チャンス到来・下
チャンス到来・下








目を閉じると、僕の唇の間から、進藤の舌がこじ入ってきた。
うわ、やめてくれ、汚い。
と思うが、そう言ったらまたからかわれそうなので我慢する。
歯を食いしばっていると、歯や歯茎をしつこく舐め回された。
さすがに何か言おうと口を開けると、すかさず歯の間から侵入してくる。
おい。
これってディープキスとか言う・・・。

何とか進藤の舌を押し返そうとすると、するりと脇を抜けて
舌同志が絡む状態になってしまった。
し、進藤の、というか他人の唾液が・・・

いやだいやだいやだ。

なんとかこの現実から逃れたくて、昔憎からず思っていた女の子の
顔を思い浮かべてみたが、やっぱり嫌なものは嫌だった。




漸く僕の思いが通じたのか、進藤は顔を離す。
初めて会ったとき不器用そうに碁石を摘んでいた指が
今は僕の耳の横の毛を掻き上げ、
その優しい仕草が女の子に対するもののような感じがして、
少し気に障った。
いや、本当はそれでほんの少し気持ちが高ぶってしまった自分に
苛立ったのかも知れない。

進藤はそのまま耳たぶに唇を寄せて、軽く歯を立てて来る。
鼻息が・・・何かぞくりとして思わず身を捩った。
でも、抵抗できない・・・。
進藤は今「無抵抗って素晴らしい!オレって天才!」
とか思ってるんだろうな。
ああ、悔しい。

馬鹿な約束をしたものだ。
僕は本当に進藤のことが、好き、なんだろうか。
だって僕は最早・・・負けている。




いや、待て。

「好きだから感じる」というのが本当かどうか分からないじゃないか。
仮にそうだとしても、よく考えればそれは「好きじゃなければ感じない」と
イコールではないのでは。

これは抗議せねば、と口を開けたところで
耳たぶをはい回っていた進藤の舌が、耳の穴に差し入れられる。
悲鳴を必死で押し殺すと、今度は喘ぎ声が出そうになる。


「し、進藤!」

「何?降参?」

「じゃなくて、くすぐったいんだって!」

「我慢しろよ。」

「中耳炎になったらどうしてくれるんだ!」

「ん〜〜〜、それもそうだな。」


しばらく首をかしげて僕の顔を見ていた進藤は、何か小さく頷くと
布団の中に潜っていった。

ちょっと!
それってルール違反!
というか、バレる!

だが彼の顔は僕の局部の横を通り過ぎ、どんどん下降していく。
どこまで行くんだ?
遠ざかる体温が名残惜しい。
だって僕は風邪をひいていて、病み上がりだから。

進藤はほとんど布団の下から出てしまった。
そのまま出ていくのかな、と思ったら。


僕の足の指を口に含んだ。


「やめろ!汚いだろ?」

「汚くないよ。風呂入ってからずっと寝てるんだろ?」

「それは、そうだけど。」


茶碗の名器でも愛でるように両手に押し戴き、もう一度口を付ける。

−だめだ、進藤、

指をペロペロ舐めて、口に含む。

−おかしくなる、

自分でもなかなか触らない場所なのに。
だからと言うべきか、こんなに敏感な場所だとは知らなかった。
本当に16歳か?君は。

指の間に舌を入れられて動かされる度に、腰が、足が、びくりと揺れてしまう。
そんな事をされると、ひどく、ひどく、妙な気分に・・・。


「あ・・・。」


思わず小さな声が漏れて、慌てて自分の口を塞ぐ。
今、進藤がニヤリとしたのが目に見えるようだ。

進藤の舌は、そのまま足首に移動し、そこら中を舐め回しながら
ふくらはぎに、膝に、内股に移動した。
下半身全体にねばつく感じが残る。
やっぱり気持ち悪い。

でも、でも、どうせならもっと完膚無きまでに汚して欲しい・・・。
なんて、自虐的すぎるだろうか何考えてるんだ、僕は。

と、ふいに膝裏に手を差し込まれ、膝を立てられた。


「足、開いて。」


訳が分からなくて力を抜くと、膝の間に体をねじ入れられた。

って、下着に指!掛けて、どうするつもりだ!


