ファウル 1








一人暮らしを始めて半年、朝起きたら隣に知らない女の人が寝ていたなんて、
これまでそんなことはなかった。

正直、ヘマしちゃったよ〜って苦笑いしながら、でも内心得意顔で友だちに話せるような、
そんな「オトナ」な経験をしてみたいって気持ちはないではなかったんだけどね。

でも実際そうなってみるとかなり焦るというか。
妊娠してないよな?っつか全然覚えてないし!勿体ない・・・ってそれ以前にこれ誰?

ベッドの隣から覗いた長い黒髪を前に、オレは焦りまくるばかりだった。




・・・ええと。
とにかくナニかあったにせよ、なかったにせよ、この人の顔確かめなきゃな。
多分知らない人だと思うけど。

そう思って、少し布団を捲って肩を揺らしてみる。
あ・・・れ・・・結構骨太・・・ってか、・・・・・・お、男?!


オ レ の ベ ッ ド で ハ ダ カ の 男 が 寝 て る !


何だこりゃ!
こえー!こえー!怖すぎる!誰だテメエ!

混乱の極みってか、今までの焦りの中にどこかあった甘酸っぱさから甘さが抜けて
あとは酸っぱい焦りだけが残って、こんな場合どうすりゃいいんだ?って怒りに似た
感情が湧いて。

オレはとにかく喚きながら男の肩を殴り倒した。


「いっ!痛い!何を・・・、」

「るっせえ!さっさと、・・・・・・さっ・・・?!」


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美しい…美しすぎる!
でもやっぱりちゃんと「男性」の体なんですよねv
クリックで原寸。


・・・オレ、絶対自分がまだ寝てると思ったよ。
なんだ、変な夢見てんのか。
ならこの変な状況もアリだよな。
焦って損した〜。


「ヒ・・・カル?」


だって佐為にそっくりな男がさ〜、ハダカで現れるなんておかしすぎるじゃん?
元々幽霊だし喜んでいいのか怖がっていいのか微妙。
ってかそんな夢見てるオレ自体謎すぎ。


「ヒカルーーーー!!」


抱きつくな!押し倒すな!
・・・ってこの重量と質感・・・ま、まさか現実???
佐為に似てるけど、本物の男なの?
としたらやっぱり誰だテメエッッッ!






「・・・ええ。私にも覚えがないのですよ。」


お茶をすすってにっこり微笑む佐為・・・。
コイツが何かを摂取してる姿にはどうしても違和感がある。
服装にも・・・。


混乱が去って、とにかく二人とも落ち着こうって話し合って、
改めてじっくり見ても、話を聞いてみても、やっぱり佐為だった。

佐為は泣きながら再会を喜んでくれて、オレも涙ぐみながらちょっと抱き返したけど
その前にやっぱり服を着てくれ、っつって、服を貸した。
オレの普段着は大体大きいサイズが多いし、初めて知ったけど佐為はどうも
結構細身らしいんで何とか着られる。
ジーンズはさすがに合わなそうだったからスウェットのパンツを貸した。


「へえ〜、肌触りが良いのですね。知らなかった。」

「そうだな。おまえいっつも狩衣だったもんな。」


オレにとっては狩衣も烏帽子もコミで佐為だったから、何だかまだちゃんと納得出来ない。
初めて見た佐為の頭のてっぺんには髪の毛の分け目があって、
初めて見たその肌は、日に当たったことがないみたいに白くて。(実際当たったことないかな?)
なんかモヤシみたいで、そうだな、塔矢あたりがもし脱いだらこんな感じかも。


「あの・・・。」

「ん?」

「頭が、妙に軽くて落ち着かないんですが・・・。」

「烏帽子?幽霊ん時も重さ感じてたの?」

「ええ。重さと言えるかどうか分かりませんが、確かにある感触はありましたよ。
 だからないとどうも・・・。」


原付にメットなしで乗っちゃった時の違和感?
すぐに慣れるとは思うけど。
オレは辺りを見回した。


「ん〜とな、んじゃ取り敢えずこれ被っとけ。」


去年の夏衝動買いしてほとんど被らなかったストローハット。
これが一番烏帽子の感触に近いんじゃないかな?
ぽーんと放ると、佐為はこの距離でわたわたと受け損ね、慌てて拾い上げた。


