決戦前夜
決戦前夜








「おねえさん、好き。」

ふふ。嘘つき。

「なんで分かるの?」

だって、進藤くん、さっきいく時「とうや」って言ったもの。

「え?うそ!やべっ!」

ホント。・・・それ、男の子の名前よね。「とう」は冬、かしら。

「ううん。違う。それに名字だよ。あ、どこかでそいつ見ても言わないでね。」

言わないわよ。前にモノにしたい、って言ってた子?

「うん。」

出来た?

「おねえさんに教えて貰ったみたいにした後ね、口で、させた。」

あら。同い年よね?ハードなことしちゃったわね。

「そうだよな〜。悪いことしちゃった。」

そんなことさせちゃうほど、いい感じなんだ。

「そこまでは行ってないんだ。ちょっと騙しちゃったっていうか、
 言いくるめた、っていうか。」

殴られなかった?

「はは。殴られても仕方なかったけど、それどころじゃなかったみたい。」

ふふふ。そうかもね。

「でも、よく覚えてるよな。何ヶ月かに一度しか来ないような客の事。」

生意気な口きくんじゃないわよ。それは商売柄当たり前。
と言いたいところだけど、中学生なんて滅多にないし、男の子を
モノにしたい、なんて言うから忘れられなかったわ。

「オレ、もう中学生じゃないよ。」

当時、ってことよ。高校生なら偶には来るけど。

「へえ!そういうもんなんだ。」

でも、高校生は大抵がっついてるわ。一ヶ月バイトして溜めたお金で
一晩だけ遊ぶんだから。

「だよなぁ。」

普通中学生はこんな大金、持ってないとは言わなくても
こんな事に使えないでしょう。

「そうだと思う。親の金でこんな所来るのもどうかと思うし。」

こんな所で悪かったわね。

「あ、ごめん。って痛いって〜!」

あはは。冗談よ。・・・中学生で来るとしたら、社長か幹部のドラ息子か・・。

「オレの金だよ。」

そうだったわね。親が組関係って風にも見えないし。

「なんだと思う?オレの正体。」

そうねえ。最初芸能人か何かかと思ったけどそうでもない。
この不景気に子どもが株で儲けられるわけないし・・・。
宝くじでも当たった?

「はははっ。似たようなもんかも。それがきっかけで今の仕事に入った。」

仕事、してるんだ。

「うん。高校は行ってないよ。頭悪いし。」

そんなこと、ないでしょ。肉体労働してる体じゃないわ。

「バレたか。体鍛えなきゃ。・・・ねえ、協力してよ。」







・・・どうして、私にしたの?

「おねえさん、優しそうだったから。」

また、嘘。

「ええ〜?嘘じゃないんだけどな。ああ、でも、何となく塔矢に似てるからかも。」

美人じゃない。

「わー背負ってるー!でも、そうかもな。目が切れ長な所とか、この髪の毛とか。
 あいつ、伸ばしたら似合うかも・・・
 わはははっ!ダメだ!あれ以上伸ばしたら変だ〜!」

黒くて、長髪なの?

「長いっていうか、おかっぱ。」

あははっ!エキセントリックな男の子ねぇ!

「う〜ん・・・。真面目なんだけど・・・ある意味そうかな。」

何となく進藤くんに似た子想像してたわ。

「似てないよ。全然。ま逆。 ・・・はは、く、くすぐったいよぉ。」

本当に?

「え?あ、えーっと・・・。凄く似てる所もあるけど。ま、同じ仕事だしな。」

じゃあ、今でも顔を合わせることあるのね?

「うん。あのね、ある・・・ゲームでよく対戦する。」

避けられてないんだ。良かった。

「ありがと。でも、その、ゲームがなきゃ、オレどうしていいのか分からないよ。
 アイツ、普段の会話もぜーんぶそれの事だぜ?信じられる?」

うふふ。君とのセックスのことよりも。

「マジでそうだと思う。だからヤっても離れて行かなかったんじゃないかな。
 オレとの事なんか、アイツにとってはそのゲームの前では
 些細な事なんだと思うよ。」

それは、大変な子ねぇ。

「でも、オレも、塔矢とそのゲームする時、一番興奮する。
 アイツと何より分かり合える気がするんだ。
 対戦してる時の塔矢はすごく強いし、真っ直ぐで、かっこいい、んだ。」

・・・本当に好きなのね。その子の事。ちゃんと告白した?

