ファウル 13 塔矢先生が中国に向けて旅立っても佐為は帰ってこなかった。 三日。 十中八九緒方先生の所にいるとは思うんだけど、もしそうじゃなかったら。 誘拐か?あんなデカい男を? 佐為は一人で電話を掛けられないから、少なくとも最初は誰かと一緒にいたのは確かだ。 でも、もし犯人に持て余されてどこかに閉じこめられたまま放っておかれたりしてるんなら 危ない頃・・・。 それとも、あの後もう・・・。 そんな事を想像して頭を掻きむしっていると、夜塔矢が訪ねてきた。 驚いたような顔をしている。 「進藤・・・酷い顔色だぞ。」 「あー・・・。あれからあんま寝てねーからな・・・。」 「食べるものは食べているのか?」 「食ったよ。チーズ。・・・ってあれ?あれいつだっけ。」 塔矢は痛そうな顔をした後、ドアを閉めてオレを部屋の中に押し返した。 「座れ。」 「あ、ああ。」 真面目な顔をしている。 人ん家来て何偉そうにしてんだよ、と思うけれど、言えない。 何か、何か怖くて。 「いいか。落ち着いて聞けよ。」 「・・・・・・。」 「・・・佐為さんが見つかった。」 「マジ?!」 思わず塔矢に掴みかかってしまった。 痛い痛い、と言うのに構わず、振り回すようにベッドの角に押しつける。 「どこだ?!どこにいたんだ?!」 だって、塔矢の言い方があまりにも深刻で、TVドラマとかで見た警察の 死体安置所みたいなんが浮かんじゃって・・・。 一刻も早く否定して欲しかったんだ。 だから次の塔矢の言葉に、体中から一気に力が抜けた。 「心配するな、やっぱり緒方さんの所だった。」 「・・・・・・。」 へなへなと塔矢の上に倒れかかる。 あー・・・もう・・・ 心配させんなよ・・・。 知り合いん所にいるって事は、取り敢えず命の危険はないんだな? 「進藤?」 「・・・ああ・・・。それ、ホントだよな?誰から聞いた?」 誰からって。後から思えば緒方さん以外ないんだけど。 「本当だ。この目で見た。」 「そう・・・。」 この三日の緊張から解放されて、そのまま寝てしまいそうになる。 ・・・って!!んな場合じゃなくて! 「あんのやろう!!」 「進藤!待て、どこへ行くんだ?」 「決まってんだろ?緒方ん家だよ!佐為を取り返して、そんでぶん殴ってやる!」 「待て!待てって!」 塔矢と揉み合いになって、佐為がいつも寝ていた布団を畳んだ上に転がり込む。 「テメエ!なんで止めんだ!」 「落ち着け、取り敢えず佐為さんは無事なんだ。快適に暮らしているんだ。」 「けど!」 「それに、キミ緒方さんの家知ってるのか?」 「・・・・・・知らない。」 また、脱力。 でも言われる通り、取り敢えず佐為は無事でこの世にいるんだな、と思うと 気持ちがどんどん落ち着いていく。 緒方のヤロー。 どういうつもりだ?勝手に佐為をさらいやがって。心配させやがって。 と思いつつ、まあ想像していた「最悪の事態」って奴ではなかった訳だし・・・。 「・・・実はボクは緒方さんの使いで来たんだ。」 「・・・・・・何?」 「まず、緒方さんは佐為さんをここに返すつもりはないらしい。」 「はぁ?!」 何考えてんだ?あの変態は! 「何でそんな、え?佐為を緒方先生ん家に住まわせるって事?」 「まあそうだ。」 「それってどういうつもり?なんで?」 「それは・・・キミが、佐為さんと暮らしたいのと同じ理由だろう。」 オレが佐為と暮らしたい理由・・・なんて言われても。 そんな事考えた事ないよ。 だって佐為はオレに憑いてていつも一緒にいたんだから。 体があっても一緒にいるのが自然で。 「んな事言われても、分かんねえよ・・・。」 「キミは、佐為さんと出来るだけ打ちたいから一緒に暮らしていたんだろう?」 う〜ん・・・まあ、そうかな。 でも、 「それだけじゃないもん。」 「プラス・・・好きだから・・・?」 好き・・・好き、だよな。 改めて言うと照れるけど、確かにオレはあの大ボケ幽霊・・・いや、もう幽霊じゃない、 平安男が好きなのには違いない。 「でもね、進藤。確かに最初に佐為さんを見出したのは・・・彼に出会ったのは キミだけれど、ボクたちだってもっと佐為さんと打ちたいんだ。 ボクの家の研究会だけでなく、もっと、四六時中・・・。」 「確かに佐為を独占してたみたいなんは悪いけど、しょうがないじゃん。 最初はオレにしか見えない幽霊だったんだし。」 「・・・・・・。」 「それに、だからってアイツを誘拐するってどうよ。佐為は囲碁マシーンじゃないんだぜ? アイツの気持ちはどうなんの?」 オレの下で(忘れてたけどオレは塔矢を押し倒した形のままだった)塔矢が顔を歪める。 「本当に、佐為さんは囲碁マシーンじゃない・・・?」 「何言ってんだよ。碁が強い以外はフツーの人間だろ?」 「普通・・・まあ・・・。でも。」 そこで塔矢がまた顔を顰めたんで、オレは起き上がって塔矢も起こしてやった。 正座するのを見て、今度はオレが布団を背にもたれ掛かる。 「気を悪くしないでくれ。佐為さんは、碁が打てて食べさせてくれる人だったら 誰でもいいんじゃないか?」 「・・・何で。」 「緒方さんの所から、逃げたそうじゃなかったからさ。」 「・・・・・・。」 ・・・うー・・・。 そっ・・・かぁ・・・。 ショックと言えばショックだけど、ありそうだよなぁ。 大体強い奴と打ちたい、神の一手を極めたい一心で千年も成仏しなかった奴だし。 幽霊だった頃から、オレから離れられるもんなら離れて塔矢先生んとことか 行きたそうだったしなぁ。 苦笑いしたオレを塔矢がびっくりしたみたいな顔で見ていた。 「どうした?大丈夫か?」 「あ?・・・うん。いや、そうかもと思って。 確かにアイツ、強い奴と打てれば何でもいいってとこあるよ。」 「・・・・・・。」 「毎日打つならオレより緒方先生の方が、う〜ん・・・いいって言いそうだよなぁ。」 「進藤・・・。」 塔矢は、何故か泣きそうな顔をした後オレを・・・ 抱きしめた。 Charcoalのkai さんに頂戴しました!
「え?と、塔矢?」 「・・・。」 「ちょ、ちょっと待って!何?」 いやこれが今日一番驚いたかも。 塔矢に抱きしめられるなんて何事? キモ・・・と思わなくもないんだけど、でも、塔矢が今優しいんだってのは分かって。 何故かオレを凄くいたわってくれてるんだってのは伝わってきて。 突き放す事が出来なかった。 −続く− ※ホントにどこへ行くんでしょうね。この話。 |
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