決戦後夜








あら、どうぞ。

「僕は、塔矢アキラと言います。」

フルネーム教えてくれるの?ありがとう。でも・・・もう来ないつもりなのね。

「今日来たのも自分で不思議です。
 あの、進藤ヒカルという男をご存知ですか。」


・・・さあ。他のお客さんのことは言わないわよ。

「僕は、彼にあなたに会えと言われて来たんですが。」

それなら話は別だわ。くくく、進藤くんったら。

「会わせたい人が居るがその人は二人きりじゃないと会えないと。」

こういう商売だから。お湯、使いましょうか。

「いえ、もう失礼します。あいつはどうか知りませんが僕は興味がないので。」

ちょっと待ちなさいよ。勿体ないわ。少し話して行ってよ。

「・・・・。」

・・・・告白、どうだった?

「なんの話ですか?」

うふふ。正直に言いなさい。

「・・・聞いて、るんですか。」

まあね。

「・・・・・彼に、好きだと言われましたが。」

ええ。

「僕は、彼のことをそんな風には。」

そうなの?なら、どうしてここに来たの?

「進藤は職業上大事な知人、です。
 それに、彼は貴女のことが好きなんでしょう。」


それは違うわ。体だけの関係でしょう。

「体・・・。」

ええ。そうよ。

「僕は、貴女のような女性と話すのに慣れていません。」

私のような?

「僕を困らせる気ですか。」

あはは。可愛くないわねぇ!

「進藤にも言われました。」

あら、何赤くなってるの?もしかしてそれ、最中のことでしょう。

「・・・・・・・ええ。」

素直な人は好きよ。だから、進藤くんも、好き。

「よく、意味が分かりませんが。僕は素直じゃありません。」

そんなに構えなくてもいいわよ。普通に喜んでおきなさい。


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そうねえ。私は色恋抜きの単なる「先生」に過ぎないんでしょう。
それはそれはイロんな事を教えたし。

「やっぱり・・・。いや、あの、彼が慣れてるって知ってるわけじゃ、」

嘘が下手ねぇ。いいのよ。

「そ、う、ですか。」

回数としては少ないけれど、楽しい授業だったわ。

「授業。」

そう。色事と房術の、ね。

「あいつ・・・。」

ふふっ。オトコノコなんだから、いいのよ。

「すみません。どうしても、その、不純、だと。」

正直な子が好きだって言ってるじゃない。


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  ・


進藤くんは・・・

「好奇心が強いです。」

そうね。中学生がいきなりこういう世界に飛び込んでくるっていうのも。

「失礼ですが、貴女でなくても良かった、と?」

それはそうよ。知識を得るために偶々私に会っただけでしょ。

「緒方さんもそうなんでしょうか。」

え?誰?

「彼と・・・肉体、関係がある男性です。」

本当に?その、緒方さんっていう人は元々・・・。

「同性愛者ではないと思います。」

進藤くんって特別な子以外は異性愛者だと思ったけど。

「・・・僕は、特別ではない、ということです。」

それは、どうかな。

「好奇心じゃないですか。彼と寝たのも、僕と寝たがるのも。」

・・・緒方さんってどんな人?

「同業者で、年上で、とても気障な。」

それで白い、スーツ。

「何か聞いたんですか。」

まあ、ね。その人に、とても興味が湧いてきたわ。

「性格悪いです。高飛車だし。」

あはは。可愛い顔して辛辣ね。

「だけど、進藤の事は、可愛がってるみたいです。」

おにいさんに可愛がって貰ってるんだ〜。

「進藤は、彼のことを何と。」

とても強くて、かっこいい人。

「・・・それも外れていません。」

ふふふ。そんな怖い目をしないで。

「別に構いません、進藤が緒方さんを好きでも。関係ないですから。
 ただもう、僕にはちょっかいをかけないで欲しい。」


ヤケを起こしちゃ、いけないわ。

「起こしてません!本当に、関係ありません。」

その表情、可愛い。

「からかわないで下さい。」

あの子のことが気になって仕方がない、って顔してるわよ。

「いえ。気にしてもどうせ、あいつがなにを考えているかなんて、
 僕にはさっぱりわかりませんから。」


もしかしたらねぇ、その緒方さんと君の仲、疑ってるんじゃ・・・。

「まさか!あり得ない。」

あり得るわよぉ。何か疑われるような事したり言った覚え、ない?

