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不夜城1 「アキラくんも、今日から大人だな。」 我が家では家族の誰かの誕生日だからと言って特別な企画などはなく、 ただ母が少し手の込んだ夕食を用意してくれる位だった。 「16は大人でしょうか。」 「大人だろう。」 今日の晩は家で夕食を食べると言うと、緒方さんは翌日の夜祝ってやると言ってくれた。 その街は、ボクにとって初めてだった。 遠い場所ではないが、とても遠い場所だったし、興味もなかった。 「どうして・・・。」 「筆おろしをさせてやる。」 何が何だか分からない内に狭い店の狭い部屋に連れ込まれ、 気が付いたら緒方さんが消えていた。 そして気が付いたら隣にほとんど下着姿の女性が居て。 テーブルの上のグラスに大きな氷を入れ、 「水割りでいい?」 「いえ。未成年なので。」 女性はくすくす笑うと、蓋を開けかけていたウイスキーの瓶を置き、 水差しから水だけ注いだ。 「あの・・・。」 「なあに?」 そういう訳でボクは酒も飲めないし、この場所にいる意味もないので帰りたいのだという 意味のことをしどろもどろに伝えると 「『おにいさん』からあなたの事頼まれてるの。」 「『兄』、ですか?」 緒方さんの事なら兄ではないですよ、と言うと、またくすりと笑った。 だがどこかイライラしているような笑いだと思った。 「あなたの筆おろしを頼むと。」 「・・・・・・?」 ボクが「筆おろし」の意味を理解したのは、彼女がボクの上から降りた後だった。 あまりいい印象のない街だった。 だが、それから幾夜も、ボクは一人でその街へ出掛けた。 女性を買うためではない。 理由と言えば、その街では安らげたので。 誰もボクを塔矢アキラと知る人のない、その不夜城が。 ただ、ボクは世間知らずだった。 闇雲に歩き回る事に疲れて街角でぼうっと立っていると、偶に声を掛けられた。 「にいちゃん、暇そうじゃん。遊ばねえ?」 「すみません・・・この後用事があるので。」 「いいじゃん。顔貸せよ。」 この、人の都合に全く構わない物言いに、最初は呆れたし困惑したが こういう人間があまりにも多いので、慣れてきた。 この街ではそれで通るのだろう。 「いえ、本当に。」 「じゃあ、金貸してくれよ。」 この論理も訳が分からない。 何故知らない人間に金を貸せ等と言えるのか。 しかも名前も言わず、こちらの名前も住所も聞かない。 返す気など全くないのを隠そうともしない。 そういう人たちだ。 彼等はお札を出すとすぐに去っていった。 断れば無理矢理「借りられる」だろう事が想像ついたので、ボクは財布を持たなくなった。 最低限の札を直接ポケットに入れていれば、無理矢理取られてもボクの名前が分かる事はない。 金を貸せと言わない人は逆に、ボクにお金をくれようとした。 この街では代価なしにお金を取られる事はあっても、貰えることはない。 そうでなくとも知らない人にお金を貰う訳には行かない。 それで最初言っている意味が分からなくて考え込んでしまったが、 ふと、最初にこの街に連れてきて貰ったときの事を思い出した。 ああ・・・ここは暗いし、この髪型だし。 そこで 「ボクは男ですよ。」 そう言えば大概妙な顔をしながらも去って行った。 それでも去らない人はしつこかったが、 無視していればその内に消えていった。 それでボクは、この街の人のあしらいを覚えたつもりになっていた。 世間知らずだった。 それを思い知ったのは、相当痛い目にあった後で・・・。 ある晩、やはり歩くのに疲れて壁にもたれ掛かっていると、 数人の若い男に囲まれたのだ。 「アンタ・・・最近よく見掛けるな。客取ってんの?」 「・・・・・・。」 「もぐり?」 訳が分からなくて取り敢えずポケットに手を伸ばし 「お金なら・・・」 言いかけた所を平手打ちにされた。 そのまま腕を引かれてずるずると。 今は空き家になっているらしい汚い店のような所に連れ込まれた。 「・・・何をするんですか。」 無言で破れたソファの上に引き倒され、誰かがやはり無言で腕を押さえる。 「嫌だ。」 服を破られ、それでも何が起こっているのか分からなかった。 いや、分かりたくなかった。 「止めて下さい。」 ズボンに手を掛けられたとき、足で蹴ろうとしたが、すぐに両足首が捉えられ 暴れれば自分の腰が浮き上がった。 「助けて。」 何としても下着だけは取られたくなかったが、腰で暴れ回っていたら殴られた。 それでも抵抗しつづけたら、今度は首に冷たい金属が押し当てられた。 何かは分からないが・・・予想される最悪の物だったら困る。 結局それ以上脚に力を入れる事が出来ず、何もかも剥ぎ取られた。 「許して下さい・・・お願いします・・・。」 自分でも腹立たしい。 声が、弱々しい。 これでは全く聞いて貰えないだろう。 案の定誰もボクの声に反応せず、太股を両側から掴まれて、 これ以上ない程股を開かされる。 何という恥ずかしい姿勢。 それからの事は思い出したくもない。 他人の指が、ボクの。 ぬるぬると、中で動き回って吐き気がして。 それが出て行ってからもっと熱くて大きい物が当てられて、思わず顔を上げたら 信じがたい光景が広がっていた。 ズボンをずらした男が、勃起した物をボクの足の間に押しつけていた。 この人達はボクを殺すつもりだと思った。 凶器は、陽物。 そんな物を入れられたら本当に死んでしまう。 そして何という情けない死に方。 「いっ!」 ズ・・・と先が入り込んで来る。 嘘だ嘘だ。 いや。 い・・・や・・・。 声だけは、出す物かと思った。 歯を食いしばって静かに死んでいこうと。 でも、出したくても出せなかった。 沢山の人間がいるはずなのに、なんだか静かで、 蓋をしたような耳の中で自分の荒い息の音だけが大きく響きわたっていた。 死ねない。 これだけでは死ねないらしい。 気を失いたいのに失えなくて、 ただただこの時間が早く過ぎ去って欲しいなんて。 開かされた足が痛い。 男の体重が、重い。 つぎはだれだ おれだ どうだった なかなか 間延びした空間と時間。 聞き取れない。 悲鳴を上げることも出来ない。 ボクの身体は、ボクのモノではなかった。 ずっと意識はあったと思うが、記憶がない。 何だか放り出されて、ボクは汚い歩道の上をしばらく四つ這いで移動した後 漸く雨樋に縋って立ち上がり、建物の壁に凭れながら歩くことを覚えた。 破れた服で、泥だらけで血まみれで。 やっと見つけた煙草の焼けこげだらけの公衆電話から、ボクは緒方さんに電話した。 −続く− ※ヨゴレですかね。偶にはこういうのも。 |
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