ファウル 8








しっかし塔矢があんなにしつけー性格だったってのは計算外だったな。
棋院で会っても「彼と打たせろ。」の一点張りでさ。

佐為と打たせなければ、アイツの存在をバラす。
って、脅せばいいだろうに塔矢は絶対そんな事言わないのな。
先生にもあれ以降何も聞いてないみたいだし。

そんな義理堅い所にほだされた訳じゃないけど、オレは塔矢を自分の部屋に呼んだ。
「キミとも打ちたい」とかかわいらしい事も言ってくるしな。




「佐為さん、こんにちは・・・。」

「塔矢!わぁ、いらっしゃい!この部屋にヒカル以外の人が来たの初めてです!」

「ってさぁ、ここオレの部屋だって忘れてるだろおまえ。」


塔矢を見てはしゃぐ佐為に、やっぱ退屈させてたかな〜なんて思ってると。


「え・・・もしかして一緒に住んでるのか?」

「そうだけど?」


塔矢が大げさに驚いた顔をした。
そして辺りを見回して、狭いのは仕方がないが汚いのは、と言って、つぎつぎと
片づけ始める。


「いーっていーって。」

「キミは良くても佐為さんは。」

「佐為も別に構ってないよな?」

「はい!私はヒカルといられるだけで幸せです。」


く〜っ!可愛い事言ってくれるなぁ!
塔矢は不思議さと嫉妬の入り交じったような複雑な顔をする。


「キミたちは師弟じゃなかったのか・・・?」

「いや、まあ師弟だけどコイツは昔っからオレに寄生してたしなぁ。」

「寄生って、いやまあいい、にしても明らかに棋力が上の方にその態度は。」

「碁を知らない頃から知ってっから、なんてか、家族みたいでさ。」

「ボクは父にもそんな態度は取らないが。」


う〜ん、それはおまえがちょっと特殊なのかも。
それか先生のキャラか。
確かにオレのとーちゃんが塔矢先生でも、佐為みたいに接する事は出来ないよなぁ。

塔矢はそれからも、『佐為さんが碁打ちにならなかったのは余程裕福な家系の出だからと
思っていた』とか、尋ねるでもなく独り言みたいにぶつぶつ言いながらやはり片付け続けた。




「塔矢、強くなりましたねー。」

「・・・・・・。」

「あ、コイツが言ってんのは昔の棋譜と比べてって意味な。」


佐為と対局した塔矢は、負けて口惜しそうだったけれど嬉しそうでもあった。
そのまま感想戦に入る。

今の状況、コイツにとってはやっぱ色々不審な事もあるだろうに、ただ佐為の碁の腕を認め、
何も聞かずそのまま受け入れてくれてるんだ。
あー、いいよなぁ・・・。


「何?」

「いやぁ、おまえってホンットいい奴だよな。おまえみたいなんがオレのライバルで良かったって
 しみじみ思うよ。」

「はあ。」


少しこそばゆそうな顔をする。


「では今度は、キミとボクで打たないか。」

「え・・・いいの?」

「ああ勿論。佐為さん、すみません。」

「いいえ!すごく興味深いです!私も二人の対局をずっと見たかったのですよ。ずっと・・・。」


そういう訳で久しぶりに塔矢とプライベートで打った。
やっぱ面白い。
力が拮抗していて、オレとは全然タイプの違う碁。
佐為も横で見ながらすごく楽しそうだったよ。

だから、遅くなっても塔矢も帰り辛そうで。
だから、また来てもいいかって。

勿論勿論。
そう言うと、それから塔矢は暇を見つけてはうちを訪ねて来るようになった。
オレと違って研究会とかも手を抜かないから長さ的には短いけれど、それでも
とても充実した時間。

そうして、佐為とオレと塔矢で密度の濃い時間を過ごす内・・・。





「進藤!」

「あ。和谷〜。何だか久しぶり。」

「久しぶりっておまえが逃げんだろ?」

「んな事ねーじゃん。先週一緒に昼メシ食ったばっかじゃん。」

「じゃーなーくーて!」


確かに和谷に見つかった時、正直一瞬隠れそうになった。
何だか後ろめたくてさ。



Charcoalのkai さんに頂戴しました!
ありがとう!和谷っち怒ってるよ(笑)

