まだ物語は始まらない 3
まだ物語は始まらない 3








デスノートの物語と、その中に登場する未来の自分。

Lは「キラ」と呼んだが、正直、彼の考え方に共感する自分がいる。

実際、自分が本物の殺人ノートを手にしたとしても
キラと同じように動くかどうかは分からない。
が、僕以外が「キラの裁き」をしたとしたら、彼を止めたいとは
思わないかも知れない。

FBIなど、無関係な人間を殺したのも、自分を守るためというよりは、
デスノートとその使い手を守る為……ひいては、世界の秩序を守る為……。


「で、父に殺されそうになっても尻尾を出さなかったんだから、
 僕……未来の僕の疑いは晴れたんだな?」

「いえ、まだです。が、捜査協力をして貰う事になりました。
 私と手錠で繋がって」

「動きにくそうだね」

「鎖が長かったから大丈夫です。
 バスもトイレもベッドも一緒です。どうします?キラとして」

「ええっ!トイレもベッドも?キラじゃなくても困る」

「でも、あなたは監禁生活がよほど堪えたんでしょうね、
 唯々諾々と従ってくれました」


う〜ん、こういう頭の体操は初めてだ。
一般的には相手の心理を読んで、相手が求めている答えを
提出すれば良いのけれど……。

Lの場合、それが通用しない。
僕の深層意識を覗き込んで、本当に僕が取るであろう行動でないと
納得しなかった。

こいつら、どこまで僕を知っているんだ。
気持ち悪く思う反面……それが不可能だと理解してもいた。

僕が子どもの頃から二十四時間監視し続けたとしても
これ程僕を知り尽くすことは絶対に出来ない。

認めたくないが……どうもこいつらは、本当に未来からやってきたとしか
思えなくなってきた。

最初は幽霊だと思ったんだ……こういうのも、アリだろう。
と、自分を慰めながら、今までより少し真剣に考える。


「確かに……そんなに長期間監禁された後なら、男と同じベッドで寝るくらい
 たいした事じゃないだろうな」

「はい。それも監禁の狙いですから」

「僕と寝たかったの?」

「言葉のアヤです夜神くん」


彼らが本当に未来から来ていて、僕が本当に将来キラになるとするなら。


「おまえの話の感じからすると、その時の僕は
 キラの記憶を持っているとは思えないな」

「そうなんですよね。それが、最後まで悩まされたノートの所有権です」

「所有権……さっき、『捨てる』と言えとか言っていたやつか」

「さすがですね」

「ノートを捨てると言えば、所有権と……記憶を失う。
 記憶を失う前の僕は、記憶を失った僕が、おまえと共にキラを探し、
 デスノートと記憶を取り戻せるように仕組んでいた……」

「はい正解」


正解、と言われても自分の行動だし納得できないが。

僕は基本的に卑劣な事はしない。
実力で十分に勝てるからだ。

だが、是が非でも勝ちたい戦いなら……
その相手が、僕と同等かそれ以上の頭脳を持ち、僕を挑発する相手なら。

本気になった僕なら、それくらいするだろう。
実際、Lがキラを絞り込んだという方法は、僕なら引っかからない、とは
言い切れない物だった。

生まれて初めて好敵手を得て。
僕は、未来の僕は楽しかったんじゃ無いだろうか……
そんな事を思った。


「で。どうやって僕は記憶を取り戻したんだ?」

「恐らく、デスノートに再び触れた時です」

「方法は?」

「その、あなたがデスノートを託した相手は火口と言うんですが、
 彼を捕縛した時です。その詳細はまた後ほど」

「そうか……その火口をキラとして確保したなら、僕の疑いは晴れるよな?」

「はい。あなたを解放せざるを得ませんでした」


Lが、心底嫌そうに言う。
本当は、僕がキラじゃないなんて一ミリも思っていなかったのだろう。


「で。どうやって本名が分からないおまえを殺すんだ?」

「それは……『この私』はまだ殺されていないので憶測に過ぎませんが、
 死神に手伝って貰うとしか」

「何だそのオチ」

「そこから先は私が話すです」


しばらく黙っていたニアが、口を開いた。


「あー、簡単で良いよ。結論だけ」

「おまえ、Lを殺したます。そのせいで世界はキラだらけになったますが
 私おまえを追い込んで……追い詰めて?」

「どちらでも良い」

「おまえ=キラだという証拠を突き付けたら
 死神おまえ殺したます」

「もう一度言うけど、何だそのオチ」


う〜ん、作り話だとしたら、設定や導入は面白いが
結末が酷いな。
という事は、逆に作り話ではないのだろう……。


「このまま行けば、おまえそういう酷い末路です」

「でも、それを聞いた僕なら、もっと上手くやるかも知れないな」

「あなたは、キラになると、認めますか?」

「そうだな……可能性は、否定できない」


いや、警察も、自称かも知れないが世界一の探偵をも欺き、
公正な裁きを出来るとしたら、僕をおいて他にないだろう。


「このまま我々がデスノートを持って行ってしまったら?」

「別に……このまま、日常を続けていくんだろうね。
 っていうかそうしたら?」

「今、このノートの所有権はあなたが持っています。
 所有権があってノートがなくなった場合、新しいノートが配給されないとも
 限らないので、出来れば、放棄して貰ってから破棄したいんですが」