「あの、どうやって被れば・・・?」

「別に普通に。内側のタグ・・・白い四角いのが、真後ろに来るように。」

「やってみますね。」


怖いモノを触るように鍔を抓み、真上からそうっと自分の頭に置いた。


「・・・どうです?」

「・・・ぶっ。」


うわははははははっっっ!!!


「何ですか!おかしいんですか!」

「い、ひぃひひ、いや、おかしくない、似合って・・・わははははっ!」

「・・・・・・!」


いや、実際凄く似合ってたんだ。
長髪の上にってのがある意味お洒落な感じでミュージシャンみたい。

でも、その似合ってるのが「佐為」ってだけで、何だか妙なツボを突かれたみたいに
笑えて仕方ない。

そう・・・佐為、なんだよなぁ。


「怒るなって。ほれ、自分で見てみ?」


卓上鏡を押しやる。
佐為は、鏡を覗き込んで絶句していた。


「な?似合ってるだろ?」

「は・・・い・・・。」

「どした?」

「いえ・・・自分が、こんな顔をしていたのかと・・・。」


ああ。
そう言えば、幽霊だった佐為は鏡にも写真にも写らなかったんだ。


「生きていた頃に見た鏡は、こんな風にはっきりと映りませんでしたし、
 水鏡で偶に見るくらいで・・・それも千年も前の話ですし・・・。」


つぶやくように言って、またつくづくと鏡に見入る。
そっかー。
オレが毎日見ていた顔を、おまえ自身は全然見てなかったんだな・・・。

おまえはそんなに無邪気で、そして綺麗な顔をしてたんだよ。

オレは黙って、自分の顔に見とれる佐為に見とれ続けた。




「佐為・・・?」


しばらくして話しかけたオレを、佐為は驚いたように見て目をぱちぱちさせた。


「夢から醒めたみたいだな。」


と笑うと、佐為は鏡を伏せて真っ直ぐオレを見る。
そして


「ああ、すみません。そうですね・・・夢から、醒めたようでした。」


と微笑んだ。
鏡に見とれていた話ではないのだと、オレはすぐに分かった。


・・・いつから眠っていたのか分からないけれど、確かに寝ていたのだと
目が覚めた時に初めて気付くようなもので。
ああでも、隣にヒカルがいるのを見た時はこれこそが夢だと思いました。

けれど、夢でも構わないから離れたくない・・・一瞬でも長く一緒にいたい・・・
そう、思ったのですよ。


「でも、ちゃんと服も着られたし、抓ったら痛いし自分の顔も見られるし。
 夢じゃないみたいですね・・・?」


なんつーか。声もちゃんと耳から聞こえてくる現実的な響きで。
別人みたいじゃん?って思うんだけど、見れば見るほど話せば話すほど
それは間違いなく佐為で。


「佐為。」

「はい。」


不意に、時間の感覚が狂った。

佐為が消えたのがつい昨日のことで、何処行ったんだ?と思ってたら
「お衣装替えしました〜」って・・・。
脳天気な顔で、現れたような・・・。


・・・バカヤロウ。


どんだけ心配したと思ってんだ?
広島まで探しに行ったんだぞ?


「佐為・・・。」

「はい?」

「佐為!」

「はい。ヒカル。」

「さ・・・。」

「ヒカル?」

「・・・・・・バッッッカヤロウ!!!」




オレは初めて、思いっきり佐為に抱きついた。

佐為に触れ、佐為の体温を感じながら、赤ちゃんみたいにわんわんと泣いた。


Charcoalのkai さんに頂戴しました!
そうそう、正にこんなイメージなのですよ。麦藁佐為。
クリックで原寸。














































−続く−







※最近佐為が好きでねぇ。







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