「おまえ、こないだまた森下先生の研究会休んだろ?いい加減にしろよ。」

「あー、ごめんごめん。」

「オレに謝っても仕方ねーだろ。今日こそは絶対来いよ!」


う〜ん、でもな。森下先生の研究会行くと、必ず終わった後
先輩棋士たちとメシ行こうって話になるし断りにくいんだよな。
そうすっと遅くなっちゃうし・・・。

佐為が、家で待ってる。
オレがごはんを買って来るのを、
今日の棋譜を持って帰って来るのを、碁盤の前で正座して待ってる。

遅くなったら心配するだろうなぁ。
ハラも空くし。


「悪いけど・・・。」

「だーめ!んな事言ってたら破門されっぞ。」


別に破門されてもいくらでも勉強は出来んだけどさ。
森下先生や和谷や、その関係の棋士と仲悪くなるのは
これからこの世界で生きていくのにはマズいかなぁ。

あー。せめて佐為にも携帯持たせて、使い方教えておけばよかった。
部屋に電話置いてないもんなぁ。


「いっぺん家戻っちゃダメ?」

「って今からおまえん家戻ってまた森下先生んとこまで行ったら一時間以上
 掛かっちゃうじゃん!研究会終わるぞ?」


終わりはしないけど、やっぱ良くないか。
どうしよう、どうしよう・・・。


「あ、そだ!ちょっと電話だけさせてな。」


こんな時に、ああ!協力者がいるって素晴らしい。
ボロが出るかも知れないから二人きりにするのはまだ不安だけどさ。
でも佐為に心配させるよりはいい。

どうか、いてくれ、塔矢。
そんでこの後暇であってくれ。


『・・・はい。』

「もしもし?塔矢?」

『ああ。どうしたんだ。』

「この後暇?」

『家に緒方さんが来ている筈だから早めに帰ろうかと思っていた所だが。』

「オレ、今日どーしても外せない用事が出来ちゃってさ、早く帰れないんだ。」

『うん?』

「で。悪いけど、おまえコンビニで弁当買って、オレん家行ってくんない?
 佐為がハラ空かせて待ってんだ。」


やりぃ!塔矢は引き受けてくれた。
スペアキーの場所を教えて電話を切る。
これで心置きなく和谷と行けるってもんだ。


「お待たせ!」

「ああ。何?」

「塔矢に電話してたんだ。」

「塔矢あ?」


あ、そういや和谷って塔矢の事好きじゃなかったよな。


「おまえ、こないだも塔矢と一緒に帰ってたよな。」

「うん・・・。」

「そういや塔矢が家に来たって行ってなかったっけ?」

「うん。来た。」

「オレもここんとこおまえん家なんて行ってねーのに。最近塔矢と一緒にいる率高くね?」


う〜ん・・・高い、よな。確かに。
塔矢用事がない時はオレん家に入り浸ってるし。


「同門でもないのにキモいよ、そんなの。」

「そうかなぁ。」

「大体ライバルだろ?仲良しこよしで勉強なんかしてていいの?」

「う・・・。」

「・・・ってか、オレ達と打ってても、物足りねえ、とか?」


そろっと言う。
うわー。ある意味図星!
いや、塔矢だけならそんな事全然思わないんだけどさ。
佐為だぜ?佐為。本因坊秀策だぜ?
前なら佐為も一緒に研究会行けたのにな〜・・・。


「いんやいんや!そんな事ない!」

「じゃあもっと付き合えよな。」


う〜。そうだな〜。ずっと佐為と引きこもってる訳にも行かねえよな。
これ以上棋士同士の付き合いを疎かには出来ない。
佐為が消えた後長い間休んで、周りの視線の冷たさにオレは実は辟易していた。

勝てばいんだろって強がってたけどさ。
あの時、森下先生や和谷が笑って許して受け入れてくれなかったら、マジへこんでたかも。


あー。でも、佐為はどうする?
今日は塔矢に頼んだけど、いつもって訳にも行かないし・・・けど。


・・・後で考えよ。


そう思いながら、オレは和谷に続いた。






−続く−






※塔矢っていいヤツだなぁ。今の所。







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