ファウル 9








久しぶりの研究会は楽しかった。
色んなレベルの人が、色んな発想をする。
高段者じゃなくても面白い意見は聞ける。

塔矢ん家で先生と、佐為と、塔矢とやった時ほど興奮はしなかったけれど
やっぱ大勢での研究会って楽しいなあと思った。
雑談もね。

そのまま夕食にも行って、軽く酒なんか飲んでみたりして。
最後まで付き合って、それでもみんなと別れた途端にダッシュして
家に戻った。





「っただいまぁ!」


慌ててカギを開けて入ったけど、出迎えてくれる人はいなかった。
塔矢の靴がまだある。


「ヒカル?あ。おかえりなさい!」

「ああ・・・おかえり。」


Charcoalのkai さんに頂戴しました!
佐為の方はやっぱ余裕なんですよv














佐為と塔矢は、奥の部屋で真剣な顔で盤を挟んでいる。
塔矢の方は顔を上げようともしない。

オレも鞄を置いて、碁盤の横に座った。

・・・うっわー!おもしれえ!


前に、佐為がどんどん強くなった事がある。
塔矢と対局した後、アイツは強くなったか、と聞いたオレに、
強くなったのは自分の方だと答えた。

今回も全くそんな感じで、もう少しで追いつけるんじゃないかなんて自惚れたりすると
あっと言う間に強くなったのかと思うほどに物凄い力量の差を見せつけてくれたりする。


「・・・ありません。」

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」


う〜ん、今の一局もう一度並べて欲しいけど


「塔矢、今日はサンキューな。早く帰らなくて良かった?」

「ああ、」


時計に目をやって、


「緒方さんはもういないんじゃないかな。」


でももう遅いか、と残念そうに呟くと、熱っぽい瞳で佐為を見つめ


「今日は本当に楽しかったです!勉強になりました。」


そう言って玄関に向かった。


「ちぇっ。それじゃオレがいたら楽しくねーみたいじゃんかよ。」

「そんな事はないよ。ただ、今日はじっくり集中して打てたから。
 またこんな機会があったらいつでも呼んでくれ。スペアキーの場所も覚えたしね。」


塔矢は佐為にもオレにも愛想良く微笑んで帰っていった。





「佐為、今日はどうだった?」

「とても楽しかったです!」

「塔矢もそう言ってたな。」

「ええ。あの子は本当に良い打ち手に育ちましたね。」


そうだな。
つか今思うと初めて会った時からずっと「良い打ち手」だった感じがするけど。


「自分は碁を打つために生まれて来た、と肚に据えているのがよく分かります。」

「そうなんだよなぁ。それがあの勝負強さに繋がってる感じする。」


でもそれだけにオレに言わせりゃちょっとアブない気もするんだけど。
何かの都合で明日からもう碁が打てない、なんて状況になったら
涼しい顔して迷わず自殺でもしそうな・・・。

ってそれは佐為も同じか。自殺した上に碁への未練に迷って出るような奴だし。
そんな二人が二人っきりで打っていたら。

それこそ命がけの勝負みたいな、ヤバい緊張感が漂うんじゃないか?

って変な想像して一瞬ゾクッとしたけど、目の前でほんわかと微笑んでいる
佐為を見るとバカバカしい、って思う。


「・・・でもそれは、ヒカルあっての事。」

「へ?」

「あの者が、あれほどに成長したのはきっとヒカルのお陰ですよ。」

「え・・・でも、オレがいなきゃ塔矢はもっと早く、」

「もっと早くプロになって昇段して、それでも今ほど素晴らしい打ち回しはなかったと思います。」

「そ。そんなものかな。」

「ええ。それにヒカルもそうでしょう?」

「オレ?」

「あの者がいたから、今のヒカルがあるのでしょう?」


ああ、オレはな〜。間違いなくそうだ。
塔矢アキラがいたから、オレは碁を始め、碁打ちになった。
その背中を追いかけて駆け抜けてきたし、それは今も。


「お互いにそうやって、切磋琢磨していける相手がいるのって素晴らしいですよね。」

「おまえだって塔矢先生がいるじゃん?」

「はい!」

「それに、今は塔矢だけじゃなくて色んな奴と磨きあってるよ。」

「でも、きっと塔矢は特別ですよ。塔矢にとってもヒカルは特別な存在の筈です。」


そうだな。そう改めて言われると照れるけど。
塔矢にとってもオレが特別な存在なら、そりゃ嬉しい。
やっぱもっともっと精進しなきゃって思うよ。
アイツに追いかけられる位にさ。


「ヒカル〜!本当に成長しましたねぇ・・・とても数年前は碁石を、」

「だからそれを言うなって!」


佐為と打てるのは嬉しい。
塔矢と打てるのも嬉しい。
塔矢が佐為と打って強くなるのも、嬉しい。

でも、でも、塔矢と佐為を二人きりにするのは何だかヤだ。
秘密がバレるようなボロが出そうってだけじゃなくて。

今日の研究会は楽しかった。
やっぱり、大勢で打つのって楽しいよ。
実際この部屋でも、佐為と二人で打ってた頃より、塔矢が来るようになってからの方が
なんか盛り上がるし。


「佐為。」

「はい?」

「今度からさ、塔矢に来て貰うんじゃなくてオレたちの方から塔矢ん家に行こうか。」

「ええ・・・?」

「んで、塔矢先生が暇だったら先生にも参加して貰ってさ。」

「はい!」


あ〜あ。嬉しそうにして。
でも、そりゃそうだよな。
佐為にとっても、きっとその方がいいんだ。







−続く−







※私もそれが賢明だと思います。






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