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日々是盲日1 |
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進藤ヒカルという小僧を初めてこの部屋に連れて来たときは、 ホンの子どもじゃった。 ワシの言うことを疑う術も知らずやって来て、 抗って、 泣きながら、帰った。 最初は単に塔矢のガキを釣るまでの慰みのつもりじゃったが・・・。 こやつは面白い。 なぜなら、あれは二回目。 「いやだ!」 「なら前回の写真を、撒くぞ。」 「そんなことしたら、オレだってじいさんがした事、バラすよ。」 「フォッフォ・・。ワシくらいの年になるとな、怖い事なぞないんじゃよ。」 「・・・・・・。」 そうじゃ。前途長き少年よ。 お前さんには失う物が多すぎる。 下唇を噛んで、火の出そうな目で睨んできた。 子どもだけに許される、本気の殺意。 こたえられんわい。 その時ふ、と何もない背後を振り返ったかと思うと顔を戻し、 「じゃあ、じゃあ!オレと碁を打とう!」 「ほ?」 「もしオレが勝ったら、写真返して。んでこれから近づいて来ないで。」 「断る。」 「・・・・え?」 「お前さんとは、打たんと言ったのじゃよ。」 「・・・え、自信が、ないの?」 「フォッフォッフォッフォ。お前さんは今、狐憑きのような目をしておるからの。」 “狐とは何ですかー!!” 何か聞こえたようじゃが? まあ、いい。 逃げる足首を掴み、引きずり倒す。 急所を押さえてしまえば、後は何とでもなる。 ・・・今でもあの時打っておれば、 面白い棋譜になったのではないかと思ってしまう。 瞬間的にではあるが、年端もゆかぬ子どもに、ワシともあろう者が 恐れを成した。 それ以来、棋士としても小僧に一目置くようになった。 あやつは恐らくワシの所で精通を迎えたのではないじゃろうか。 油まみれにして、道具で責めると、 若木のようにしなやかな背を仰け反らせ。 腹に付きそうな棹の先を剥き出してやると 悲鳴を上げて、精を放った。 若い、精。 荒い息の下、呆然と自分の腹を見る。 潤んだ瞳、血の上った頬。 それまでは特に容姿に関心はなかったが、 その時ばかりは「紅顔の美少年」という言葉が浮かんだ。 小僧自身の指に手を添えて臍の辺りに散った粘液を掬わせる。 ちろりと舐めると 激しい嫌悪に、一抹の恐怖を混ぜ合わせた顔を引きつらせた。 その珍しい表情が面白うて更にねっとりと指を口に含んでやると 目を閉じて顔を背ける。 その白い瞼が、痙攣しておるのが堪らなんだ。 次からは、高まってくると必ず「見るな!」と叫ぶようになった。 勿論、見るためにコウしておるのじゃから、耳に入れるつもりはない。 じゃが、それは何処かうわごとのような、 ワシに向かって言っているのではないような そんな気がした。 進藤が14の初夏であったろうか。 あやつは人生に、躓いておった。 何があったのかは知らない。 傍目には意味のない不戦敗が積み重なる日々。 じゃが、呼び出せばあっさりとやってきた。 表情も変えず、言葉も発せず、力も入れず、 言われるがままに、淡々と服を脱ぐ。 どんなに痛いことをしても恥ずかしい格好をさせても、動じない竹夫人。 今日は、どこを舐めさせて貰うか・・・。 その時 「ジジイ、足舐めろ。」 ジ、ジジイ? 進藤は、すっかり変わっておった。 そしてワシも。 嬉々として、塩の味のする少年の足の指を一本一本丁寧にねぶる・・・。 進藤はその日から「見るな」と言わなくなった。 ある日棋院で、久々に塔矢の倅に出会った。 やはり美しい。 完璧に形成された礼儀正しい仮面、よどみない仕草。 しかしどうしてもその奥に生来の気の強さや傲慢さが見え隠れする。 塔矢城の高慢な若君。 進藤よりももっと御しがいがあるに違いない。 こやつの手足をあらぬ方向に向けて縛り付ければ。 一寸刻みに、服を切り裂けば。 どんな表情をするじゃろう。 「・・・・いえ、まだまだ。」 「フォッフォッフォ、お前さんは謙虚すぎるくらいじゃのう。」 その時、 「よお、塔・・・。!桑原先生・・・。」 「進藤。」 「おう、おぬしも来ておったのか。」 「はい。こんにちは・・・。」 外で出会ったときはあの部屋での事はないこと、じゃのに、 今日の小僧には余裕がない。 原因は・・・塔矢の倅か? 面白い。 「進藤クン。お前さんが前に見たがっておった棋譜が届いた。 この後ワシの家に来るがよい。」 「え、棋譜って・・・。あ、ああ。でも、今日は予定が、」 「進藤。折角先生が声を掛けて下さったんだから、行けよ。 僕ならまた予定を空けるから。」 「ジジイ!なんだよ棋譜って!」 部屋に入ると早速わめく。 「お前がアキラと仲良くしておるようじゃからな、ちょっとしたじぇらしぃじゃよ。」 「けっ。気色悪いこと言うなよ。そんなら何でオレを縛り付けるようなこと、」 「フォッフォ。違うわい。嫉妬しておるのはアキラにではなく、お前にじゃよ。」 「え?」 「あやつは若くて、美しくて、強いのお。」 「まさか。」 「もう力尽く、というわけにはいかん年じゃが、何、薬でも使えば何とかなる。」 「おい!」 「嬉しいじゃろう?自分と同じ境遇の仲間が増えれば。」 「やめろよ!そんな事したらいくらアンタでもタダじゃすまねーぞ。」 「ほう、この老いぼれを心配してくれるのかね。」 「塔矢は、オレと違って泣き寝入りするようなタイプじゃない。」 「お前さんも泣き寝入りなぞしておらぬじゃろうに。」 進藤はハン、と唇を歪めて嗤い、古いソファにどっかと腰掛けて、足を組む。 窓からの光線が宙に舞った大量の埃を光らせる。 「おい、靴下。」 足を揺らせる小僧の前に膝を突き、うやうやしくスリッパを脱がせた。 ズボンの裾を少しまくり上げると、まだ毛の生えそろわぬ青白いすねが覗き、 ワシはいつも額を押しつけたい衝動に駆られる・・・。 そして、そして、柔らかい肌を締め付け、少し縊らせている紺色のゴムを ゆっくりと引き下ろせば。 張りのある、すねを彩る、赤くて細い縦縞・・・!! ここを、指でさすってやると、いつも気持ちよさそうにする。 ここだけが、人間の肌とは思えぬようなガタガタとした幾何学的な抵抗の 感触をワシも楽しまずにはおられない。 ワシを眩惑する黄金の足を持った奴隷。 じゃが、既に主人は一体どちらなのやら。 このカモシカは夏になれば。 夏になれば、またあの魅惑的な半ズボンを履いてくれるじゃろうか・・・。 −了− |
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