紫 5
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他人に上手く取り入り、上手く利用出来るのが夜神の私より
優れた点だったと思う。

私は、愛想笑いを浮かべる位ならいくら金を積んででも
事務的に仕事を頼みたいタイプだし、自ら他人と関わろうなどとは
一切思わなかった。

だが夜神は人脈を作るのも上手かった。
まあ、あの容姿と能力だ、他人も放っておかなかったのだろうが。


「げー!なんでおまえが居んだよ!」

「あらあら。せっかくボーイフレンドが来てくれたのに」

「違げーし!」


数日後、家のリビングでお茶を飲んでいる少年を見て、
後から帰ってきた妹が毛を逆立てた。
母は美少年の訪問に浮かれているし、妹と同じ中学なのだから
当然妹の連れだと思っている。

どたどたと階段を上がっていった妹に、困ったように眉を寄せた。


「ごめんなさいねぇ。あの子ったら」

「いいえ」

「今日は私が勉強を見る事になっているんです。
 上に上がりましょうか」


促すと、少年はまたあの完璧な、完璧故に胡散臭い笑顔で母に会釈し、
着いて来た。




「さて。特に今更、勉強で分からない所もないですよね?」

「ああ、うん」

「何のお話をしましょう」


少年はベッドに腰掛け、部屋を見回した。


「良い部屋だね」

「そうですか」

「それに、良い家族だ」

「そうでしょうか?」


そう言えば、この夜神の家族は、祖父だけだったか。


「うん。良いお母さんだし。妹さんも、ちょっと気が強いけど良い子だよ」

「ですね。あなたには差し上げませんが」

「彼女とはそんなんじゃないよ」


少年は妙に大人びた笑顔を浮かべ、小さく手を振った。


「僕には祖父しかいない」

「良いお祖父さんですか?」

「ああ。凄く」

「……」

「凄く僕を大切にしてくれるよ」


……ワタリも、そうだった。
我々の間には血の繋がりもなく、ビジネスライクで淡泊な付き合いだったつもりだが
彼が私を大切に思ってくれているのは、強く伝わって来た。

どうやら夜神と私は、今生では環境を取り替えて生まれてきたらしい。
だが私は相変わらず人との関わりが希薄だし、夜神はそれなりに
充実した幸せな人生を送っているようだ。


「そうですか。それは良かった」

「PC、触って良い?」

「だめです。ついでに言うと気軽に他人のPCに触ろうとするのは不躾です」


敢えて子どもに言い聞かせるように言うと、少年は軽く拗ねた顔を見せた。


「分かってるよそんな事。
 祖父は年だけど、PCにも詳しいしネットリテラシーもある」


親がいないからその辺りの躾が、などと言うつもりは全くなかったが
深読みして祖父を擁護する。


「申し訳ない。そんなつもりはありませんでした」

「申し訳ないと思うなら、一つ正直に答えてよ」

「……いいですよ」


全く、この子は。
私の小さな失言を引き出す為にあんな事を言ったのか。
抜け目がない。
多少なりとも後ろめたい思いをして損をした。


「『救世主キラ伝説』って言うサイト、知ってる?」


いきなりか……もう少し探り合いをするものと思っていたが。
油断できない。この少年……夜神。


「ええ。知ってますよ」

「管理してる?」

「あのサイトは、私が生まれる前からあったと思いますが?」

「でもパスをクラックしたり、譲り受けたりする事は出来るよね?」


こういう事があっても別に困らないと思ったから、プロキシも通さず
普通に管理していたのだが。
こんなに短期決戦になるとは。


「無条件に正直に答えるのは一つだけです。
 次はこちらからの質問ですよ。『Lの世界』って知ってます?」

「知ってるよ。それも有名なサイトだ」

「管理してますか?」

「まさか!海外のサイトだし、僕、受験英語以外はそんなに得意じゃないし」

「嘘はいけませんね。
 相手に正直に答えて貰おうと思ったら、自分も正直にならなければ」

「……」


私が言っている事がハッタリかそうでないか探る目。
やはりニアに少し似ている。
二人は長い争いでお互いを意識し過ぎて似てきたのか……。
いや。生まれ変わっているのだから、魂レベルでの相似なのだろう。

少年はやがて、両手を挙げて溜め息を吐く振りをした。


「認める。どうして分かった?」

「いくつ串を通しても、根気よく調査と問い合わせをすれば分かります。
 と言ってもそれをしたのは私ではありませんが」

「他にも僕が『Lの世界』の管理人だと知っている人がいるんだ?
 やましい事は何もないけど、怖いな」


開き直ったように明るく微笑むと、「で?」と言って
私の目を覗き込む。


「はい。私も降参です。パスをクラックしました」

「犯罪だよ」

「分かっています」


真面目くさって言い、両手首を「お縄頂戴」状態で合わせると
少年は笑いながら私の手首を掴んだ。


「危険ですね」


あの頃……「L」と「キラ容疑者」で手錠で繋がれていた頃を思い出す。
だが少年は、顔見知り程度の男同士で、まるでカップルみたいな遊びを
している事を指したと思ったらしい。
慌てて手を離して、照れたようにまた笑った。






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