紫 9
紫 9








夏が近づくにつれ、少年の不安は増して行った。
ある時は、私のベッドの上で長い間膝を抱えて座っていた。


「勉強疲れですか?」

「そんなものに縁はないよ。分かるだろう?」


まあ……あの周囲から浮き上がったような居心地の悪さ以外は
特に覚えがないが。


「ではどうしました?」

「……このまま、いつまで居られるのかと思って」


珍しく感傷的な事を言う。


「自分でもくどいと思うけれど、大学生と中学生って差がありすぎて
 心配だよ」

「再来年には大学生と高校生ですよ」

「そんな問題じゃない」


少年は腕を解き、出会った頃よりも長くなった足を伸ばした。
もうすぐ、夜神くらいになるだろう。


「分かってる。問題は、お兄さんに依存し過ぎている自分だ」

「依存……してますかね?」

「してるね。いつか会えなくなったらと思うと、気が狂いそうになる」

「……」

「僕は自分が孤独だなんて知らなかったんだ。
 お兄さんと会って、自分と対等に話が出来る人間がいるって知って。
 もう、あの頃には戻れない」

「中二全開の台詞ですね」

「またそうやってバカにする」

「してません。……そうですね、そう言って貰って私も嬉しいです」

「本当に?」


少年は疑り深そうに言ったが、その目が輝いているのは隠せない。


「本当です。約束しましょう。私は一生あなたの側に居ます」

「……」

「あなたがそうしてくれるなら、私も他に恋人を作らないし結婚もしない。
 何なら、手を手錠で繋げて生活しましょうか?」

「いいねそれ」


少年はそう言って、私の首に抱きついてきた。

その勢いで押し倒し、濡らした場所に押し入ると「ああっ、」と切なげな声を上げた。
この数ヶ月で、随分感じやすくなっている。

少年の足が私の腰に巻き付き、かくかくと揺らすのに私も刺激されて
その尻を抱え、本格的に動き始めた。


「い……やぁっ」

「嫌、ですか?」

「じゃ、ない……もっと、もっと!」


恥じらいと、欲望、その現し方のバランスも、好み通りだ。


「くうっ、いい……だめ、だめだ、もうイッちゃう……」

「良いですよ」

「あ……ああっ、い、行く……りゅう、」

「!」


私が思わず動きを止めると、少年は身を捩って切ながった。


「止めないで!お兄さん、」

「……今、何と言いました?」

「ああ?」

「『りゅう』って何ですか?」

「……?何だろう。ねえ、そんな事より、」


……とぼけなかったのだから、後で問い詰めれば良いか。
全力でしがみつかれ、背中に爪を立てられて、私は腰の動きを
再開せずにいられなかった。




「ああ……良かった。また、飛んじゃうかと思った」


二回ほど行為を連続し、汗だくでシーツの上に横たわった少年にティッシュを渡す。
満足げに微笑みながら、悪戯っぽく笑った。


「さすがに疲れた?」

「年寄り扱いしないで下さい」


無表情に言うと、少年は私の臑の毛を軽く引っ張った。


「所でさっき、私に『りゅう』と呼びかけましたよね?」

「ああ、あれか……何だろう。りゅう……が?ひでき?」


自分で言って自分で笑い出した。


「はははっ!どうしてだろう、何故かお兄さんが、流河旱樹っぽい
 名前みたいな気がした」

「何でしょうね。似ていないのに」

「そうなんだよな。
 僕の深層心理の中では流河旱樹並に男前に見えてるとか?」

「見えてます?」

「ません」


少年は私の口調を真似して、また笑う。
笑いながら何気ない様子で続けた。


「『前世の記憶』かな?」


私は驚きを顔に出さないように必死だった。


「……前世?」

「うん。信じて貰わなくて良いんだけど僕、勉強に関してもそれ以外でも、
 知らない筈の事をよく知ってたりするんだよね」

「ほう」

「それもあって勉強時間が少なくて済む、というのもある」

「……」

「事実と符号するから、既視感じゃないんだよな。
 そういうのをまとめて僕は、『前世の記憶』って呼んでるんだ。