「・・・・・・・もしかしたら・・、でも相当以前ですよ。」

ふふふ。ビンゴ。

「そんな!万一仮にそうだとしても、それで緒方さんと寝るんですか?」

それは。

「強姦、じゃないですよ。そういう人じゃないから。」

随分信用してるのね。その緒方さんを。

「信用というか、昔から知ってる人です。」

疑われても仕方ない要素はあるんじゃない?

「ですから!だからと言って何故緒方さんと、」

嫌なの?

「・・・え?」

緒方さんと寝ちゃったことが。

「嫌・・・・・というのではないですが・・・関係ないし。」

その割にはさっきから。

「それは!進藤は僕と同い年で、そんな子どもに緒方さんは・・・。」

それこそ関係ないでしょう。君は子どもじゃ、ない。

「・・・・・・。」

素直に認めたら・・・?


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今更照れなくてもいいじゃない。

「・・・分かりません。僕には。」

慌てる必要もないわね。

「彼は、緒方さん以外にも、好きな女の子が。」

あらあら気が多いわねぇ。

「そうなんです。僕も、その中の一人に過ぎない・・・。」

・・・・・・・。

「・・・・・・・。」

ここであんなに泣いた男の子がねぇ。

「え?」

『どうして、アイツなんだろう』って。

「そのアイツって・・・。」

勿論君の事よ。

「信じ、られない。」

あんなにキレイな涙、忘れられない。

「涙を、流しましたか。進藤が。」

ええ。ひとりの人を想って泣ける男って素敵だったわよ。

「・・・・・・。」

顔が赤いわ。・・・よかったわね。

「・・・勘弁。して下さい・・・。」

うふふ。でもその涙の事は、忘れないで。

「はあ・・・。あの、色々と、ありがとう、ございます。」

どういたしまして。

 
 ・
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何かあったら、聞いておくわよ。
 
「・・・僕は、進藤に碁では負けていません。」

碁・・・って囲碁将棋の碁、よねぇ?

「あ、聞いてませんでしたか。」

聞かなかったことにしておきましょうか。

「お願いします。」

それで?

「だけれども僕は、その、そういう方面では進藤に敵わない。」

敵わない、か。負けず嫌いね。

「今後、進藤は僕に何を仕掛けて来るつもりなんでしょう。」

ドキドキする?

「ええ・・・でもあらかじめ知っておいたら・・・・
 少しは動悸が収まるかも知れません。」


まあ・・・。向上心が豊かね。

「いけませんか。」

いけなくはないけれど、断る。

「いいんですか。」

いいも何も、今日は君にその気がないんだから。

「そんなこと、」

無理しなくていいわ。色事に長けたからと言って、
彼と対等になれるわけじゃないのよ。

「そんなつもりじゃ、ありません。」

そんなつもりでしょう。顔に書いてあるわよ。アイツには負けたくない・・。


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お金のことはマネージャーに交渉しておくわ。

「・・・お客さんを断ったら、今後の仕事に差し支えませんか。」

あらやだ。聞いてないの?私今日で寿退職するのよ。

「え?ご結婚なさるんですか?」

そう。

「あの、おめでとう、ございます。」

ありがとう。お客さんで話したのは進藤くんだけよ。

「あ、忘れるところだった!進藤から伝言で『幸せになること祈ってる』と。」

ははは!律儀な子ねぇ!ありがと。

「すみません。こんな大事なこと。」

いいわよ。そういうわけで、私に会えるチャンスは、今日が最後だったの。

「・・・どういう意味ですか。」

私が辞める前に、絶対もう一度来るって言ってた。

「はい。」

にもかかわらず、最後のチャンスに代わりに君を寄越したのよ。
彼自身は、来られなかった。
それで彼がどれほど君を大切に思っているか、わかるじゃない。

「・・・・・。」

彼はね、君とするために、でも君を傷つけないために、ここに来たのよ。
・・・塔矢アキラくん。





−了−





※反転してお読み下さい。






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