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チャンス到来・上 塔矢が風邪をひいて寝込んでいるらしい。 だからどうってことはないんだけど、 気付いたら何となく塔矢家まで足を運んでいた。 やっぱ、いきなり見舞いなんて変かな。 友だちって訳でもないし。 色んな意味それ以上だと思うけど。 でかい昔風の家だった。 あいつらしい。 塔矢先生らしいと言うべきか。 呼び鈴を鳴らしたけれど、返事がない。 壊れてるのかな? ちょっと躊躇った後、門を入り引き戸に手を掛ける。・・・・開かない。 なんだ、留守か。 でも、塔矢は? 横手から庭に出る。 庭に面した縁側のガラス戸が少し開いていた。 更にその向こうの障子も同じくらい開いていて、 あ、 薄暗い座敷に、布団が見える。 塔矢? そうっとたたきに靴を脱ぎ、ガラス戸の間に体を滑り込ませる。 廊下がギッ、と音を立て、冷や汗が出た。 しかし中の人物は眠っているのか、ぴくりとも動かない。 障子を覗くと、果たしてその布団の端にはおかっぱ頭が横たわっていた。 ・・・時代劇の病人みたいだ。 また足音を忍ばせて座敷に入る。 風邪ひいてるのに、寒いんじゃないか?障子は閉めておこう。 枕元に座り込む。 とりあえず見舞うってか見られたけど、寝てるし。 どうしようかな。 白い枕に扇形に広がった黒髪。 枕と同じくらい白い顔が誰か、じゃなくて何かに似ていると思ったら、 そうだ!美術室で一番美人の石膏像。 最初にキスした時も無意識に冷たくて硬い感触を想像してたけど 思いがけず柔らかくて、暖かかった。 本当に男にしておくには惜しい・・・。 女の子だったら、惚れてたよな。やばいやばい。 よく見ると鼻の付け根辺りに青い血管が透けて見える。 目頭に闇が溜まり、瞼のラインに添って、また段々明るくなる。 塔矢の寝顔の陰影を観察しながら、 人間の顔ってこんなにキレイだったかな、と少し感動してしまった。 ・・・本当に人間なのかな? こんなに近くに他人がいるのに、さっきから、動かなすぎないか? 何となく、不安になってくる。 ざざぁっと庭木を揺らした寒風が、微かにガラス戸を鳴らして吹き去る。 「塔矢?・・・塔矢?」 わっ! ちょっと揺すっただけなのに上半身が跳ねるように起きあがって 驚いた。・・・生きてた。 白い浴衣みたいなんの胸元がはだけるのも構わず、 「進藤!?」 と言ってから辺りを見回し、ここが自分の家だってことを確認する。 日常生活がいちいち用心深いんだな。疲れそう。 それから胸をかき合わせるとすうっと息を吸い込んで 「何やってるんだっっ!」 「見舞い。でも、お前元気そうだな。」 「今日は誰もいないはずだぞっ。」 「うん。庭から入った。」 「それ、不法侵入じゃないか。」 「そうだな。」 「それに閉めるなよ。障子。」 「なんで?」 「風邪ひいてる時は換気が大事なんだ。」 「ふ〜ん。」 体を伸ばして、10センチほど障子を開けた。 塔矢は布団に腕を突いてそれを睨んでいたけど その内なんか脱力したみたいにまた布団に横たわる。 誘ってるのかな?んなわけないか。 とは言え、首筋に隙間風が当たって、震えが来た。 だからというだけではないけど、それを機に上着を脱ぎ、 思い切って布団に滑り込む。 当たり前な顔をして、塔矢に覆い被さってみた。 ・・・あったかい。 塔矢は予期していたのか、驚いた風でもなく 薄目を開けて睨んだだけだった。 「予想してた?」 「ああ。」 「期待してた?」 「いや全然。」 可愛くない奴。 寝間着の襟辺りにほっぺたをくっつけると、ぶるっと震えて オレの服の脇を掴んで押し返してきた。 「お前、いつも着物着て寝てるわけ?」 「いや、汗をかいて着替えている内にこれしかなくなったんだ。」 「熱、あるんだ。」 塔矢の額に手を伸ばす。 ひんやりしていた。 「昨日から調子はいいんだ。今朝は何とか風呂にも入れたし。 両親がいない日だからなまけてるだけだよ。」 それって・・・やっぱり、誘ってるように聞こえる。 さっきから抵抗が少ないのは風邪で弱ってるせいだと思ってたけど。 まあどっちにしろ、人は来ないんだな。ツイてる。 肩を押し返そうとする手を布団に押しつけて、首筋に唇を付けた。 「病人相手に・・・!」 「だいぶ、治ってるんだろ?・・・やらせて。」 「い・や・だ!」 「なんで?緒方さんにはさせてるんだろ?」 「まだそんなことを言ってるのか!僕はそんな趣味はない!」 「そうなの?じゃ、ホントにオレが最初なんだ。」 「・・・!」 塔矢は唇を噛んで、オレを睨む。 目の縁が赤くなってる。・・・可愛い。 そのまま襟に顔を埋め、鎖骨を舐めてみた。 すべすべ。へへ、これを味わったのもオレが最初だな。 しばらく舐め回していると、鳥肌が立ってきた。 いい所でまた塔矢の抵抗が始まる。 「ねえ、でもお前、イってたじゃん。気持ちよかっただろ?」 「・・・よくない。」 「もしかして、痛かった?」 「・・・・・。」 塔矢は黙り込んだ。 