嘘 「つっ!」 という声で目が覚めた。 「あ、ゴメン!」 夢うつつの内に塔矢の髪を引っ張っていたらしい。 「髪を触られるのは好きじゃないと言っただろう!」 「ゴメンってー。」 寝てたのにさー。指先につるつる絡まらない髪を絡ませて・・・・。 って、あ、そっか。でも引っ張るまでは黙っててくれたんだ・・・。 コイツ、結構イイ奴。 こんな時間はもう、3回目。 こう、例え相手が男でもこんな風に素肌が触れながら寝てたりとかさ、 目が覚めたときにこのキレイな顔が隣にあったりすると、なんか幸せな気分に なってみたり。 これでコイツが女の子だったりしたらもう、言うことないかなぁと思うことも あるけど、そんなんだったらそれは塔矢じゃないし、 やっぱり今のままがいい。 一つでも穴があったことに感謝しなくちゃ。 キレイな塔矢。 強い、塔矢。 お前はオレのもんだ。 ・・・ホントに? 「まだ聞いてないんだけどさあー。」 「何を。」 「塔矢、オレのこと、好き?」 目を見開いて、息を呑む。そんなに変なこと言った? 次に謎の苦笑を浮かべて 「・・・わからない。」 正直、好きじゃなかったらこんな事許さない、 位の答えを期待してたんだけど。 愛想でもいいから好きだとか言っとけよ。 「ずるい。オレは何回もお前のこと好きだって言ってるのに。」 「本当か。」 「言ったじゃん〜!」 「じゃなくて、本当に、好きなのか。」 お・・・・っと。これは予想外の切り返しだ。 改めてそう訊かれると。 確かに他の奴には渡したくないと思うし、一緒にいたいと思うし。 ・・・なんてったって気持イイし。 でもさ、 正直、あの日塔矢を抱けてなかったら、好きになったかどうか分かんない。 なんてったら怒るかな。 っつか、本当はどうあれこの情況でんなこと訊かれたら 答えは一つしかないじゃん。 「好きだよ。」 「あかりさんよりもか。」 「うん。最近全然会ってないし。お前もまさかこっそり家に行ったり」 「すると思うか。」 「思わない。」 「だろう?」 「今はあかりよりもさ、ずっと好きだ。」 「緒方さんよりも?」 はぁ?!・・・・!って何で?え?何が?え? 「・・・何でそこで緒方先生の名前が出てくるわけ?」 「仲が良さそうだからさ。」 「んなことねーよ。オレお前以外の男興味ねえって。」 「でも、家に行ったこと、あるだろう?」 これは・・・これはこれはまずい。非常に。 何で知ってるんだ。 緒方さん何か言ってないだろうなぁ。 ってか、緒方さんと塔矢の関係も今ひとつわかんないんだよ。 二人とも人前であんま感情出さないから。 結局塔矢が緒方さんのことを本当に嫌ってるのかそれとも逆かってのも はっきりさせないまま今日まで来ちゃったし。 二人がどの程度コミュニケーション取ってるのかも分からないし。 「だろう?」ってこの言い方、既に確認だよなぁ。 とぼけるべき時じゃあ、ないよなぁ。 「それは、あるけど。」 「何しに。」 「え・・・と。 お前と、緒方先生が何かあるんじゃないかと思ったら、居ても立っても いられなくなって。オレって嫉妬深いから。」 どうよどうよ?そんでお前緒方さんのことどう思ってるわけよ? 塔矢の表情を注意深く見てみたけれど、何も読みとれない。 挙げ句の果てに返ってきた答えは、はぐらかしどころか540度 意表を突いたものだった。 「ふ・・・・ん。じゃあ、緒方さんとセックスしたこと、ないんだ?」 う・・わぁ、コイツこえぇ!どういうつもりだ? いきなりそういうよけようのない球投げてくんなって。 首を傾げてしばらく考える。 本当は考えちゃいけないんだけど、ここは絶対間違える訳には行かないし。 「ある。」と言ったらどんな反応をするのかってのも気になる所だけど やっぱり それは今後の人生の危機ですそんな博打できません。 「・・・ないよ。」 オレは頭を傾けたまま、精一杯爽やかに、というか邪心なく見えるように 意識して微笑む。 塔矢はしばらくオレを見てから 「そう。」 と言ってやはり微笑んだ。 片目を少しだけ細めて・・・・。 塔矢にしては凄く珍しい表情だ。 色っぽい、貌。 けど・・・。 ん〜、なんか、ちょっと不気味な違和感。 あれ?どっかで見たことのある顔だぞ? ええっと、やってる最中にオレがキツイから弛めろとか言ったら そういう目をするよね。 ・・・もしかして、今、本気で不快ですか。 「この間、緒方さんのマンションに行ったんだ。」 「え?何しに?」 「さあ、ねえ。」 ああ、心臓が、痛いくらいにドキドキする。 緒方さんのマンションで、塔矢は何を聞いたんだろう。 何を、したんだろう・・・・。 死ぬほど聞きたいことはあるのに、頭が爆発しそうで何も言葉が出てこない。 「緒方さんの家の浴室のタイルは、黒かったよ。君の言った通り。」 あ!もしかしてあれ?いつかオレ、口滑らした? 汗かいたから通りすがりにシャワー貸して貰ったなんて・・今更通じるかよ。 