ふうん……。
それはそれで、面白いかも知れない、と思ってしまう自分がいる。
デスノートと、失敗した未来の情報を持つ僕。
その事を知っている、二人の探偵。

ニアの言っていた最悪な未来ではなく、もっと面白いシナリオが
描けるかも知れない。


「で。どうして未来からやってくる事になったわけ?
 君たち二人の『本来の時間』には相当時差があるよな?」

「事件後、死神、私の所戻ってきてショボンしたます。
 デスノートの存在、人間世界でメジャーになって、死神kingに怒られるた」

「ああ、まあ、望ましくないかもね」

「死神、私に、過去に戻っておまえデスノートを取得する前に
 取り戻せ頼むます」

「という事は、元の世界では、おまえは突然消えた訳?
 周りは混乱してない?」

「私消える、世界も消える、私戻る、世界も戻る」

「ふーん、よく分からないけど」


そうか……この二人は、元の世界に戻っていなくなってしまうのか。
まあ、過去や未来からの使者モノの定番だけど。


「で、私、運動自信ないです。失敗したら困るので、途中でLを拾……いますた」

「驚きましたよ。
 解放したあなたが、私を監視しているのを不審に思ってトイレに逃げたら
 ニアがいたんですから」

「Lに説明して、死神のデスノートこの世に落とした時に一緒に来たです。
 逆算したらLもおまえに殺すられる直前」

「じゃあ、用事が終わって元の時間に戻ったら、Lは死ぬのか?」


思わずLを振り返ったが、Lはなくなったパンダのマーチの袋を逆さにして


「分かりません。運命が変わって死なないかも知れませんし」


一旦言葉を切ってあおる。
そして、粉を口の中に落としてから、


「死ぬかも知れません。が、構いません」


本当に事も無げに言った。


「で、どうしますか?夜神くん。
 あなたから強引にデスノートを取り上げても良いですが、あくまでも
 自分の意思で捨てることに、意味があると私は考えます」


今度は真正面から、僕の顔を見つめる。
ニアも、僕を見つめていた。


「あなたは、どうしてデスノートを使おうと思ったんでしょうね?」

「それは……」


世界を少しでも良く出来る手段が手の内に入ったら、
使ってみたくなるだろう?誰でも。


「いいえ。きっと多くの人は、自分の利益の為に使います。
 自分を苛めている奴、気に入らない上司、その他邪魔になる人間を
 消そうとするでしょう」

「僕にはそんな人間いないよ。
 いたとしても、そんな詰まらない事にせっかくのノートを使わない」

「詰まらない?」

「だってそうだろ?そんな利己的でちっぽけな欲望」

「ああ……分かりました」

「何が?」

「あなたが、デスノートを使い、キラになった本当の理由」

「……」


何だよ、と不機嫌に呟けば、二人は顔を見合わせる。
そしてこちらに向き直って、



「「「退屈」」」



僕も言ったのと、全く同じ言葉を二人が発したので
期せず三人で唱和した形になってしまった。


「何だ、夜神くん自身も分かってたんじゃないですか」

「この世、退屈、ないです。おまえ、この世界のLを探してこの話しますと良い、
 Lきっと信じます。おまえ雇ってくれるます」

「そうかな……」


だが実際、突然現れたニアの話を鵜呑みにして時間旅行に付き合った男だ。
僕の話を信じるかどうかはともかくとして、少なくとも面白いとは
思ってくれるのだろう。


「分かった……では、この世界のLに会える日を楽しみにして」


言うと、Lもニアも、力強く頷いた。



「僕は、デスノートを、捨てる」



言うと共に、コンクリートのテーブルの上に置かれたデスノートに、
ニアが火を付ける。
普通の紙のように端から焦げ、湿気が飛んだ所に火が燃え移り、
煙を出しながらどんどん端から燃え広がっていった。


「やっぱり、ちょっと不味かったかな」

「まだそんな事言ってるんですか?夜神くん」

「じゃなくて。条例で、屋外での焚き火は禁止されてるんだよね。
 ここ住宅街だし、結構煙出てるからもう通報されてるかも」


Lは目を見開き、デスノートが灰になったのを確認して
ニアの手を引いて全速力で逃げていった。

別れの挨拶くらい、していけば良いのに。

と思いながら、僕も早足にその場を去った。






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