ファウル 4








仕事以外では、佐為としか対局しない日々が一ヶ月過ぎた。

その間佐為にもちゃんとした下着やパンツ(ある意味袴っぽいワイド系ばかりだ)を買い
少しづつ外に連れだしたけど、まだ一人歩きはしたことがない。

佐為は昔と同じように、いや昔以上に、風に、空気に、自然の美しさに
いちいち感動していた。
木に頬ずりをして涙ぐんだり、自分の影を見てはしゃいだり。

勿論それと同時に現代生活にも少しづつ馴染み、オレがいなくても
風呂に入ったり(シャワーをまた怖がって大変だった)トイレに行ったり
冷蔵庫や電子レンジまで使えるようになっている。

また、テレビの点け方や新聞のテレビ欄の見方も覚えて、囲碁の番組を
勝手に見たり、オレの碁の本を取りだして読んだりもしているらしい。

そんな佐為を側に置いてオレは、満たされていた。



けれど、佐為は・・・。




「佐為・・・。」

「はい?」

「この部屋、退屈?」

「いいえ。」

「嘘つくなよ。オレ以外の奴とも対局したいだろ?」

「・・・・・・。」


困ったような顔が、雄弁に物語る。
ホントは前から気付いてたんだ。
佐為なら、もっと色んな人と対局したがるだろうなって。

でも、佐為が消えてオレが成長したように、佐為も遠慮深くなっていた。
オレが仕事を持ってるってのも理解しているし、迂闊に他の人と
対局する訳にはいかないってのも。

だって佐為は強すぎる。

昔、佐為を甘く見ていた頃のオレならネット碁でも何でも打たせてやったけど
今「sai 」が復活したりしたら大変だってのは良く分かる。

この部屋にもPCはあるけれど、その気になればプロバイダを辿って
見つかってしまうかも知れない。
今時身分証が要らないネットカフェも知らないしな。
それ以上に今は仕事仲間なプロ棋士たちの心を引っ掻き回したくないし。


けれど、ずっと一人でこの部屋で。
オレの帰りを待って、オレとだけ打つ人生なんて・・・想像するとゾッとする。

どうにか、ならないかなぁ。


「誰と対局したい?」

「・・・あの者。」


誰と、言わなくてもすぐ分かる。
いや聞かなくたって分かってたんだ。


「神の一手に、一番近いと言われていたあの者ともう一度・・・叶うことなら。」


そりゃあなあ。
出来れば再戦させてやりたいし、塔矢先生だって喜ぶと思う。
ネット対局でもオッケーだろうし。
オレも塔矢先生と佐為の対局をまたこの目で見られるものなら見たいよ。
二人とも名前変えてやったらどうかな?
でも見る人に見られたらヤバい対局になるのは間違いないだろうなぁ。
やっぱ無理か・・・。


あ!

いや、ネット対局じゃなくてもいいよな?
前、目の前に連れてこいって言われた時はそりゃ口惜しかったんだ。

・・・直接会わせるのは、顔を見られるのは危険か?
でも塔矢先生、もう何者か問わないって言ってたよな?
あの人なら、佐為の秘密を話しても守ってくれるかも知れない。
オレ達の、力になってくれるかも知れない。

としたら。


これは大きな賭だ。

オレ以外の人に、佐為を会わせる。

秘密は一人に漏らしたらもう秘密でいられないかも知れない。
でも、塔矢先生なら・・・。





「塔矢ー!」

「進藤!どうしたんだ、この所碁会所にも全く顔を見せないで。」

「うん、ちょっとな・・・。」

「今日はどうだ?この後仕事はないんだろう?」


塔矢が飢えたケモノみたいに絶対放すものか!って勢いでオレの腕を掴む。
ここ一ヶ月避けてたからな〜。

塔矢と打つのは楽しい。誰よりも楽しい。
これは間違いない。
でも、あの「佐為」が、帰ってきたんだ。
そして佐為はオレ以外の人と打てないんだ。


「あの・・・悪いんだけど。」

「一体どうしたというんだ!」

「それよりさ、親父さんって今日本にいたっけ?」

「ああ、先週から戻っているが?」


ラッキー!
っつっても、オレと佐為がいきなり行っても会ってくれるかどうか分からないから。


「あのさ!塔矢先生と打ちたいって奴がいるんだけど。」

「奴って・・・友だち?一般の方?」

「うん・・・まあ。」

「それは難しいかも知れないな。今は塔矢門下の弟子たちが毎日のように
 来ているし、他のプロ棋士の人も・・・。」

「でも!ソイツ、強いんだ。」

「・・・進藤。キミ、プロになって何年になる?」

「や、分かってるって。プロを舐めてる訳じゃない。でも、ソイツは特別。
 塔矢先生だって、きっと打ちたいと思う。」

「・・・・・・。」

「ホントだって!前打った後だって、」

「『sai 』・・・?」

「!!!」

「それは『sai 』の話か?彼が帰ってきたのか?!」


うっわー!やべー!
オレ失言大王!
塔矢先生が打った事があってまた打ちたいと思うようなアマチュアって他にいねえのか?
・・・いねえよな。


「進藤!『sai 』は・・・!」

「おまえ声でかすぎ!」


慌てて口を押さえて辺りを見回す。
良かった・・・誰にも気付かれてない。

そのまま階段ホールまで引っ張ってって引きずり込み、壁に押しつける。
抵抗しようとする耳に口を押し当てて、


「絶対秘密にしてくれ。」


囁いた。


「・・・どういうことだ?」

「言うから。おまえには、いつか話すって言ってたしな。」

「・・・・・・。」

「だから、誰にも言わないでほしい・・・約束守れる?」

「・・・ああ。」


壁に耳あり障子に目あり。
オレは絶対誰にも聞かれない用心の為に(ホントだって!)
塔矢の耳に口をつけたまま、佐為が、オレの師匠が戻ってきたって事を伝えた。


「しかしキミの師匠は森下先生じゃなかったのか?それにキミとの最初の対局は!」

「今日は、こ・こ・ま・で。どう?塔矢先生に繋いでくれる?」

「・・・分かった。父にはどこまで言っていい?」

「『sai が先生と対局したがってる。』取り敢えずそれだけで頼む。」






−続く−


Charcoalのkai さんに頂戴しました!
ヒカアキ風味v悶えます。
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※ヒーカアーキーーテイスティ〜♪布施アキラでお願いします。







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