ジャンクフード
ジャンクフード










朝目覚めると、見知らぬ天井が目に入った。

ホテル、じゃないよな。
なんだか気持ちがいい。
頭もすっきりしているし、この開放感というか肌触り・・・。

肌触り?

バッと着ていた毛布をまくりあげると、なんとボクは素っ裸で寝ていた。

まくり上げた拍子に毛布の端の上に乗っていた体が少し転がり、
その人物が「ん・・・」と呻く。

引き締まった可愛い尻。
一瞬、女性か?!しまった!・・・と思ったが。
曲げた足の間からどうも赤っぽいいなり寿司が覗いていて一安心。

してる場合じゃなくて、


「し、進藤?!」


思わず大声で呼ばってしまうと進藤は、あーとかうーとか言いながら
ようようと寝返りを打ち、大きく伸びをした。


な、な、な、
ちょっと待て、ちょっと待て、


声が出ない。
どうして全裸の進藤が全裸のボクの隣で寝てるんだ。
ええと寝る前は、寝る前は・・・・・。

・・・覚えてない。







昨日はええっと、
某先生のタイトル奪取祝賀会の後二次会に引きずられていって・・・。
少し飲み過ぎたな、と思っていたのは覚えている。

その後緒方さん?か誰かに強引に勧められて・・・
「この一杯だけですよ。」と言ったのも記憶にあるが、実際に一杯だけだったか
どうかが実に怪しい。
あの後一体・・・。


しかしそれより今は、何も身に付けないで寝てしまったというのが恥ずかしい。
しかもそれを人に見られてしまったとは・・・一生の不覚。

とりあえず毛布に固くくるまってベッド(誰のベッドだ?)の端に寄り、
思わず進藤を睨み付けてしまう。
彼を睨んでも睨み殺してもこの現実が変わるわけでもないのに。




「う〜、」と呻いていた進藤はしょぼしょぼしていた目をやっと開けた。


「!てて、塔矢?!」

「ああボクだ。」


あちゃー、と目を覆い、そのついでにゴシゴシと擦る。
もう一度顔を上げたときにはすっかり目が覚めたようだった。


「・・・やっぱオマエも裸?」

「ああ。」

「夢じゃ・・・なかったのかよ。」

「?!キミは昨夜の事を覚えてるのか?」

「え・・・オマエ覚えてないの?」

「全く。」

「あ、そ。」

「じゃないだろう。」

「何が?」

「覚えてるなら何故こんなことになっているのか説明してくれるのが筋だろう。」

「ん〜〜・・・・・賭けてもいいけどな、知らない方が幸せだぞ。」


そうかも知れない・・・。と、何故か朧気に思う。
だがやはり、このまま知らないのは気持ちが悪すぎる。


「・・・何があっても驚かないから教えてくれ。」

「う〜ん、オレもぼんやりとなんだけどさ、オレ達やっちゃった。」

「何を。」

「何をって・・・。そりゃあ・・・。」

「煮え切らないな。ハッキリ言えよ。」


進藤は瞬きを繰り返して子犬のように縋り付く目でこちらを見る。
そんな目をしたってボクが追求の手を弛める訳がないだろう。
さっさと言え。


「・・・セックス。」

「は?」

「だから、知らない方がいいって言ったじゃん。」

「ちょっと待て。ボクたちは男同士だよな?」


無意識に進藤の胸元に視線が行く。


「見、見るなよ〜。」


肩を捩るがその胸には恥ずかしがる程の物は何もない。


「だから、男同士がするようなその、事をしちゃったんだって。」

「ええっ?どうやるんだ?」


思わず口にしてしまってから恥ずかしい事を聞いた、と思ったが
非常に純粋な疑問だった。
手や口(まさか!)など使えそうな部位を素早く思い浮かべ、
やはりこの先は聞かない方がいいかも知れない、とも思う。

