天気予報は晴れ 2 雨はますます激しい。 濡れそぼった髪が、肌にべったりと貼り付いたシャツが、気持ち悪い。 LのTシャツも、肌に貼り付いて……寒さに硬くなった乳首が 僅かに透けて見えていた。 なのにLは、中に入ろうと言わない。 僕も、言わない。 最初は手錠で繋がれていた時の癖で一緒に居たが、今更「中に入ろう」と 自分から言い出すのは何か負けなような気がした。 「まあ、仮に、という前提で聞いて欲しいんですが」 Lは、まるで雨など降っていないかのようにのんびりと話を続ける。 その前髪から垂れた水が、鼻柱で二つの筋に別れて流れていた。 「私、あなたが意図的にキラの記憶を失ったのだと考えています」 「……」 「あなたは、ある時期まで間違いなくキラだった。 ある時突然その記憶だけを失い、私に協力してヨツバキラを追い詰めた……」 「……」 雨のカーテンを、ありがたく思う。 晴れ間にこんなに至近距離で見られたら、微かな動揺ですら 見抜かれてしまうかも知れない。 「そんな、キラに関する事だけ忘れるなんて、都合の良い記憶喪失があるもんか」 「ノートに名前を書くだけで人が殺せるなんて、そんな都合の良い事あるもんか」 「……」 「と、私今でも思ってますよ?」 とぼけた顔で人の口真似をするのにまた苛々した。 「でも、事実じゃないか」 「はい。ですから、都合の良い記憶喪失というのもあり得る、と」 「馬鹿馬鹿しい」 肩を竦めながらも、内心冷やりとする。 当てずっぽうだろうが、当たっている……。 だがもう、この期に及んでLの推理を矯正する必要はなかった。 「まあ私の言う事なんて嘘ばかりですから、洒落と思って聞いて下さい」 「……いいけど」 Lの推理がどれほど当たっていようが、僕が認めなければ それはこの雨と一緒に流れ、消え去ってしまう物なのだから。 「キラの記憶がないあなたとの生活は、結果的に無為ではありましたが 私個人としてはそれなりに実のある物でした」 「……」 「生まれて初めて、人と……その、深く関わる事が出来ましたし」 「……」 ……そう。 おまえにとっては、「実のある」程度の事か。 良かったね、その相手が僕で。 おまえが死ぬほど求めた、キラで。 だが、キラにとっては。 絶対に許せない、消し去らなければならない過去だ。 「でも、私は実は、キラの記憶がない夜神月くんに、苛立ってもいました」 「……どうして?」 「キラじゃないから」 「おまえね」 「夜中にあなたの寝顔を眺めながら、いつも考えていました。 キラをどこに隠した、キラを返せ、と言いながら首を絞めてみたいと」 「……」 思わず首に手を遣る。 全然気づかなかった……。 顎から滴った水が、手の甲にぽたぽたと落ちる。 「危ない奴だな」 「それくらい私は、キラに焦がれていたんですよ」 「……」 「キラを隠す、夜神くんに殺意を抱いてしまう程に」 「みっともなく嫉妬に狂った、女みたいだ」 ……言った瞬間、ふと既視感を覚えた。 それと同時に、脳裏に浮かぶ景色。 鼻を突く、噎せ返るような草いきれ。 目を閉じれば鮮明に思い浮かぶ、暗く不気味な山道。 篠つく雨。 濡れた落ち葉を踏む自分の足音と、自分の荒い息と、耳に響き渡る鼓動と。 ぱちぱちと爆ぜる松明の音がうるさい。 でもこの雨だ、走るのを止めればこの炎は消える。 ……違う。火を消さない為に走っているんじゃない、 背後から、半身人間、半身蛇の妖怪が、どんどん迫っているんだ。 その目は赤く光り、息は燃えるように熱く…… ……竜崎!
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