紫 8 結局それから更に一週間拗ねた後、夜神は自分から私に連絡を寄越した。 『会ってしたい話がある』 『分かりました。明日の十六時以降は自宅に居ます』 以前より少しシンプルなメールを遣り取りした翌日、 夜神は私を訪ねてきた。 「少しお久しぶりですね。どうぞ」 あんな出来事があった部屋に、怖じずに入ってくる。 そんな所がいじらしいと思う。 だがその顔は強張っていた。 少し迷った後、他に座る場所がないのでベッドに腰掛ける。 「……僕が話したい事、分かるな?」 「はあ。まあ」 「三週間前……どうして、あんな事をしたんだ」 中学生の、精一杯の虚勢、精一杯の低い声。 それが逆に、私を煽るとも知らずに。 「我慢が出来なくなって」 「……」 私が何か詭弁を弄すると思っていたのだろうか、 単純な答えに意表を突かれたように、眉を開く。 「気持ちを伝える前にあんな事をして申し訳ありませんでした。 愛しています」 「……」 少年は何か言いそうに口を開けた後、やはり閉じて、ごくりと喉を鳴らした。 「知りませんでした?」 「……いや、あの。……本気?」 「はい」 「その……お兄さんは、ホモって言うか……」 「違いますが、あなただけは特別です」 それを聞いた瞬間、少年の耳が真っ赤に染まった。 「そんな事。言われても困る……」 「はい。ですから返事はいつでも良いですよ」 「……それに、僕はまだ十三だ」 「分かっています。仮に合意の上の行為だとしても、犯罪ですね」 いつかのように、手首を合わせて突き出すと 少年は反射的にその手を伸ばし、気づいたように息を呑んでぱっと引いた。 「それでも、あなたはまたこの部屋に来てくれた。一人で。 期待してしまうのは、間違いですか?」 そう言いながら少し距離を詰めたが、少年は逃げなかった。 「あなたは以前、こんなに話が合う人は初めてだと言ってくれましたが 私にとってのあなたもそうです」 ベッドに乗り上げ、体温が感じられるほど近づいて。 「愛しています」 指一本触れず、極限まで近づいて耳に囁きかけると、 少年はびくん、と震えて振り向いた。 髪の毛先が私の頬を打つ。 焦点が合わないほどの至近距離。 「返事はいつでも良い」と言いながらこれは、我ながら卑怯だな。 だが私が動かないと、少年は身体を揺らしたついでのように その唇で私の唇を掠めた。 私は「微笑」の表情を作り、ゆっくりと押し倒す。 「……痛い事は、嫌なんだ」 「気持ちいい事なら良いんですね?」 少年の答えを聞かず、頤や首筋に何度も唇を付けながら 少しづつ着衣を剥いだ。 時間を掛けて青い性器を嬲り、時間を掛けて後ろをほぐすと、 少年の身体は易々と私を受け入れ、今度は射精と共に、失神した。 その少し後、私は東応大学に入学し、少年は中学二年生になった。 この頃はもう、妹も自宅で少年を見かけても何も言わない。 「心配だな」 いつも通りの事後、ベッドで裸のまま転がった少年が、突然口を尖らせた。 「何がですか?」 「高校はまだ中学の延長だろうって思うけどさ。 大学生活って想像の範疇外だから」 「サークルにでも入らなければ、地味なものですよ」 「でも。新入生挨拶をしただろう? 全国一の頭脳だって公式に発表されたようなものだからな。 色んな人に興味持たれるんじゃない?玉の輿狙いの女性とか」 「さあ。身近には居ませんね。 それより、新入生挨拶をしたらモテるというのは、自分の経験ですか?」 「嫉妬してる振りなんか、しなくて良いよ」 嘘笑いだと、目で表明しながらの微笑。 彼は数ヶ月で私の影響を受け、私に似てきた。 心の中でほくそ笑む。 「中学生の男なんか詰まらないんじゃないか、相手にされなくなるんじゃないかって いつもどきどきしてる」 「そんな訳ないじゃないですか。あなたはそこいらの中学生じゃないんですから」 白々しい口説も、少しの真実を混ぜるから本当らしく聞こえる。 少年は今度は本当に嬉しげに微笑んだ。 「実際、いつもこんな事をしていて勉強に身を入れている風でもないのに 全国一位の成績を保ち続けている」 その腰を引き寄せ、尻を撫でると太ももに当たる物がみるみる 硬くなって行った。 「ああ、それね……」 先程出したばかりなのに、答える息は既に熱く。 少年の身体は私の手が、身体が教える感覚を貪欲に吸収し、 淫らに花開いていた。 ……夜神も、こんな身体だったのだろうか……。 私も前世でも現世でも記憶にない程の快楽を知った。 彼と手錠で繋がれて生活していた頃、もしこんな事を知っていたら 危なかったな……。 そんな事を思いながら、目の前の白い身体に溺れた。
|