というかよりによって進藤相手に一体ボクは何を・・・。
しかし真実を知りたいという探求心には勝てなかった。


「どうって・・・。あ、オマエ、体大丈夫?」

「大丈・・・」


夫じゃない・・・!
何故今まで気付かなかったのか。
ズキズキと痛む場所が下半身に、ある。


痛みそのものよりもその痛みから類推される事柄に目の前がさあっと暗くなった。
突然の貧血状態に耐えられず、毛布にくるまったまま体を倒す。


「わ、オマエ、本当に大丈夫?!」

「ああ・・・横になったら平気だ。・・・で。」

「お、思い出した?」

「いや、覚えていなけど痛い所がある。」

「あー・・・。ゴメン!ほんっとにゴメン。」

「・・・・・何を入れたんだ。」


何かを入れる場所じゃないだろう。
と責めたくて仕方がないが、状況が分からない以上何とも言えない。
とにかく何を入れられたにせよショックなのには変わりない。


「何って・・・・。」


また煮え切らない言葉だが、今度は追求する気になれなかった。
自分の股間に落ちた彼の視線が、嫌になるほど雄弁に物語る。

それはいくつか予想した答えの内最悪のものだった。
また目の前が暗くなりそうになる。
視界の中を星が泳ぐ。

が、その次の進藤の言葉に、ハッと意識がクリアになった。


「それが入らなくてさぁ。」

「入らなかったのか!」


そうだ、よく考えたらそんな場所にそんな物が入る訳ない!


「うん。でもツバつけたら入った。」


入ーれーるーなーバーカー!!








「・・・腹減ったな。取りあえずカップ麺でいい?」


ボクが混乱のあまり固まっている間にも、進藤は通常営業に戻りつつあった。
上の空のままボクも


「ああ。出来ればプレーンな味のがいい。」


普通に答えてしまったが、逆にその事によってスムーズに頭が冷える。

進藤がその辺に落ちていたトランクスを拾ってよろけながら穿くのを見て
目だけで自分の下着を探したが、見あたらなかった。
どこか布団の下敷きになっているのか、部屋の入り口付近にくしゃりと
丸まっているカッターシャツと一緒になっているのか。


進藤が続き部屋の台所に行った隙に、毛布を羽織ったまま
シャツの所まで行った。
ジャケットとネクタイはあるのに、下着がない。

どけたり振ったりしている間に進藤が帰ってくる気配がしたので、
またベッドまで後退する。

と、進藤がシャツ・ジャケットの上にぱさりと見覚えのあるスラックスを落とした。
台所から持ってきた物らしい。その中か付近にある可能性の高い、


「・・・ボクの下着を知らないか?」

「あ、今洗っちゃった。」

「何故!」

「・・・汚れてたから。ってオマエ、本当に覚えてないんだ?」

「・・・・・。」


だからそうだって。
気が付くと遠くでゴーン、ゴーンと洗濯機の回る音がしている。

ということはここは進藤の部屋で間違いないな。
最初に散らかり具合を見てそう思ったが、まだ第三者がいる可能性も
捨ててはいなかったのだ。

しかし、確かに裸で寝ていた理由は教えて貰ったが、その元凶となる
何故ここに二人でいてそうなってしまったのか、と言うことは
教えて貰っていない。


「どう・・・というか何故汚れていたんだ。」


我ながら暗い声だったと思う。
それに狼狽えた訳でもあるまいが、


「あ、あの、ちょっと待って。お湯湧いたから取りあえずラーメン食おうぜ。」


何か慌てながら進藤は台所へ走っていった。
しばらくして二つのカップ麺と、割り箸を持って帰ってくる。


「はい。」

「ああ、ありがとう・・・。」


一人暮らしをする機会が増えてから、それまでジャンクフードだからと
敬遠していたインスタント麺をいくつか食してみた。
意外にも旨かったので、やめた。

癖になるのが嫌だったのだ。


下着がないので毛布が脱げない。
でもこのままではラーメンが食べられないので、上半身を隠すことは諦めて
下半身に毛布を巻いてちゃぶ台に擦り寄った。
進藤もトランクス一枚なんだからお互い様だ。