「やめてよー。そんなんじゃ、ないよ。」

別に、同性を好きになってもいいと思うわよ。

「アイツはさ、ライバル。」

でも、したい。

「そうなんだよな〜。自分でも変だと思うけど、アイツのせい、って気もする。」

どうして?

「アイツが好きな人って、多分男なんだ。同じ仕事だから知ってるんだけど。
 前寝てるときにキスしたら、その人の名前呼んだ。」

あらあら。その人には敵わない?

「う〜ん・・・。すごく、強いね。それに大人の人なんだ。
 いつも余裕綽々って感じで白いスーツ着てて、いい車乗ってて。」

進藤くんって、やっぱり組関係?

「くっくっくっ。違うよ〜。その人だけ特殊なの。
 でも、かっこいいと思うよ。背も高くて、顔も鋭くて。
 多分モロおねえさんの好み。」

また、生意気な事を。私は格好つけた男は好きじゃないわ。

「格好つけててかっこいいんだから、困るんだよ。
 あの人の隣にいる時、塔矢が女の子みたいに、妙に色っぽく見える。
 なんかあれ以来、塔矢があの人を見る目に、特別な、思いが、」

・・・・・。

「・・籠もってるような、感じが、して・・・・・・。」

泣くほど、好きなのね。

「・・・泣いて、ない!」

泣いてるわよ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレ、
 どうしておねえさん好きにならなかったんだろう。
 どうして、アイツなんだろう。」

そんなに好きなら、ちゃんと言わなきゃ。

「ダメだよ!塔矢は、そんなんじゃないんだから!」

分からないじゃない。もし、その子を困らせることになったとしても、
言わなきゃ一生後悔するわよ。・・・人間明日どうなるか分からないんだから。

「そう、だよな。いつまでも一緒にいられると思いこんでても、
 急にいなくなることも、あるよな。」

なんだ、分かってるじゃない。じゃあ、明日は進藤くんの告白記念日。

「えー?明日?」

善は、急げってね。

「・・・・ありがと。おねえさん、好き。」

あ、今度は本当ね。

「うん。おねえさんに会えて良かったよ。ずうっとここに、いて。」

そういう訳にもいかないわ。

「え?」

私にも、好きな人がいてね。今度その人と所帯持つかも。

「ショタイ?あ、結婚するんだ!」

そんな感じ。

「それは、おめでとう。」

ありがと。でも入籍は、しないの。

「なんで?」

大人にはね、大人の事情があるのよ。

「そんなぁ!好きなんでしょ?」

ええ。すごく。
だから、紙切れで縛らなくても、あの人の子供が産めなくても、
一緒に過ごせるだけで、いいの。

「そっかあ・・・・。なんか大変そうだけど、頑張ってね。」

進藤くんこそ。
幸せなんてね、他人が決める事じゃないわ。
世間がどう思おうと、好きな人と一緒に生きていけるだけで、
それが本当の幸せだと思う。

「それ、オレと塔矢のこと・・・?」

どうかしら。

「頑張るよ。オレ。・・・いつやめるの?」

ふふふ。まだ先の話よ。あ、まだ誰にも言ってないから、他で言わないでね。
マネージャーにも言ってないんだから。

「じゃあ、やめる前に、絶対もう一度来るから。」

はい。お待ちしております。お祝いにいい結果持ってきて。

「ああっ!プレッシャーかけないでよー。」

君の恋が成就しても、しなくても、伝わればそれがいい結果よ。

「ありがとう・・・・本当に、ありがとね・・・・。
 お幸せに・・・。」





−了−





※なんなんでしょうか。
  ピカの頭の中を整理してみよう、という魂胆。


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