ドッグ・イーツ・ドッグ3
ドッグ・イーツ・ドッグ3









進藤は、らしくもなく初段に負けた。
だが、それだけで後は比較的順調に勝っていた。



あの日以来しばらく進藤の部屋には行っていない。
それどころかまともに話したこともなかったが、
対局時以外も普段通りにしてはいるものの気を付けてみれば魂の抜けたような様子で、
なんとなくアンナさんと上手く行かなかったのかな、と思った。

上手く行ってなかったら、
「上手く行ったらいくらでもさせてやる」と言った約束はどうなるんだ?などと
ボクは他人事のように(実際他人事だが)考えていた。






「進藤。」

「・・・・・・え?」

「キミ、明日休みだろう。」

「ああ・・・。」

「今日手合いが終わったら部屋に行ってもいいか?」

「え・・・・あ、ああ。いいよ。」


もし本当に進藤が失恋していたらこんな時に悪いかもしれないが、
ボクももうそろそろ進藤が欲しくなっていた。
それにアンナさんとの事の行方も気になるし。







待っていてくれた進藤と連れ立って帰る。
しかしどうも上の空の様子なので、途中でコンビニエンスストアに立ち寄り、
進藤の手に札を握らせて、ビールを買いにやらせた。
外からドア越しに見ていると、進藤もぼうっとしていて自分が法に触れている事に気付いていなかったが
店員も都合良く考え事でもしていたらしく、全く咎められなかったようだ。




部屋にはいると進藤は「だりーっ!」と言いながらベッドに体を投げ出した。
先日はこのベッドに・・・アンナさんが、本物の女の子が横たわったのか。
と思うと少し興奮した。

