ファウル 20 今日、ボクの恋は成就した。 ・・・・・・訳では実はないのだけれど、限りなくそれに近いと 言っていいのではないだろうか? 進藤が、佐為さんとそういう仲でないのはどうも本当らしい。 『だってオレはゲイじゃないから。』 はっきりとそう言われると傷つかないでもないが。 それでも、それなのにボクの気持ちを受け入れ、気持ち悪がりもせずに キスまでしてくれたのだ。 もし百歩譲って佐為さんの事が嘘だとしても、さっきのキスには それ以上の重みがあった。 ボクを柔らかい羽で包み、天へと昇らせるこの上なく幸せなキス。 進藤が佐為さんと交わした(かも知れない)百のキスよりも、きっとずっとずっと価値がある。 もう、どちらでもいい。 佐為さんとの仲がどうであっても、ボクはきっと進藤の振り向かせる。 振り向かせてみせる。 そう心に決めただけで随分と気持ちが楽になり、 薄暗いこの部屋でさえ、四方から照らされているかのように明るく見えた。 ああ。世界は何と美しいのだろう。 「あの・・・。で、話戻るんだけど。」 「え?」 幸福感に酔いしれ、これからどんな風に付き合って行こうかと 心躍る想像を巡らせ始めていたボクに景気の悪い顔をした進藤が話しかける。 「気ぃ悪くすんなよ・・・?今日、緒方先生に会ったんだけど。」 「・・・ほう。」 「聞けなかったんだけど・・・佐為の事。」 佐為さんの話に近づくだけで気を使ってくれるのが嬉しい。 やはりこういう所が好きなのかも知れない、と思う。 それにしても、緒方さんと進藤。 佐為さんが連れ去られて初めての顔合わせか。 それはお互い気まずいというか、微妙な気持ちだろうな。 いや、緒方さんの方はそんな柄でもないか。 「機会がなかったのか?」 「いや・・・すれ違ったんだけど・・・言わなかった。言えなかった。」 「そうか・・・。」 どうして、と聞くのは酷いと思う。 佐為さん自身が、帰りたがっていないようだと思ったのもそれを伝えたのもボクだ。 佐為さん・・・。 「・・・佐為さんと、打ちたくないか?」 「そりゃ・・・打ちたいよ。」 言ってから慌てて、いや、だからアイツと打つと勉強になるから、と言い訳して ボクの腕に縋るのが可愛い。 だからボクも鷹揚に微笑んで。 「ボクもだ。」 進藤は眉を開いて驚いた顔をした後、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。 彼を喜ばせる為に嘘を吐いた訳ではない。 進藤の部屋で佐為さんの面影と戦いつつ、それでも自分も求めずにいられなかった。 今までは嫉妬心が抑え込んでいたが、進藤への想いと、佐為さんとを 切り離した今となっては認めざるを得ない、 日増しに慕わしくなる佐為さんの一手、一手。 佐為さんならどう打つだろう、と。 進藤は今、佐為さんの手を意識して打ったのではないか、と。 そんな事を思いながらの対局は楽しいながらも、やはり本人がいないと 物足りないのだ。 これは父の不在時にも感じる事だが。 それに、そうでなくとも進藤にこんな顔がさせられるのなら、 佐為さんと打たせてやりたい、と思った。 「緒方さんの所に行ってみようか。」 「何て?」 「佐為さんと打たせてくれって。」 「う〜ん・・・無理かもな。オレに会ったら里心ついて戻りたがるかも 知れないしそれって緒方先生嫌かも知んないし、それに・・・。」 そこまで言って、少し寂しそうに面を伏せる。 「逆に、佐為が帰りたがってないってのが本当だったらオレに会ったら気まずいかも。」 「・・・・・・。」 そう・・・だね。 緒方さんの寝室で安らかそうに昼寝をしていた佐為さん。 進藤の事など忘れたようにおっとりと、あの畳の上で扇を揺らし。 日がな一日石で遊んでいる様子が目に浮かぶようだ。 哀れな。 こんなに案じているのに報われない進藤が哀れなのか、 そんな進藤の事を忘れてしまえる佐為さんが哀れなのか、 自分でもよく分からなかったが、とにかく切なくてならなかった。 ・・・・・・打ちたい。 打ちたい。打ちたい。佐為さんと打ちたい。 ・・・今、無性に彼を求める自分がいる。 進藤が好きなのに、あの人が居ない方が心安らかな筈なのに、 それでも求めずにいられない自分が哀れなのかも知れなかった。 「・・・で、あのさ。」 「ん?」 「緒方先生って・・・大丈夫かなぁ。」 「大丈夫って?」 「その・・・佐為に変な事してないかなぁ。」 「・・・・・・。」 「さっきも言ったみたいにアイツもゲイじゃないし、それに多分そういう事 全然知らないっていうか思いもよらないだろうし、神経細かい所もある奴だから いきなりそういう事されたら大変だと思って。」 う〜ん・・・ボクが知る限り、緒方さんにそういう趣味があるようではなかったが かと言って絶対ないとも言い切れないのがあの人の怖い所だ。 「うそ・・・やっべ。アイツ、ちょっとした事で自殺しちゃうような奴だしな〜。」 「そうなの?」 「なの。おまえが会った時はどんな感じだった?」 「分からないよ。寝てたから。」 「寝て・・・たの?」 「あ、いや緒方さんのベッドにじゃないよ。寝室の隅に畳を敷いて貰って その上で眠っていた。」 「そうなんだ?っつーことは、おまえ、佐為と話してねーの?」 「うん。」 「じゃあ、何で佐為が戻りたがってなかったとか言うんだよ。」 「それは、」 ・・・緒方さんは佐為さんを縛り付けている訳ではなかったから。 不在の時に、ドアのロックを外して外に出て廊下の端のエレベーターに乗って 普通に逃げる事だって出来る状況だったから。 それなのに逃げないでいたから。 「・・・・・・。」 「つまり、少なくとも自分であそこから出る気はないんだろうと判断した訳だが。」 「それ。・・・逃げたくても逃げられないんだよ!」 「え?」 「言ったろ?アイツ、平安時代と江戸時代の事しか知らないからさ、 現代ではオレん家とおまえん家の往復しか出来ねんだよ! しまったー!こんな事ならエレベーターの乗り方や道の尋ね方教えとくんだった!」 そ・・・そこまで徹底しているのか?(何が?) 何だか分からないが、ボクは思い違いをしていたらしい。 佐為さんが、進藤の所に戻りたくないのだと、決まった訳ではない。 「だとすれば・・・。」 「ふりだしに戻るぜ!」 「え?」 「緒方先生ぶっとばして佐為を取り返す!だから緒方先生んち教えて。」 −続く− Charcoalのkai さんに頂戴しました!
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