まだ物語は始まらない 2 人に絶対聞かれてはならない話だと言うので、公園の、 見晴らしの良い東屋に入る。 隈の男は、ベンチの上に乗ってしゃがみ、僕が買ってやった パンダのマーチを指で摘んで嬉しそうに食べていた。 どうやら、二人とも本当に人間らしい。 「まず、私は、Lです」 「ああそう。何が?」 「……Largeではなく名前が、Lです」 「本名は?」 「言えません。Lって、知りませんか?」 「知らないよ。何か有名なの?」 また隈の男……Lとニアは感慨深げに顔を見合わせる。 最初はニアの方が目立ったが、コイツもなかなかに濃いな。 「一部では有名だと思いますが……ああ、お父さんには 言わないで下さいね?」 「言わないよ」 「私の名前は竜崎、としておいて下さい」 「それが本名なんだな?」 「違います」 「……」 なんだか、疲れるな。 多分コイツは、頭に何か障害があるのだろう。 菓子を買ってやってまで、付き合った自分の酔狂を 少し恨みたくなった。 「まず……二回も言ったのでもうお察しでしょうが、私達は未来から来ました」 「そう言いたいんだろうな、というのは察してたよ」 「本当ですヤガミ。嘘だない……?嘘にない?」 「嘘じゃない、だよ」 「日本語の助詞嫌いです。vague。ぼんやり」 「曖昧、ね」 話が進まない。 ニアには少し黙っていて欲しい。 「それでは、まずデスノートを見て下さい」 「その黒いノートだな?」 受け取って開いてみると、中は普通の大学ノートで 表紙の裏に英語が書いてあった。 ロゴも見づらいし面倒だな……という程でもないか。 「ええと、『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』……っふ」 思わず、つい吹いてしまった。 よく見れば中学英語だし……いじめられっ子が腹いせに こんな妄想ノートでも作ったのか。 書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。 ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。 名前の後に人間界単位で 40 秒以内に死因を書くと、その通りになる。 死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。 死因を書くと更に 6 分 40 秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。 「へえ。中々よく考えてあるじゃないか。 最初の一項目だけで終わっていない所が良い」 「で、夜神くんはそれを見てどう思いましたか?」 「子どもの悪戯だね」 「その他には?」 「おまえ達の、悪戯」 「何のために?」 「妨害工作。悪いけど、今から受験まで全く勉強が手に着かなくても、 東大に合格は出来るよ。首席が取れるかどうかは分からないけど」 「なるほど……やはりそう思いますか。 私があなたの立場だったとしても、同じ事を思います」 という事は、違うと言いたいのか? このLと言う男は、意外と頭が切れるのだろうか。 さっきは障害かとも思ったが、とにかく今まで出会ったバカとは 少し違う気配がする…… 「それでは、このまま我々と別れてノートを持って帰ったとして…… その後、どう行動しますか?」 「さあ……。勿体ないから普通にノートか計算用紙として使うかな。 試験が終わったら暇つぶしに試してみるかも。 どうしてそんな事を知りたいんだ?」 「我々、とても興味あるます。おまえデスノートがどうやって手に入れ、 どうやって使うになるますか」 ニアの助詞を訂正したくてむずむずしたが、抑えた。 「見てただろ?落ちてたのを拾ったんだ」 「それも含めて、知りたかったんですよ、夜神くん。 私達は、あなたにとても興味があります」 「だから、どこで僕を知ったんだよ。 成績かIQテストの結果が外部に漏れているなら個人情報保護法に」 「ですから、未来で知ったんですよ」 思わず、大きくため息を吐いてしまう。 先方がこうやってはぐらかし、何が目的なのか話してくれないと 話が進まない。 また、進める必要もないように思った。 「ああ、そう」 「始まりから説明するます。おまえは、未来でこのLを殺すます」 「……は?」 「ニア……全然始めからじゃないですよ。 夜神くん。我々は、探偵です。自分で言うのも何ですが、世界一の探偵です」 「はぁ……」 また変な設定が出てきた……。 未来だとか世界一の探偵だとか。 世界一って何だよ。どうやって計ったんだよ、と突っ込みたくなったが 話がややこしくなりそうなので思いとどまる。 「で、どうしてこの僕が、世界一の探偵を殺す訳?」 「それは……」 Lが語り出した長い物語は、荒唐無稽だったが、 非常に面白いものだった。 この僕が、デスノートを使って法で裁かれない犯罪者を殺していくとは……
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