吸血鬼
吸血鬼






「明日の約束だけどさ、碁会所やめてオレの部屋で打たねえ?」


二つ返事でオッケーを貰えるとは思わない。
前塔矢の家に行ったときはオレに抱かれても、ってな雰囲気だったけど
いつもそんな顔を見せてくれるほどアイツは甘くない。

実際その後はいくら誘おうと思っても逃げられた。
今の電話でも案の定


「え・・・・。」


と絶句している。


「・・・そう、だな・・・。」


考えながら時間稼ぎに漏らした言葉だろうが、了解と捉えた振りをして、


「じゃあ一時に駅で待ってるから。」


と一方的に電話を切った。
切る前に「あ、ちょっと、」とか言ってたようだが知ったこっちゃない。




・・・・・

翌日塔矢は感心にも約束を違えずやってきた。暗い顔をしながら。
わざわざ駅まで迎えに来てくれなくても、とか何とか言っていたが
道に迷ったふりですっぽかされたりして堪るものか。



その日の碁は正直全然自信がなかった。
2局目の事を考えると、冷静に打てるはずがない。

でも結局最後までいっちゃって、
整地してみるとオレの半目負け。
うそみたい。あんな碁で僅差かよ。
嬉しくないけど。
平気な表情してるけど、こりゃ塔矢も相当キてるな。


「検討の必要は、」

「ああ。ないな。」


不機嫌そうな顔で黙って石を集める塔矢。とオレ。
指同志が触れたとき耐えきれず、その手首を掴む。


「片付けてからだ。」


ぞんざいに払いのけながら塔矢は言ったが、言った後、一瞬固まった。

・・・へへっ。片付けてから、何?塔矢。

なんて意地悪なことは今日は言わないから安心しろよ。

オレだって、相当、ドキドキしてんだから。
最初は何であんなに何も考えずにお前を抱けたんだろう・・・。


その後は切れそうに張りつめた空気の中、互いに触れないように
慎重に黙々と石を片付ける。

やがて碁笥の蓋を閉じるカタッ、という音がやけに大きく響いた。







「・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「あの、」

「・・・。」

「シャワー、浴びねえ?」

「・・・・・家で風呂に入ってきた。」


おおっ・・・!いい覚悟だ。
お前のそういう潔いところも好き。


「じゃあ、オレちょっと浴びてくるよ。いや、朝も入ったんだけど。」


なんつーか、いっぺん抜いとかないと、失敗しそう。
ってのもあるし、もしかしたらまた口で、なんて事になるかも知れないし。

それに何より塔矢にも考える時間を与えたかった。
逃げるなら、今しかないぜ?
多分お前なら今更逃げたりはしないだろうけど、
これはお前に与える最終執行猶予期間。
勝手だけど、少しでもお前にも選んで欲しいんだ・・・。






風呂場から出てさっき脱衣駕籠に放り込んだ服を見やる。
でもどうせすぐ脱ぐんだから、と思って腰にタオルだけ巻いて部屋に戻った。


案の定塔矢は、いた。
白いうなじを見せて端座している。
最初この首に、やられたんだよなぁ。
オレの足音は聞こえているだろうが、振り向きもしない。

真横に膝を突いたときやっとこちらを見た。

オレの裸を見ても驚いた顔もせず、無表情を保ったままだ。
でも、無表情のままにどんどん顔が赤らんでいく。
それが、みょ〜〜に可愛かった。

肩を持って立ち上がらせようかと思ったけど、抵抗されたら様にならないし。
ホテルのボーイみたいに上に向けた掌でベットを指し示し、
精一杯優雅に見えるように首を傾ける。

生け贄のような表情で。

塔矢は瞼を伏せて、小さな溜息をつくとのろのろと立ち上がり
自らベッドに、腰掛けた。







せわしない感じにならないように、ゆっくり押し倒し、
ゆっくり服を脱がせていたつもりだったけど、気が付いたら
腹を空かせたライオンの仔みたいにガツガツと塔矢の肌を
貪っていた。

塔矢は拒まない。

拒まないけど動かない。

オレのバスタオルが取れて直接足に当たったときに少しビクリとしたが
それ以外はマネキン人形を抱いてるみたいだ。
その人形が声を発した。


「おいっ!」

「何?」

「そこ、触るな。耳にも顔近づけるな。」


触るなって・・・。気持ちよくなりたくないの?
最後まで能面を外さないつもりなの・・・?