碁の検討以外であんま話ってしたことないけど、分かる。 コイツは嘘を付かない。 黙るのは考え込む時と、よっぽど自分に都合が悪いときだけだ。 だから、結局は答えてるのと同じなんだけど。 緒方さんとしてないのは、ホント。何となくつまらないような ・・・安心したような。 で、オレが初めて、なんだよな。 今の場合は、多分物凄く痛かったんだと思う。 でも、オレに弱みを見せたくないから答えられない。 ・・・やっぱり可愛いなぁ。 「今度は痛くないように、するから。」 「だから!なんで僕なんだ。彼女でも探せ!」 うん。実はあれ以来、男であんなに気持ちよかったんだから、 女だったらもっと凄いんじゃないかと思って、女の人とも寝てみたんだ。 けど、やっぱり塔矢の方が良かった。 オレって変態? でも、女の人の事は、言わない。 「好きだと感じるって言うじゃん。」 「知らないよ。そんなこと。」 「だからお前、オレのこと好きになって。そしたら気持ちよくなるって。」 「気色の悪いこと言わないでくれ。無茶苦茶だ。」 「塔矢、オレのこと嫌い?」 「嫌い、じゃない。君は僕にとってすごく特別な存在だ。」 わぁ・・・絶対ちょっとは考え込むと思ったんだけど、即答かぁ。 っていうか、「特別な存在」?どさくさに紛れてコクってない?コイツ。 なぁんてね。多分碁のライバルって意味だろうけど。 でも、オレがこんなことしてるんだから、「大嫌い」って言ってもいいのに。 コイツはいつも悲しくなるほど真っ直ぐで、誠実だ。 オレに対して、というよりは、多分自分に対して。 そう言うところ、凄く憧れるよ。 でも、それはとても不器用で、人を傷つける生き方だ。 ・・・そんで誰よりも傷ついているのは、塔矢自身なんだと思う。 「あ。」 「何だよ、『あ』って。」 「いや、その事について以前に考察したことがあったんだけど、 それは、あ、あの事の前で、今は変わってるかな、と思って。」 「あの事って、お前の学校での?って事は、それ以前にオレの事 好きか嫌いかとか考えててくれたんだ。」 塔矢は露骨に「しまった」という顔をする。 鉄面皮に見えて、意外と分かりやすいんだよな。 でも、それってヤバくね? 友だちでもない男を好きかどうかとか考えてるのって。 コイツ、いちいちそんなこと考えてるのかな。 越智のこと好きかどうかとか、倉田さんのこと好きかどうかとか。 多分、友だち少ないんだろうなぁ。 「よしよし。進藤プロが慰めてあげよう。」 「だから何故そうなるんだ!やめろって!怒るぞ、本当に。」 「怒らないよ。」 「なんで君が言うんだ。」 「だってお前、オレのこと好きだもん。」 「は?人の話を聞いていなかったのか?」 「『特別な存在』って、普通そういう意味だぜ?」 口からのでまかせだが、塔矢は虚を突かれたように息を吸った。 その隙に襟の間から手を滑り込ませる。 「なあ、試してみろよ。」 「・・・何を?」 「オレ、今日は絶対無理強いしない。お前のモノにも触らない。 それで感じなかったら、きっとお前、オレのこと何とも思ってないんだよ。 諦める。 でも・・・感じたら、きっと好きなんだ。だから。」 塔矢は口に拳を当てて考え込んでいる。 バカじゃないの? 同性なんだから、その気になればいくらでも気持ちよくしてやれるって。 ・・・と思うんだけど、大丈夫かな、オレ。心配になってきた。 出来ればこのまま無理矢理やっちゃいたいってのが本音なんだけど、 塔矢も本調子じゃないとは言えだいぶいいみたいだし、 本気で抵抗されたら絶対無理だよなぁ。 ってか16にもなった男同志が家の中でやりあったら、 障子の一枚や二枚じゃ済まないぞ。 だから今のが、起死回生の一手になれば良いんだけど そう上手くは掛からないだろうし。 次、どう攻めるべきか。 「わかった。だから僕が何も感じなかったら、 このまま帰って今までのことも全て忘れてくれ。」 へ? あ、ああ、そう。 前もそうだったけど、塔矢は思いもかけないところで、 なんかオッケーだったりする。 多分オレは物凄く不安定な顔をしていたんだろうな。 それでその気になってくれたんなら、棚からぼた餅?違うか。 まあいいや。結果オーライって感じ。 「ありがと。じゃあ、おねがいします。」 何か間抜けな手合い開始の合図と共に、とりあえず目を閉じて 塔矢にキスをした。 ちょっとかさかさしてるけど、やっぱり柔らかくて、暖かい。熱いくらいだ。 目を開けると、塔矢の瞳が、滅茶苦茶近くにあって、怖かった。 「目、閉じてよ。」 「勝手だろ。」 「見えなかったら、感じちゃいそう?」 塔矢は怒ったように、目を閉じる。素直〜! こいつの駆け引きって凄いんだけど、二次元限定なんだな。 面白れぇ。 これからが、本番だぜ? −続く− ※病気のアキラをヒカルが襲う。 よく使われた設定だと思うのですが、ヒカルがどこまで押せるか。 自分ならどうか、やってみました。 |
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