「ちょっと!」

「・・・何?」

「だって!」

「とっくにゲームオーバーじゃん。さっきからずうっと感じてただろ?」

「・・・!」


・・・何も言うべき事がない。
いくら布団の中の事とは言えバレてないはずがない、とは思っていたけれど。



・・・そうだ、今こそ抗議しなければ。
この勝負はフェアじゃない、と。




でも・・・なら何故進藤が足元にいる間に言わなかった?
僕は、進藤に愛撫を止めて欲しくなかった・・?愉しんでいた?

ならばここで待ったをかける方が、アンフェアなんじゃないだろうか。

というか、進藤が「感じたら好きなんだ」云々言いだした時しか
反撃のタイミングはなかったのでは。
先読みできず否定しなかった時点で終わっていた・・・。
自問自答の末、認めがたいほど屈辱的な結果に、自分で気付いてしまう。


そんなに序盤で、既に、負けていた。


いや、もっと考えれば、進藤が布団に入ってきた時点で既に
かなり不利な形勢になっていたと言える。
でも、あの時は力尽くなら負けないと思っていたし。

・・・何れにせよ読みが浅すぎた・・・・。



「何考えてる?」

「いや、・・・・君には、敵わないな。」

「碁、以外では?」

「そう。碁以外では。」

「はははっ。可愛くな〜い!・・・じゃ。」

「ちょっと待って!」

「今更?」

「いや、約束は約束だけど、心の準備が・・・。」

「オレ、準備万端。もうさっきから限界なんだよ。」


同性である進藤に欲情されるのはいい気分じゃない。
でも、自分が彼に気持ちよくされたのは、確か。
だから、進藤が快楽を追求するのを手助けをする義理はあるように思う。
しかし・・・あの、忘れられない痛み。
それに進藤に中に出される事を思うと今でも吐き気がしそうなのに。


「手・・・・。手じゃ、だめか。」

「ん〜〜〜。いつもお前が自分でしてるみたいに?」


場に全く相応しくない、この上なく爽やかな笑顔。

憎い、笑顔。


「・・・いや、手は、やめておこう。」

「じゃあ、とりあえず今日は口でしてくれる?」

「冗談!」


何が悲しくて、男のもんを口にしなければならないんだ!
・・・でも、あの痛さは、半端じゃなかった。
どうせなら痛くない方がマシか・・・?

・・・と、進藤を見ると、顔をしかめている。


「ごめ・・・想像しただけでいっちゃいそうだった。」


女性なら母性本能をくすぐられて何だってしてあげたくなるであろう、
切なげな表情。
でも僕、男だし。
そんなことで、
そんなことで君の思うようにはならない。

しかし男だからこそ、これ以上時間稼ぎをするのは潔しと出来なかった。


「わかった。」


覚悟を決めて、膝立ちの進藤の前に正座する。
盛り上がったズボンのボタンをはずし、ファスナーを下げる。
へえ、トランクスなんだ。
丁寧にズボンを下ろす。
下ろしながらズボンぐらい自分で脱がせれば良かった、と気が付いた。
天幕を張った下着を下ろすと、ぶるるん、と腹に付きそうな
進藤の支柱が現れる。

勿論自分のも含めて、男性器をこんなに間近に見るのは初めてだ。
出来れば一生見たくなかったんだけど・・・また、気持ちが萎えそうになる。
ついでにこれも萎えてくれないものか。
進藤の顔を見上げると、赤い顔でまたにっこり微笑まれた。

ふう・・・。もう、これは、逃げられない。
出来るだけどこにも触らないように、髪を耳に掛ける。

口を近づけると否応なしに正視してしまった。
・・・既に先っぽに水滴が伝っている。いやすぎる・・・。

立って部屋の隅に行き、ティッシュの箱を持ってくる。
一枚抜いて摘み、進藤の性器にかぶせると、じわりと水分が滲んだ。

・・・泣きそうだ。

いや、男に二言はない。
でも。
いやだめだ。ここで逃げたら、僕は負け犬だぞ。

ティッシュをはずして、きつく目を閉じる。
一つ息を吸い込んで、舌で触らないように気を付けながら、


くわえた。


そのまま自分は機械なんだ、と言い聞かせながら少しだけ頭を上下してみる。
と、進藤が急に僕の頭を掴んで、震えながら


「あああっっ!」


と情けない声を出した。
え?
進藤は凄い力で掴んだ頭を離してくれない。
震えたままに、非常にゆっくりと、腰を前後させる。
わ、上顎に触ってしまったじゃないか。
喉の方まで入れられる。
苦しくて、えづいて・・・。
なんだか口の中の唾液がえらく増えてるような。
というか、苦い。


