ファウル 14 進藤の部屋に転がり込んで一週間が過ぎた。 彼も何故だろう、と思っているだろうが特に出て行けとは言われない。 さすがに他人と暮らした経験があるだけあって、思ったよりも居心地は良かった。 でも。 「キミ・・・毎日コンビニのお弁当なのか?」 「だってメシ作る間が惜しいじゃん。」 「しかしこんなに炭水化物と油物ばかりでは体に悪いだろう。」 「あーもう。ジジむせえ事言うなよ。佐為はんな事言わないで何でも旨そうに食ってたぞ?」 言ってから、しまった、という顔をされる。 それが辛い。 佐為さんの代わりになる、という事は、佐為さんと比べられるという事か・・・。 「・・・今晩はボクが作るよ。だから弁当を買って来るなよ。」 そうしてボクは食事の支度をし、部屋を片付けて溜まった洗濯物を洗う。 「佐為と暮らしてた時より暮らしやすいな。」 ただ進藤に、そう思って貰いたいばかりに。 我ながらいじらしい。 佐為さんに生活能力は全くと言っていいほどなかったという。 ただそこにいて、碁を打つ。 ただそれだけ。 それなのに、それを話す進藤は酷く幸せそうだった。 口惜しい。 悔しい。 どれほど彼を愛しく思っているかが痛いほどに伝わって来て。 あんなにやつれるほど佐為さんを心配していたのに、 緒方さんの所にいると分かって、微笑む事が出来るなんて。 「寂しくないのか?」 「ん〜?寂しいよそりゃ。でも取り敢えずアイツは無事なんだし。」 緒方先生と打ってて、それで幸せなら。 そう言って笑ってしまえる彼が痛々しくてならなかった。 ボクは、進藤に緒方さんの言っていた「命令」の内容を伝えることが 出来ずにいた。 『オレが佐為を預かる代わりに、アキラをやる。 佐為の代わりにするがいい。』 言わずとも、進藤は毎日のようにボクと打った。 お互い仕事も研究会も疎かにせず、それでも必ず家に戻って一局は打つ。 しかしボク達の寝場所は別だった。 いや、佐為さんが使っていた布団を使わせて貰ってはいるのだが ベッドで寝ている進藤が下りて来ることはない。 夜になって「おやすみ」を言う。 電気を消してそれぞれベッドと布団に横たわると、すぐに寝息が聞こえて来て 眠れないボクは枕に顔を埋める。 進藤の匂いが微かにする。 同じシャンプーを使っているから当然と言えば当然かも知れないけれど、 佐為さんの残り香を求めて進藤がこの布団にくるまっていたのではないかと そんな埒もない想像をせずにいられなかった。 それは苦しい。 (そんなに佐為さんを思う進藤の姿) そして甘い。 (彼が寝たかも知れない布団に包まれていると彼に抱かれているような気持ちになる・・・) 進藤。 キミは、佐為さんとこの部屋で暮らしていて幸せだったんだね? 今のキミとボクのように毎日のように打ち。 そして、この布団か・・・ベッドの上で。 ねえ。 ボクを、抱いてもいいんだよ。 キミが佐為さんを好きなのは知っている。 彼の方が付き合いが古くて純粋で碁の腕も上で、 ボクが敵う所なんてどこにもないのも。 それでも。 好きになってくれなんて言わない。 「感情」が重いのなら好きだなんて言わない。 佐為さんの代役でいい、だからボクの体を使ってくれないか。 キミを知れば知るほど好きになるよ。 今まで抑え込んでいた反動のように、一度認めてしまった気持ちは ボクの意志を無視して溢れ返る。 同じ部屋に眠るのが苦しい程に。 けれどボクはこの部屋を出ていく事が出来ない。 ここはまるでキミとボクの繭のようで。 少しでも、佐為さんの代わりになれたような気がするんだ。 キミの中の何かを独占出来たような気がするんだ。 こんな愛は、間違っているだろうか? 「さい・・・。」 その時上方で、小さな寝言が聞こえた。 起き上がって覗き込むと、進藤の睫毛が濡れている。 愛しくて。 離れたくなくて。 でも何より望むのは相手の幸せ。 佐為の代わりにボクを抱けなんて。 言えるはずがなかった。 Charcoalのkai さんに頂戴しました!
−続く− ※めめしい・・・。 |
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