ていうか、塔矢、なんで浴室なんか入ったの・・・。 シャワー浴びる用事あったの。オレ回路ショート寸前。 「あ・・・あそう!やっぱり思ったとおりだなー。意外性がないってゆうか。」 「・・・・・・・・・・・・・。」 「はは・・・・。」 ああ、もうダメ!こんな会話耐えらんない! 「ゴメン!!」 「何が。」 「嘘、ついてた。オレ緒方先生の所でシャワー使ったことある。」 「へえ、どうして。」 言わせるのかよ!分かってるくせに。 勘弁してくれよ。 「それは、えーと、」 「・・・・・。」 ええい砕けろ! 「した・・・から。一回。一回だけ。」 「ふうーん。」 ふーんて!ふーんて! もうちょっと何か反応してくれよ! 怖いじゃんかよ!寂しい、じゃんかよ・・・。 「いや、でも、緒方先生が好きだとか、そういうんじゃ全然なくて、」 「勘違いするなよ。」 「え?」 「別に、奥さんや彼女でもあるまいし、君が誰を好きでも、誰としようとも 僕には関係ない。」 ええー?そうなの? そりゃまた、裁けてるというか、何というか。 ちょっと嫉妬してくれても、って気もするけど、 それでこそ塔矢アキラ。とも思う。 「の割りに、怒って、ない?」 「僕が怒っているとしたら」 正面からオレを睨み据える塔矢。 お前さ、やってる時もそんな顔するから、 対局前の挨拶でまで思い出して少し心が乱れるんだぜ。オレ。 「君がそういう下らない嘘をついたことだ。 僕は、嘘をつくのもつかれるのも、好きじゃない。」 ・・それは、 「ごめん・・・。」 「・・・・・・・・。」 「悪かったよ・・・。」 「・・・いいよ。もう。」 「他に、何か聞きたいこと、ない?なんでも正直に言うから。」 「いいって・・・・。」 塔矢は本当ではない微笑みを浮かべる。 潔癖だな。 コイツの言うことは100パーセント信じられる。 だからこそ、その口からオレのことを好きだって言わせたいんだけど。 「あの、緒方さんとねぇ・・・。」 少し遠くを見ながら、つぶやいた。 何想像してんだよ。やらしい。 ん? ってか、また片目すがめてるよー!塔矢! ・・・やっぱ・・・ オレが緒方さんと寝たのがそんなに不愉快なんだ? そう、なんだ。 へえー・・・。 ・・・ふふっ。 結局嘘つきだよ、 お前も。 「何。」 「いや、本当に、ごめん。」 「だからいいって。」 「これは緒方さんとしちゃった分。」 「それは関係ないと言ってるだろう。」 「うん。でも、ごめん。」 「変な奴。」 「あのさ、本当に、お前と緒方先生の仲疑って、マンション行ったんだ。 オレに手を出させれば、お前に手を出せないと思って、酒飲んじゃって、」 「君の説明はよく分からないけど、それは自分から誘惑した、ということか?」 「あーんー、そういうことになるかな。でも、どうしてもお前を守りたくて、」 「まったく訳が分からない。君の頭の中には何が詰まってるんだ?」 すみませーん。自分でもよく分かりませーん。 でも塔矢も少しくすぐったそうな表情を浮かべているのが嬉しい。 「で・・・やっぱり、入れられる方、か。」 「・・・・・・うん。」 「・・・痛かった、だろう?」 「うん。」 何そのざまあみろな顔。 まあ機嫌直してくれたんならいいんだけど。 ってかオレは痛かっただけじゃないんだけどね。お前と違って。 その辺りは言わないで置くけど、お前がいつも痛がるばかりなのは 多分立入禁止領域が多すぎるからだよ。 ここは触るな、そこには顔を近づけるなって。 緒方さん仕込みで色々気持良いことしてやれそうだと思ったのに・・・・・ って! 「あ。」 「まだ何かあるのか?」 「じゃなくて、どうよ?」 「せめて主語と目的語が欲しい。」 「お前は、緒方先生のマンションに、何しに行ったわけ? で、なんで浴室に入ったわけ?」 「それは・・・。」 嘘は、つくなよ。 「君の言った・・タイルの色を、確かめるために・・・。」 え? 「それだけ?」 「いや、父の近況を伝えたりもしたかったし。」 つーか、お前って聞かれてもないことをわざわざ自宅まで行って伝えるような タイプじゃないよなぁ。 塔矢は決まり悪そうに少し俯いている。 嘘つき。 オレと緒方さんのことがそんなに気になるならなるって言えばいいのに。 「じゃあ、緒方先生に抱かれたい、とか思わないんだ?」 「やめろよ!気色の悪い!」 敢然と顔を上げてつばを飛ばしそうな勢いで。 いいよ。塔矢。いくら嘘ついても。 お前のは分かりやすいし。 それに嘘つきでも、オレはお前が好きだ。 オレもお前に言ってないことあるし、 これからも沢山嘘つくかもしんないけど、 また 下手な嘘で 許して 塔矢。 −了− ※ほぼ二年経った今(2004/08)となってはこういうの書けないと思います。 |
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