「!!!!」


僕は進藤を突き飛ばし、両手で口を押さえて洗面所に駆け出した。





洗面所に口の中の物全て吐き出し、ついでに胃液もちょっと吐いて
うがいをする。
うがい薬を使って、何回も何回もうがいする。
癇性に繰り返し歯を磨き、顔も洗う。

漸く気が治まった頃、洗面所の鏡に映った顔は、
髪は乱れているし顔は青ざめているし、着物ははだけてるし、
誰なんだこれ。僕じゃないみたいだった。





熱いお茶が飲みたくて、ふらつく足で台所に向かう。
ついでに客用の湯飲みに進藤の分も注いでお盆に載せ、座敷に戻った。


進藤はまだズボンを穿いていなかった。


「あ、えへへ。お前良すぎて、止まらなくて。」

「ああ・・・そう。」

「やっぱり飲めなかった?」

「無理。」

「女の人で美味しいって人もいるのにな。」

「それ、よっぽど特殊な女性じゃないのか?」

「ははは。・・・あ、ゴメン、お前まだいってないよな?」

「僕は、もういいから。」


自宅の座敷でお茶をすすりながら、普通にこんなあからさまな会話をしている。
昨日までの僕には考えられなかった話だ。
前にもこんなことがあったような。
本当に、進藤といると、どんどん自分が変わって行く気がする。


「丁度お茶欲しかったんだ。お前、気が利くな。」

「それはどうも。」

「いい奥さんになるよ。」

「むかつく。」


みんなが普通に使っているのは知っていたけど、どうしても使えなかった言葉。
それが、するりと口にのぼる。
進藤はちょっと目を見張ったが、次の瞬間破顔した。


「塔矢もそんな事、言うんだ〜。・・・嬉しい。」

「え・・。」

「他の奴に見せない顔、オレだけが見てると思うとさ。」

「だから、こんなことするのか。」

「っていうよりは、オレ、塔矢じゃないと、こんなに感じない。
 いつもこんなに早くないもん。・・・おかしいかな?」

「おかしいね。」

「やっぱり?なんでかなぁ?」

「・・・何故だと思う。」

「ん〜〜、やっぱ碁があるからかな。分かり合える部分が多いっていうか。」

「あ・・・。」


・・・それで・・・、進藤が僕にこだわる理由が分かった。

それはきっと、
碁で僕に勝ちたい、支配したい、っていう欲望と
性欲が
ないまぜになってるんだよ。

別に僕じゃなくても、自分より碁が強くて力の弱そうな者がもしいたら
やっぱり君は肉体的にねじ伏せたい、と思うかも知れない。

少し隙間風が冷たい。

僕は、どうだろう・・・。
今は進藤に碁で負けているつもりはないけれど、
やはり彼のことを恐れているから、惹きつけられるんだろうか。
昔負けたとき、あんなに必死で追いかけたのは、そう言うことだったんだろうか。
・・・碁で逆転されたとき、今の関係も逆転するんだろうか。

ま、絶対負けないけどね。


「一つ聞きたいんだけど。」

「ん?」

「君は、その、男とするのって嫌じゃないのか?」

「そりゃ絶対嫌だよ〜。でも、塔矢だけは平気!っていうか、やりたい!」


ストレート過ぎる物言いに思わず苦笑が漏れる。
これほど烈しく、これほど即物的に求められたのは生まれて初めてだ・・・。
少し室温が上がったような気がした。


「ってことで、次は後ろ、な。」

「う〜ん・・・。」


さっきの精神的ダメージは激しかった。
あれならまだ肉体の痛みの方がマシかも・・・。

って、違うじゃないか!何故そうなる。


「心の準備、しておいてよ。」

「あのねぇ・・・。」


言葉を失って、僕はまたお茶をすすった。






−了−







※ジャンクの二人の親だと思います。

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