうダメだ。
ゴメン塔矢、せっかくお前をイかせるチャンスなのに、オレもうガマンできない。


前から手を離して両手で塔矢の腰を掴み、
何も考えないで打ち付ける。

塔矢は、揺らされながら上半身を崩れさせ、
母音だけで構成された、呻き声を漏らし続ける。
がっくりと頭を垂れて、シーツを掴む指に力が入っていくのを見たとき、
泣かせてしまったのかと、思った。





とても・・・興奮してしまった。
だって繋がってるとこ丸見えなんだもんよ。
そんで気持いんだもんよ。

出すもの出して、また塔矢の背中に額を押し当て、
しばらく余韻を楽しんでから、ずるりと抜け出した。

ティッシュで拭っている時間ってのは、テストを返して貰うときみたいに、
何か落ち着かない。
塔矢ってどうしてこう匂いが少ないのかな、聞いてみっか?聞けるわけねぇ、
なんてどうでもいい事考えながらなかなか塔矢の顔を見られない。

一旦目があってしまうと、ぼうっとしていても、オレを睨み付けていても、
別にどうってことはないんだけど。
それまでの時間が、何となくいたたまれない。


今日も拭うところは拭っちゃって、先っぽにぽふ、と一枚かぶせて
何気なく、でも内心は恐る恐る塔矢の頭の方を見ると、
・・・なんだ。まだ枕につっぷしたままだ。


「痛かった?」

「・・・・・。」

「そうでもなかった?」

「いつもより・・・」


怒気を含むくぐもった声。
いつもより、何だろう。
ちょっと乱暴だったかな?ゴメン。
いやだとか言われても、全然聞いてなかったしな。


でもそれでも塔矢が怒らないのは、
いや怒れないのは、



その腹の下から滲む、白い、とろりとした、
やはり白いシーツに染みを付ける・・・、


塔矢の黒い髪に指を差し込み、
汗ばんだ頭皮に触れながら窓の外を見る。





明日も晴れるといいなぁ。

洗濯日和だと、いいなぁ。





−了−






※個人的な話ですがサイト開設時に百題の「洗濯物日和」というタイトルを見て
 あちゃ〜と思った覚えがある。






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