しばらく無言でラーメンを啜る。

やはり旨かった。

でも食欲が無くて半分くらいしか食べられなかった。



「ああ、じゃあオレ貰うよ。」


と、進藤はボクからスチロールの容器を受け取る。
ボクの残した麺を食べ、ボクが口を付けたスープを啜るのを
ぼんやりと眺めていた。




「はぁ〜、旨かった!ごちそうさん、と。」

「・・・で。」

「ああ、・・・・・ん〜となぁ・・・・・・・・。何処まで覚えてる?」

「二次会で誰かにお酒を飲まされた。」

「ああ!白川さんだ。」

「誰?」

「森下先生の弟子なんだけどさぁ。」

「森下門下にも緒方さんみたいな人がいたのか。」

「いや、普段は礼儀正しくて優しい人だよ。」

「それってまるで緒方さんが・・・いや・・・。
 その人がどうしてボクに強引に飲ませるんだ?」

「よく分かんない。酒飲むと人が変わるのか・・・。」


それとも緒方さんといると、と言って進藤はニヤリと笑った。


「その人と緒方さんは知り合いなのか?」

「うん。なんでか結構親しいみたい。接点ないのにちょっとおかしいよな?」

「まあそれはいい。とにかく酔って人格が変わったか緒方さんに唆かされたか
した白川さんにお酒を飲まされて、ボクは意識を失ったんだな?」

「いや、意識は失ってなかったけど・・・記憶は残ってないかもな、と思った。」

「・・・・・。」

「ぼーっとしてたけど、変なことはしてなかったぜ?」

「ああ・・・そう・・・。」


何の慰めにもならない。
ボクは確かに変なことをしたのだから。
それが公衆の面前でなかったらしい、というのが慰めと言えば慰めか。


「未成年だしさ、さすがにやばいと思ってオレオマエと一緒に帰ったの。」

「キミは帰ってきたがボクは未だに帰ってないぞ。」

「まあ聞けよ。タクシー乗ってさ、ここまで来てあとは運ちゃんに任せようと
 思ったんだけど。」


いつまで経ってもボクの下着の話にならない。
イライラするが、どのみち不名誉な話になるには違いないので
出来るだけ引き延ばして欲しいという思いもあった。


「オマエまだ真っ赤な顔して半分寝てて、まずいかなぁ、と思ったわけ。」

「死にそうだった?」

「全然そんなんじゃなかったけど塔矢先生に見られたら困るだろ。」

「今家に両親はいないぞ。じゃなかったらお酒なんか飲まないし。」

「うん、それ忘れてた。」


忘れるなバカ!
こうなったのはキミのせいだ。
キミとその白川さんだったか?その人が悪い。
いや、白川さんをそそのかした緒方さんが一番悪い。

眉間にしわが寄ったボクに気付かず、進藤は何がおかしいのか急に
ニヤけながら話を続けた。


「で、まあ取りあえず泊まって貰おうと思って、くたくたのオマエに肩貸して
 ここまで来て玄関入った途端に。」

「・・・途端に、何だ?」

「こう、抱き合うような恰好になっちゃってさ、」

「?」

「キスしてきたの。強引に。」

「ああ?!」


誰が誰に強引にキスをしたのか知りたい猛烈に。
と思ったが、一拍置いてそれは余計に自分を追い込む愚問だと悟った。

自分から男にキスしたって・・・

ボクは心の何処かで進藤を女性化して見ていたのだろうか。
まさか!
でも、さっき何か進藤を可愛いと思った瞬間があった。

ない、と言い切れない。

自分で自分の心に責任を持てない時ほど情けないことがあるだろうか。
しかもよりによって、同じ年でライバルの進藤・・・。
あああ・・・。


「でさあ、」


こっちの内証に斟酌無く進藤が続ける。


「オレびっくりして逃げようと思ったんだけど、オマエ結構力強いんだな。」

「・・・その時刺し殺してくれても良かったのに。」

「バカ言うなよ。んでその時勃ったの押しつけてきて、」


トキタッタノオシツ・・・何が?


「汚れたらまずいと思ってズボン脱がせて、」


脱がせた?!
キミは、キミは一体何を、


「苦しそうだなあと思ってパンツの上からさすってたらオマエイっちゃってさぁ。」


オマエイ・・・じゃなくてキミの手でされてボクが?
興奮するような事もないのに人前で勃起した挙げ句?

そんなバカな!


「というか何でそこでさするんだ!」

「え、いや、よく分かんねえけどオレも酔ってたし・・・。」


・・・まあそう言うわけでボクの下着が汚れたわけだ・・・。

最・悪。

進藤(しかも酔っていた)の証言だけだから当てにならないと思ったが、
今朝目覚めたときの開放感というかすっきりさ加減に何かイメージが
頭の片隅をよぎったのを思い出す。
かなりの確率で、それは事実だろう・・・。




