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ドッグ・イーツ・ドッグ1 進藤に彼女が出来たという話なので、当分彼の部屋での密会・・・ というか性欲処理はないと思っていたのだが、その矢先に呼び出された。 「よっ。ちょっと久しぶりか。」 「そうだな。」 「まあ上がれよ。」 ほぼいつも通りの会話で狭い玄関から上がったが・・・いつもと様子が違う。 「あれ・・・やたら片付いてないか?」 「だろ?」 前は結構滅茶苦茶だった。色んな物が変な所につっこんであって。 でも床は空いていたし、シーツさえ清潔ならばボクとしては特に口を挟む事はなかったのだが 今日は有るべき所に有るものがあり、エロ本なども片付けてある。 よく見れば以前は一番惨状を示していた台所もクレンザーで磨いたかのようにピカピカだ。 いや、磨いたのだろう。 あ・・・そうか。 「もしかして彼女が掃除してくれたのか?」 「バッ・・・彼女にそんなことさせられるかよっ!!」 そんなものかな。 「てゆうかまだここに来たことないし。」 「ああ、なるほど。」 「そ。明日初めて来てくれるのー!」 嬉しそうだな。 どうせならボクが来る前にも少しは掃除しておいて欲しかったものだ。 「なあ、どう思う?」 「どうって。」 「今まで外でのデートばっかでさぁ。それで初めてオレの部屋に来たいって言ってくれたってことは。」 「ああ。」 「やっぱそれって、いいって事じゃない?」 「そう・・・かも知れない。というかまだしてなかったのか?」 「あのなぁ!オマエとは違うんだよ!女の子なんだもん。簡単に手ぇ出せるかよ。」 「ボクの時は随分簡単に手を出してくれたみたいだがな。」 「自分だって喜んでたくせに。」 「何をっ?」 「大体テメエからキスして来たんじゃねーかよ!」 「キミは女の子がキスしてきたらその場で押し倒すのかっ!」 「んなことしねえよ!だからオマエとは違うって言ってっだろう!」 「ケダモノのくせに女の子の前だけでは格好つけやがって!」 「ケダモノはどっちだ!オマエのやり方乱暴で痛てえってんだよ!」 「よく言う!前なんか指だけでイったくせに!」 「あれはオマエが・・・!」 と子どもみたいに真っ赤な顔で言い募りかけた進藤が、そこで止まった。 「・・・いやだから。今日はオマエと喧嘩するために呼んだんじゃねーんだって。」 「じゃあ何だ。」 どうせしたいんだろうと思いながら、意地悪く聞いてみる。 と同時に、今日はどっちの番だったっけ、と頭の中で記憶を辿った。 「まあそういう訳で、オレも童貞捨てられそうな予感なわけ。」 「童貞、ねえ。」 「ったく、いちいち。素直にオレが女の子と出来るの喜んでくれよ。」 「まあ、良かったな。」 「ああ!サンキュー!」 「あまり無茶するなよ。」 「そこ。」 「え?」 「そこなんだよ。今日頼みたいのは。」 進藤の目がきらきらと輝いている。 とてつもなくイヤな予感。 「オレ初めてじゃん?でも初めてだけど初めてじゃないじゃん?」 よく分からない文章だが分かってしまうのが悲しい。 「まあ初めてだったら上手く行かなくても仕方がないだろう。」 「じゃなくてー。変に上手かったら、いやだろ。」 「下手よりはいいんじゃないか?というかそんなことに拘るほど彼女は経験豊かなのか?」 「バカ!何言うんだよ!オレが初めて付き合った男だって言ってたから、 正真正銘のバージン!だぜ。」 頬を染めて照れくさそうに微笑んだ進藤を見て、ああ彼は凄く彼女が 好きなんだな、きっと素敵な女の子なんだろうな、と思った。 「・・・悔しいよ。」 「へ?」 「どうして彼女の前にいるのが、ボクじゃなくてキミなんだろう。」 「・・・オマエにも、その内キレイで優しい彼女が出来るよ。」 「う〜ん。それはそれで面倒だ。」 「どっちだよ!」 好きな女の子が出来たら嬉しい。その女の子もボクを好きになってくれたらもっと嬉しい。 させてくれたらもっともっと嬉しい。 ・・・でもそれに付随する面倒な手続きがイヤ。 