「・・・お前、楽しんでないな。」

「僕の身にもなってみろ。」


そう言われたら、そうか。
オレだって楽しそうに狼に喰われる赤ずきんちゃんなんて、
おかしいと思う。

でも
お前、自分の足でここに来たって事だけは忘れるなよ。
オレの歯がお前を喰うために尖っていると知りながら。






・・・まあ手間省けるかなんて早速ローションに手を伸ばす。
オレが蓋を取るのを訝しげに見ていた塔矢は、
指に取って足の間に持って行くに至って、


「やめろ!」

「だって。」

「指なんか、入れるなよ。さっさと入れてさっさと終わらせろ。」


なんちゅう身もフタもない。
知識もない。当たり前か。


「あのさ、お前、女じゃないんだから塗らないと入んないし、
 指で馴らして置かないと滅茶苦茶痛いと思うぜ。」

「・・・・・・・・・・・。」


これでまだ何か言って来たらいっぺんやってみて体に分からせるか、
と思ったけれど、塔矢は諦めたように目を閉じた。




片膝を立てさせて、穴に指を当てる。
少し力が入ったようだが、気にせず触り続ける。
顔を見たら、真っ赤になっていた。
力を入れたら、簡単にずぶずぶと入って行く。

震えるカラダ。
指を締め付ける圧覚。
塔矢は顔を顰めて、頭を捩る。

ああ、堪んね・・・。

オレ、今塔矢に、勝ってる。
一生かけても追いつけないかも知れないとすら思った人に
こんな顔をさせている。

眩暈がしそうな興奮に、知らず首筋に透ける青に歯を寄せていた。
本当に喰いちぎりたい。
喰って、いい・・?






「前がいい?後ろがいい?」

「何が。」

「いわゆる正常位ってやつとだな、」

「前みたいなのは嫌だ。」

「あー。でも、それってちょっと辛いかも知んないぞ?」

「構わない。」


親切で言ってんだけどな。経験上。
でもオレって相手の意思は尊重するタイプだし。
違うか。

だけど入れられた時とか
イク時とか
お前の顔見てたい。
だから、丁度いいかな。
なんて。



先を当てて、塔矢の顔に目をやる。

真正面を向いて、冷たい表情のまま青眼にオレの顔を睨み据えている。

その目を睨み返しながら構わず体を進めると

眉根を寄せて

目を閉じるかと思ったが、

逆に見開いて。

のけぞる、白い喉。

霞んだような視線は、どこか、遠くへ飛ばされる。

白目が、青い。

少し開いた唇から見える歯は食いしばられていて、

死ぬ時ってこんな顔をしそうだ、と思った。


悪い、塔矢。
お前のそんな顔、

すごく

そそる。

だからオレは酷なセリフでも口に出来てしまう。


「ねえ、きついよ。力抜いて。」


仮面を崩した塔矢の片目だけがほんの少し細くなった。







・・・途中はもう、訳が分からなかった。
快感を追うのに必死で、機械みたいに動き続けて、
塔矢が


「・・止ま・・!・・やめ、てくれ!」


とか言ってるのは知ってたんだけど、止まらなきゃ、って思ったんだけど
止まれなくて。


「やめろ!」


オレの腰に足を絡めて止めようとするんだけど、逆効果。
もっと深く欲しがられてるみたいで、余計に。


肩を押さえつけて、どこが感じるとか感じないとか、そんなこと全然無視で
目の前の肉を、犯し続けた。


オレの腹の下でぬるぬるする塔矢のものが、
オレの腰に巻き付いた塔矢の内股が、
オレの腕を払いのけようとする塔矢の手が、

ベッドの軋む音が
しわくちゃのシーツが
窓を横切る鳥の影が

オレを取り囲む何もかもが、興奮を増幅させるような、気がする。


嫌われてもいい。

壊してもいい、と思った。



今この快感を追えるなら。










「・・んどう、進藤。」

「・・・何?」

「終わったのなら抜いてくれないか。」

「やだ。もう一回やりたい。」

「・・・・・取りあえず一旦抜いてくれ。」


しぶしぶ引き抜くと、心底ホッとした顔をした。
その気持も、よおーく分かる。


「血、出てないだろうな。」

「大丈夫みたい。ローションと、」


・・・オレのでちょっとぬるぬるしてるだけ。
顔を上げて再び塔矢を見遣ると、悪魔のような眼相でオレを睨んでいる。


「嘘を、ついたな。」

「何が?」

「痛くしないと言った。」

「やっぱ・・・痛かった?」

「・・・ああ。」


聞くまでもなく大概つらそうに見えた。前もよっぽど酷かったんだろうな。
悪いことしたな。
でも本当に、どうしようもなかったんだ。

それにしてもおっかしいよなぁ。オレはそこまで痛くなかったんだけど。
やっぱオレって下手?それともオレとお前では体のつくりが違うの?





激しく不機嫌な塔矢を宥めたくて、感謝も伝えたくて、キスをした。

カリッ。

痛ってえ!!!


「あっ。ごめん!」


塔矢は自分の行動に驚いたように身を放し、目を見開いて唇に指を当てる。
血がじわりと口の中を錆びつかせた。

塔矢からの初めてのキスは、とても痛かった。

でもおかげで、自分の怒りは忘れてくれたみたいだから。



「・・・いいよ。お互い様だ。」


ごめん痛かったか、血が出るなんて思わなくてつい勢いで・・・、
などと、自分がオレを強姦したかのように申し訳ながるのが笑える。

そんな塔矢の唇は
オレの血に赤く濡れて

それはまるで。





−了−




※やっと。

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