辺りを見ると、以前ほどではないが、出した物は全く片付けていない、という状態で
散らかっている。


「・・・荒れてるな。」

「まあな。」


天井を見つめたまま投げやりに言う進藤に、掛ける言葉がない。
何を言っても訊いても、彼を傷つける気がした。

だからさっき買ったビールのプルトップをプシュ、と開けて、溢れた泡を慌てて舐め取り
ついでに一口飲んでから黙って進藤に差し出した。


「ああ・・・、サンキュ。」


ベッドの上に胡座をかき、ゴクリ、と一口飲んでから


「苦い。」


と顔を顰めて返して来る。


「キミ、ビール飲んだことないのか?」

「うん。生まれて初めて。あんまり美味いもんじゃねーな。」


意外だった。進藤なら結構いける口だと何となく思っていた。


「オマエは?」

「小さい頃から父の弟子に付き合わされて、偶には飲んでたよ。」

「へえ!意外。」


ボクの内心と同じ感想を漏らして、ボクがゴクゴクと喉を鳴らして飲むのを見つめる。


「美味い?」

「そうだな。暑い日は本当に生き返る気がする。」

「やっぱ頂戴。」


またボクの手から受け取って、口を付ける。
初めて飲むと聞いたからかも知れないが、
何だか子どもがジュースを飲むような飲み方だと思った。

ボク達は350ミリリットルを代わる代わるに干した。






進藤は、少ししか飲んでいない筈なのにもう顔が赤くなって意味もなく微笑み始めた。
酔っていると言える程ではないが、やはりアルコールが作用しているのだろう。


「ああ、何だか久しぶりに気分がいい・・・。」

「それは良かった。」

「塔矢・・・。サンキューな。」


ベッドに腰掛けたボクの肩に頭をもたせ掛ける。
その体温が高い。


「たったあれだけで酔ったか?」

「うん・・・多分。」


しばらくそのままじっとしていたが、やがて一つ息を吐くと顔を上げた。
揺れそうな目で、それでも真っ直ぐにボクを見つめる。
いよいよ、か。



「アンナな・・・。」

「うん。」

「もう来ないって。」


ああ・・・やはりか。
静かに口を切った進藤が、余計に切なかった。


「・・・そうか。何があったんだ?」

「尻に・・・。」

「えっ。」


本当に一体何があったと言うのだ。








「凄くいい雰囲気だったんだ。予行演習と色々違ってたけど。」

「映画見ても抱きついて来なかっただろう。」

「うん。良く分かったな。」

「まあな。」

「それで、何とかキスして、『したい。』ってったら、」

「言ったのか!直球勝負だな。」

「なんかそうなっちまったんだよ。でも、アンナ頷いて自分で横になってくれた。」

「へえ、いいな。というかアンナさんも押し倒されて脳震盪起こすのが嫌だったんだろうな。」

「うるせえな。聞けよ。んで情けないけど凄く手が震えちゃって、全然脱がせられなくて。」

「で、またしても自分で脱いでくれた訳か。」

「・・・そうなんだ。」


なんだか上手く行ってるような全然そうでないような、
最初から綱渡りな情事のように思う。


「で。」

「女の子ってやあらかいんだぜ〜っ!
 何かどこもかしこもふにゃふにゃで気持ちいいというか悪いというか。」


失礼というか。
今までぼうっとしていた進藤の顔が不意にふにゃりとニヤけた。
しかしここからがボクの興味の的だ。


「気持ち悪くはないだろう。」

「う〜ん、オマエで慣れてるから変な感じがしたのかな?
 でも細くってな、胸が膨らんでてこれが柔らかいの何の!」

「ほほう!」

「あれは何て表現したらいいのかなぁ。オレはゴム毬みたいなん想像してたんだけど、
 全っ然、違うね!もっととろけそうに柔らかくて・・・。」

「プリンみたいな感じか!」

「いや、プリンだったら触ったら崩れるじゃん!それ怖いよ。」

「わらび餅みたいな?」

「ん〜!わらび餅を丸い袋に入れたらあんな感じかも知れない。」

「重い感じだな。」

「そう!重いと思う。たぷたぷしてて。そりゃ胸大きい人は陸上の選手になれねえわ。」

「・・・触ってみたいな。」

「うん。お母さんのでいいからいっぺん触ってみ?」

「母のでって・・・ボクは良くない。」

「オレも母さんのは嫌だな。」

「じゃあ言うな。」

「まあとにかく!とろけそうにやらかいのに、揉んでも元の形に戻るんだ。あれって不思議だぜ〜。」

「そうか。で、その先は?」

「ああ・・・・。」


いよいよ話が核心に入ってしまったらしく、今までの躁状態が嘘のように
進藤の声のトーンが落ちる。


「・・・女の子のアソコってさ・・・びびるぜ。」

「見・・・たのか!」

「いや、・・・触っちまった。」

「そ、それで?」


思わず喉が鳴る。


「ここがさー、」


進藤が自分の足を開いて睾丸と尻の穴の間を指さす。


「裂けてるんだぜ!」

「いや、知ってるだろ?本で・・・」

「そうなんだけどさ、実際触ると、怖いくらい。」

「見はしなかったのか。」

「うん。見られなかった。ずっと耳の横で好きって言ってたし。」

「ああ、それは賢明かも知れないな。」

「うん、だけどさ・・・。」

「?」

「ぬるっ・・・て。」

「ああ処女でも濡れるんだ。」

「そうみたい。でも一瞬血だったらどうしようか思った。」

「血?・・・生理か。」

「かな〜、って思っただけ。後で確かめたら違った。」

「良かったな。というかそうだったら彼女が『うん』とは言わないと思うが。」

「まあな。でも、よく考えたら不思議じゃね?処女膜あっても生理はあるんだぜ?」

「そりゃそうだろ?」

「どっから出てくんの?」

「あ・・・そうか。」

「変だろ。」

「まあ処女膜というのは穴を密閉しているものではない、と考えるしかないな。」

「そうなんだ。」

「・・・ってキミ、話を逸らそうとしているだろう。」

「・・・・・・。」


どうも進藤の話が進まない。
勿論その詳細に興味がないではないが、それは後でいいから、
とにかく結果はどうなったのか。

やはり、手で触ったのがいけなかったのだろうか。
それとも、痛くしすぎて嫌われたのだろうか。
まさか、進藤あれ程言ったのに、ゴムを着けずに、よもや・・・。







黙り込んだ進藤に先を聞くのが少し恐ろしくなってきた頃、


「でもまあオレも初めてだし、必死でさ。」

「だろうけど。」

「キスしたり、色々したりしながら足を開いて、つい。」

「つい?」

「尻の穴に思いきり指を・・・。」


!!!
・・・・・・女の子の、しかも処女の尻の穴に、指。
膣でも大概どうかという結論になったはずだったのに。


「信じられない・・・。」

「ああ!そうだよっ。自分でも訳分かんないよ!」

「もしかしてボクと間違えたのか?」

「多分そう。もう夢中で何も考えられなくて、いつもの癖で。」


それは振られる、だろうな。


「アンナ泣いちゃって、服着て逃げてっちゃった。」

「ゴムを使用するに到らず、か。」

「あの状態で最後まで行ってたらそれって強姦。」

「キミにしてはよく我慢したな。」

「うん・・・。」


それから一度電話でもう会わないと言われて以来、ケータイの番号も変えられたらしい。
哀れ・・・というか自業自得というか。







「・・・好き、だったから。」


かなりの沈黙が続いた後、進藤がぽつりと呟いた。


「そうか。」

「うん。好きだったんだ。」

「そうだな。」


進藤の目が潤んで光り始める。
彼は膝を抱えて上を向いた。
上を向いたが、やはり涙が零れた。


「・・・泣くなよ。男だろ?」

「っく、・・・うん。」

「男は人生で三回しか泣いちゃいけないんだぞ。」

「・・・・ひ、・・どうして?」

「おぎゃあと産まれた時と、両親が死んだ時だ。」

「は、はは・・・。オレ、もう三回越え、ちゃったよ。」


涙は一度零れはじめると、止めどなく後から後から流れてきた。
それでも笑おうとする進藤が、哀れで、
ボクは思わずその頭を引き寄せていた。


「大好きだった・・・。」

「うん。」


ボクの胸で嗚咽を漏らす進藤を抱きしめる。
体を伸ばしてティッシュの箱を引き寄せ、何枚か取って渡すと、
涙を拭って鼻を噛んだ。
それでもまだ涙が溢れ出し、それを隠すように縋り付いて来た。
ひくっひくっと震える進藤を抱くと、胸の辺りが熱くなる。


「・・・マジで、好きだったんだ。」

「うん。」

「あんな事しちゃったけど、傷つけちゃったけど、」

「・・・・・・。」

「本当に、本当に、」

「うん。キミが本気でアンナさんを好きだったのは、ボクが知ってる。」


言うと進藤は顔を上げてボクを見て・・・また泣いた。

その、赤い鼻と濡れた睫毛に・・・何故か、体が・・・。
そう言えば進藤もボクの涙もキたとか言ってたな。

それで漸くここに来た一番の目的を思い出した。




「進藤・・・。」


まだ泣きじゃくる進藤をゆっくりと押し倒す。
勿論片手を突いて、どすんと倒れないように。


「とう、や。・・・酔ったか?」

「うん・・・多分。」


心細そうに見上げた目にまた悩殺されて・・・精一杯優しくキスをした。
本当に、こんな時に。
キミが傷ついているのに付け入るようでとても後ろめたいと言うか
申し訳ないんだけれど。



「ボクが、慰めてあげる・・・。」







−続く−







※今度はアキラさんが酷いですか。この二人って何だかなあ。

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