などとかなり横着な事を考えていた訳だが、進藤はその面倒な手続きを 踏んできたのだろう。 それは碁以外にはあまり時間を使いたくないボクにとっては尊敬に値する。 美味しいところだけ見て羨ましがっても仕方のない事だ。 「だからな?とにかく失敗したくない訳よ。」 「まあそうだろうな。」 「だからオマエで予行演習させてくれ。」 「・・・・・・は?」 予行演習って・・・してきたと言えば散々してきたじゃないか。 「だからぁ。彼女になりきって最初からやって、上手すぎる所とかダメな所があったら 言って欲しいわけ。」 「断る。馬鹿らしい。」 「なんでぇ?オマエ彼女の身になってみろよ。人生で一度のロストバージンだぜ? 良い思い出にしてやりたいじゃんかよ!」 なんでボクがキミの彼女の身にならなきゃならないんだ。 でも・・・確かに最初の男がケダモノみたいに押し倒してきたら・・・嫌な思い出になるだろうな。 「頼む!この通り!」 「と言っても・・・順番通りに行けば今回はボクの番じゃないか。」 「あーもう。彼女と上手く行ったらいくらでもさせてやるから。」 「本当か?」 「男に二言はない!」 それが結構怪しいんだが。 結局ボクは不承不承頷いた。 「ええっとまず玄関から入る所な。」 「そこからか。」 「そう。『アンナ、ここがオレんち。』」 「彼女『アンナ』さんって言うのか。」 「それはいいから。」 「分かった。『まあ、進藤さんのお部屋って意外と片付いてるのね。』」 「アンナはそんな変なしゃべり方しない。それにオレの事ヒカルって呼ぶぜ。」 「注文が多いな。『ヒカルの部屋って意外と片付いてるのね。もっと汚い所想像してたわ。 とゆうか慌てて片付けたばかりでしょう。アナタの部屋がキレイな筈がない。』」 「んなこと言うかよ〜!やっぱりしゃべり方変だし。もっと砕けてて可愛いしゃべり方だって。」 「どんなんだよ。」 「『わー、ヒカルの部屋ってキレイ!アンナ見直しちゃったよ〜。』みたいな。」 「ああ・・・。」 「今『ややバカっぽい・・・』って続けようとしただろう。」 「キミ最近ボクの思考をヨむのが上手くなってきたね。」 「ちぇ。アンナは賢いんだぞ。『可愛い女』が出来るほど賢いの。」 「棋界にも馴染んできたらしい。物の見方が年寄りじみてきた。」 「うるせーよ。続き続き。『まあ上がってよ。』」 「『お邪魔しますぅ。』」 「キモいよ。」 「バカっぽいんだろう?」 「程度もんだろ?ってかバカじゃねえっての。」 「そんなことでいちいちひっかかってたら先に進まないんじゃないのか?」 「ああそうだな・・・『ええっと、取りあえず奥で座って。飲み物持ってくるから。』」 「『ありがとう。』」 「っていきなりベッドに座るか?」 「いやキミの部屋で座る所って言ったらベッドだろう。」 「オマエこの新品座布団が目に入らねーのかよ。」 「あ。ホントだ。でも、ベッドに座って貰った方がキミとしては都合よくないか?」 「ん〜、そりゃそうなんだけど、それってがっついてるみたいだし。」 「がっついてる癖に。」 「それに警戒されるだろ?オマエもっと初めて男の部屋に来たって感じで緊張しろよ。」 「緊張、ねえ。」 「そ!オマエは処女なの。初めて好きになった男にバージンを捧げる覚悟でこの部屋に来たの。」 「初めて付き合うからと言って初めて好きになった男とは・・・。」 「ぐだぐだうるせーよ!」 「帰っていいか?」 「ダメ!お願いします。若先生。」 全く進藤と居ると事が進まない。 いや進む事はえらいスピードで進むのだが。 この調子では明日のデートが上手く行くかどうか、ボクまでかなり心配になってきた。 「で。落ち着いた所で何を話せばいいんだ。」 「大体彼女の学校の話聞いたり、オレの手合いの話をしたり・・・。」 「学校と言っても海王の話しか知らないがいいか。」 「いや、いい。興味ねーし。」 「失礼な奴だな。」 「まあそれは終わったとして、明日のためにビデオ借りてきたんだ。」 「いきなりか。」 「違うって。映画だよ映画。ラブロマンス有りのサスペンス。」 「ベタだな。ボクは見たくないぞ。」 