 本当に転生とか信じてる訳じゃないけど」


……成る程。
私は自分だけが前世の記憶があると思っていたが、そうでもない訳だ。

というか私だって、十五の誕生日までは知らない筈の知識が沢山ある、
という程度の認識だったじゃないか。



彼をこのまま育て、私好みの男にしてやろうと思ったが。

「キラ」の記憶を取り戻したとしたら、それはそれで面白い。

私が彼が夜神だとすぐに気づいたように、彼にも私がLだと分かるだろう。
記憶を取り戻してから夜神に出会った私よりも、
関係が出来てから記憶を取り戻す夜神の方が精神的にきついに違いない。


その時夜神は、何を思うだろう?


これも運命だと、素直に受け入れるだろうか。

あるいはLに抱かれ、溺れた屈辱にまみれてのたうち回るだろうか。

それとも自分が崇拝していた「L」を殺した犯人であった記憶に苛まれ、
錯乱するだろうか。

自分が愛した人間を過去に殺したという事実に、その精神を崩壊させるだろうか。

私が言った言葉……「手錠」や「友だち」の意味に気づき、
自らを守る為に、私を排除しようとするだろうか。


いずれにせよ、面白い事になるのは間違いないだろう。



「愛してますよ、ライトくん」

「最初もその名前で呼んだよな?何それ」

「さあ……何となく、あなたがそんな名前だった気がして。
 『前世の記憶』ですかね?」

「真似するなよ。本当は初恋の人とかじゃないの?」

「そんな物かも知れませんが……そうですね、あなたが十五になったら
 全部教えてあげます」

「何。R15な思い出なわけ?」



……解けがたき御けしき、いとどらうたげなり

   (拗ねて頑ななご様子が、非常に可愛らしい)



彼が十五になった時の事を思うとぞくぞくして、私は骨が折れる程強く
少年を抱きしめた。





ニアには夜神の生まれ変わりと出会った話はしてある。
久々のスカイプで、夜神が十五になった時に前世の記憶を取り戻す可能性が
ある事を伝えると、何だか嬉しそうだった。


『所であの事、ご家族に伝えてくれました?』

「はい。乗り気のようですよ」


妹が、一番になれないと悩んでいると言うと、
日本で一番になれなくても、イギリスに来れば多分なれる、
高校から留学してはどうかと勧められていたのだ。


『そうですか。では是非こちらでお世話させて下さい』

「ありがとうございます」

『ワイミーズハウスに下宿して、ここから通うと良いですよ』

「現世では他人ですし。あまり面倒を掛ける訳にも行きませんけどね」


言うと、ニアはニヤリと笑った。


『いえ。大丈夫です。学費も生活費も一切こちらで持ちましょう』

「……はい?」

『“あしながおじさん”ですよ。
 私、このまま結婚する予定もありませんし、養女でも取ろうかと
 思っていたんですよ』

「……」

『素質のある女の子を、完全に自分好みの女性に育て上げるなんて
 ロマンがありますよね……ねぇ、L?』

「……」



勿論夜神と付き合っている事など言ってはいないが。
私の行動を調べ、その上で私の思考を読んだ、か。

それなりに可愛いと思っている妹を、留学への期待に胸躍らせている妹を、
このままイギリスにやって良い物かどうか、考えると頭が痛くなった。





--了--





※リクのボツです。
 リクエスト内容は、また本リクアップ後に。(リク主さんご了解済み)

 追記。リクエスト内容は、

L月で、
原作が前世で、
Lも月も一般人として、デスノートのない世界で生まれ替わっているという設定で
お願いします!Lは前世の記憶ありで!
他のデスノキャラもできれば出してほしいですv

でした。
転生物を書いたのは初めですが、面白かったです!
この「紫」も、OKを頂いた「戦場の記憶」も、自分では多分
思いつかなかったし書かなかったので良い機会を頂きました。

ありがとうございました!





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