「それでキミは・・・。」


というと進藤は初めて、非常に恥ずかしそうな、照れくさそうな表情を
浮かべた。


「うん・・・。そのイった時のオマエの顔がなんか凄く・・・。」

「変だったか。」


自棄になっている。我ながら言葉が投げやりだ。


「いや、その、ちょっと涙目になっちゃったりして・・・。」

「・・・・・。」

「すげえそそったの。ゴメン。」


・・・そそった、とか男に言われても。
とにかくそれでボクの体に悪戯をしたという訳か。


そのまま冷静にボクの後始末をして寝られてしまうのと、
同じくらい変になってしまわれるのと、

どっちが嫌かと言われたらこれは選びがたい。


でもこれがもし緒方さんか誰かで、


「昨夜オマエ飲み過ぎてオレにキスしてきた挙げ句射精したから
 下着洗っておいたぞ。」


なんて言われたらその時点でボクは悶死してしまう気がする・・・。




「・・・で何か変な気分になっちゃってオマエをベッドまで引きずっていって、」


もう聞いてないって。
あ、でも、


「その時ボクは抵抗しなかったのか?」

「う・・・・・。」

「したのか!」

「あ、いや、さすがに入れるときは嫌がってたってか痛がってたみたい・・・。」


それってレイプじゃないのか?!
と思ったが対象が男、しかも自分となるとどうもピンと来ない。
とりあえず良かったと思うのは


「よく血が出なかったな・・・。」

「あ、それオレも思った。でも酔っぱらいって階段から落ちても怪我しないって
 言うじゃん?そんな感じかなぁ。」

「キミが・・・!キミが平気な顔してそんなこと言うな!!」

「ゴゴゴゴメン!」

「・・・・・。」

「で、でも!その時以外は気持ちよさそうだったぜ?」


気持ち、よさそう?


「うん。何か切なそうに喘いでて、いや、酔ってたせいかも知れないけど、
 ・・・・あ。」


突然進藤が股間を押さえて赤面する。
まったく!

・・・はぁ・・・・。
眉根が寄り、深い溜息が出た。


「だから今そういう顔すんなって!」

「何がだ!」

「何がって・・・あ。洗濯終わったみたいだ。ちょっと待ってて、今ドライヤーで
 乾かすから。」

「いやボクがやろう。アイロンはないのか?」

「ない。」

「キミはワイシャツにどうやって・・・。」

「形状記憶シャツっていう便利なものがあるんですよーだ。」

「子どもかキミは。洗濯機の所に行かせて貰うぞ。」

「ああ。」


進藤を置いて全裸のまま音がしていた洗面所の方に行くと
小型の洗濯機があった。
蓋を開けて中から自分の下着を選って取り出す。
「洗面所のドライヤー借りるぞ!」と声を掛けてから手に下着を引っかけて
ぶわりと膨らませる。

情けない姿だな。

と思いつつ、それより今後どうしよう、という所に思いを巡らせた。



進藤に口止めをするというのは一番に考えたが、それは弱みを握られるようで
嫌だ。
それに進藤に負い目がないわけでなし、きっと他言はしないだろう。

ではこれから進藤とどう接すればいいのか。

今更何もなかったように、というのは無理だろう。
既に彼とボクとはその事についてとっくりと話し合ってしまった。

じゃあ男女のように「責任取って下さい、それでは結婚しましょう」という訳に
行かないのは当たり前だ。

困った・・・。


が困ってからハタと気が付いた。

もう、答えは出ているじゃないか。

さっきの進藤とのやり取りが今後のボクたちそのままだ。
相変わらず彼はライバルだし、まあ同年代では一番近しい存在で。
関係してしまったのは非常に予想外だが、事実なんだから今更嫌がっても
恥ずかしがってもどうしようもない。

まああったことはあったこととして
・・・今まで通りか。




まだ生乾きだったが下着を穿き、部屋に戻って服を身につける。


「じゃあこれで失礼する。」

「ああ、大丈夫?」

「もうさほど痛くない。」

「そう・・・。送ろうか。」

「やめてくれ。」


そんな風に女の子相手みたいに気を使わないでくれ。

思い出してしまうじゃないか。
昨夜の事を。

キミの肌が滑らかで暖かかったことを。

確かに自分が、気持ち良いと感じていたことを。






玄関まで送ってくれた進藤が何か言いたそうにしている。


「何?」

「あの、あのさ、オマエが嫌だってんだったら無理矢理な事しないからさ、」

「?」

「え、えと、また、夜明けのカップ麺食いにこねえ?」



・・・よくそんなこと言えるな。


ジャンクフードは食べたくないんだ。

癖になりそうだから。



「・・・オレ、あんなキモチイイ事初めてだった・・・。」

「・・・・・・・・。」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・でも偶に食べると美味しいか、な。






−了−





※これはLANDの開設祝いに贈らせて頂いた物。
  リクありで、お題は

  ・ヒカアキバカップル
  ・アキラ襲い受け
  ・キス以上
  ・白川さん登場

  でした(笑)。なんか全部微妙ですんません。
  カッキーも同じお題で贈ったんだけど、すんごいまともに、しかも自然にキレイにクリアしててすげい!
  是非御一読アレ。



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