「雰囲気を盛り上げる為に必要なんだって。『面白い映画があるんだ。見ない?』」 「見たくないが・・・『わあ、見たい〜』。」 時間の無駄だ、と思いながら黙々と美人女優の出ているスパイ映画を見た。 だが、あまり映画を見たことがないせいか、その女優がセクシーだったせいか 意外にも結構面白かった。 「『ヒカル・・・私こんなに胸ない。』」 「勝手に決めるなよ。結構あるっての。『んなことねーよ。アンナの方がセクシーだと思う。』」 「『嘘ぉ。』」 「『ホントだよ。オレにとったら絶対この役アンナの方が似合う。』」 「『ヒカルってお世辞上手いね。でも嬉しい〜。』」 なんと馬鹿っぽい会話だろう。 しかし棒読みではあるがだんだんなりきってる所が自分でイヤだ。 「『お世辞じゃねーよ。』」 と言いながら進藤がやに下がってボクの肩に手を回す。 「上手いじゃないか。そこで押し倒すんじゃないのか?」 「まだ映画の途中じゃんかよ。それってルール違反。」 「そうかな。」 「ここ!」 「え?」 「ここで『きゃあっ』とか言ってオレに抱きつく!」 画面の中ではビルの上あたりで宙づりになったガラス板の上に ヒーローとヒロインと悪役が、乗っている。 「これは下が見えるだけにかなり怖いだろうな。」 「とか冷静に感想言ってる場合じゃなくて、怖がってオレに抱きつくの。」 「今時そんな女の子がいるだろうか。」 「いるとかいねえとかじゃなくて、オレの彼女がそうなんだから。」 「仕方ないな。」 ボクは形ばかり「きゃあ」と言って、進藤の首に抱きついた。 彼は「大丈夫だよ。」と言ってボクを抱き寄せる。 そりゃ大丈夫だろうよ。映画の中の話だし。 映画ではヒーローがガラス板の上でうろうろしていて、ヒロインが片方に ぶら下がっている。彼女を助けに行こうとすればガラスが傾き、 彼女が苦しくなる。 かといって反対側からは敵が攻撃してくる。 かなり手に汗握るシーンだった。 「『ヒ、ヒカル。これ一度見たんだろう?この後どうなるんだ。』」 「オマエ素になってるよ。」 「『この二人は助かるの?』」 「『オレも見てないから分からないよ。』」 「嘘吐けーっ!」 結局このあとすぐ二人は助かり、ラブラブなシーンで映画は終わった。 思わずホッとして抱き合ったままの進藤と顔を見合わせ、微笑む。 あ、こういうのが「いい雰囲気」って言うのかも。 「アンナ・・・。」 進藤が急に真顔になって、顔を近づけてきた。 アンナさんならこういう時どうするのだろう、と考えたが、考えるまでもなく 目を閉じるしかないような雰囲気だ。 上手い!進藤! 瞼を閉じると、そっと唇を触れてきた。 ボクにはしたことのないような優しいキスだ。 そのまま少し強く押しつけられるのにもどかしくなって少し舌を出すとパッと顔を離して 「アンナは自分から舌入れたりしないの!」 「あーそうですか。」 「で、どうだった?」 「うん。上手いと思った。いいタイミングだったよ。」 「よっしゃあ!じゃあ次。『ベッドに座ろうか・・・。』」 「『でも。』」 「いや、座ろうよ。」 「緊張してる処女なんだろ?ここが決断のしどころじゃないか。」 「ああ、そうか。んじゃ『大丈夫。優しくするから・・・。』」 「直截的だな。」 「どういう意味?ストレート過ぎるって事?」 「まあそうだ。」 「じゃあ『大丈夫。何もしないから・・・。』」 「嘘はいけないだろう。」 「じゃあどうすりゃいいんだよ。」 「やはり最初からベッドに座っておくべきなんじゃないだろうか。」 「でもなぁ・・・。」 「こんなに布団剥き出しじゃなくて、姑息だがソファ代わりに使ってますよ、といった ベッドカバーでも掛けておいたらいいんじゃないか?」 「ああなるほど!」 進藤はポン、と膝を打つと、後で買ってこなきゃと言いながらメモを取っていた。 −続く− ※すみませんね。相も変わらずな二人で。 さすが碁打ち。下準備に余念がありません。 私のには珍しく、というか初めて「続く」という終わり方。 |
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