ファウル 24








進藤はいつまでもモニタから目を離さなかった。

きっと、持ち時間ぎりぎり一杯まで考えるのだろうと思った。
そうだ、彼はいつでも諦めない。
ボクももう一度深呼吸して、モニタを見つめた。

ないか。
どこかに。
どんなに細くてもいい。
佐為さんに繋がる、一筋の道。





どれ程経っただろうか・・・。


時間の感覚がなくなった頃、マウスの上に置いたボクの手の甲に
進藤の手が重ねられた。

ひんやりとしている。
まるで血の通わないモノのような違和感。
同時に、ボクを再び現実に引き戻す懐かしさも持った感触だった。

それが、ボクの手ごとマウスを動かした。

じりじりと、移動していくカーソル。
夢のような。
あまりにも見慣れた、何でもない、その現象を、
ボクは何故か奇跡を目の当たりにしたような感動をもって見つめる。

何だろう。
何かが近づいてくる感じがする。
何か、



・・・・・・・・・・・・



・・・進藤の動きに、一瞬遅れたボクも力を込めた。


・・・この感覚を、どう表現してよいのだろうか・・・。
この、この・・・・・・突然訪れた全能感。


瞬間、ボクは消えていた。
と同時に全てを得ていた。


今までの全ての筋、その全ての意味。
そして、現在進藤の頭の中にある事。

一手目からの全ての打たれた手、
打たれなかった手が
高速で、或いは同時に
脳裏に再現される。
その全てに対して自分が考えた事、
その時思い付かなかった事、
そして相手が考えた事までもが異様にクリアに、


・・・それは、爆発のようだった。
ボクの内側で打ち上がった美しく巨大な花火。


そう、完璧に把握出来る。
進藤も同じだという事もはっきりと分かる。
彼も、ボクが今考えている事が100%手に取るように分かるに違いない。

何故か驚かなかった。
シンクロニシティなどという生やさしいものではなく、既に超常現象に近いそれを
ただ静かに受け止めていた。

・・・どちらが止めたのか分からない。
転がった石が止まる自然さで、カーソルはある一点に停止した。
思った所で止まったから自分が止めたような気がするけれど
きっと進藤も同じように思っている。そして


「・・・・・・いいよな?」


囁くように、言う。
必要もないのに。

それでも久しぶりに話し掛けられて、精神ではなく肉体の耳でそれを受け止めて、
奇妙な感じだった。

こんなに長時間、体温が感じられるほど側にいたのに、
心を重ねていたのに
長い旅を経て何年ぶりかに再会したような。


「いいよ。」


ボクの人差し指が、進藤の人差し指に押さえられた。


Charcoalのkai さんに頂戴しました!
きゃあv手が!手が! 二人の距離近すぎ。…もっと寄って(笑)








































『今の一手はどちらだ』


かなり時間を置いて、この一局が始まってから初めて相手からのコメントがあった。
「どちらだ」と当たり前に尋ねて来たと言う事は、二人で打っていた事などとうにお見通しという訳か。
そしてそれを現して来たと言うのは同時に、お咎めもなしという事だろう。
ならこちらも無駄にとぼける必要はない。


『二人ともです』


これであの感覚が伝わるかどうか、怪しいとは思ったが端的に返事をする。

また長い沈黙の後、久しく聞かない電子音が鳴った。


投了だった。





どこからか低いエンジン音が近づいてきて、アパートの外で止まるまで
ボク達は何も話さなかった。
一旦低くなったアイドリングは止まることなく、そのまま回転数を上げて
すぐに遠ざかっていく。

ベッドに横たわっていた進藤は目を開くと、バネ仕掛けのように飛び起きた。
そのまま玄関まで走り、裸足のまま外に飛び出して行く。

ボクも進藤の雪駄を履いて外に出て、通路の手すりから階下を見た。


進藤と、着物を着た人影が未舗装道路の上で抱き合っていた。
その影の白さと髪の黒さがやけに非現実的で
雪女のようで
このまま進藤が連れ去られてしまうのではないかと一瞬思ったが

顔を上げてボクに気付いた人影は、お日様みたいににこにこと笑って大きく手を振った。





−続く−











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