紫 4
紫 4








夏休みが終わり、やつれた同級生を尻目に私はやはり勉強は適当に終わらせ、
独自にキラについて調べていた。

そんなある日。


「お兄ちゃんは十月の最後の日曜日、何か用事があるかしら?」


母に尋ねられた。
私に約束があるような友人も用事もない事は百も承知だろうに。


「ありませんよ」

「じゃあ中学校に行ってちょうだいね」

「ああ、文化祭ですか。お母さんは?」

「あまり気が進まないのよ」


妹の中学の文化祭か……面白くもなさそうだから、母が行きたくないのも
無理はない。
私だって……。
いや、『美少年』とやらの顔を拝むのも一興か。


「分かりました」




文化祭当日、中学校に向かうと妹が寄って来て、自動的にその取り巻きにも
囲まれた。
正直息苦しかったが中学生の妙な熱気は少し懐かしい。

皆にたこ焼きを奢って芝生で食べていると、妹と同じように
取り巻きに囲まれた少年が近づいてくる。


「やあ。もう係は終わったの?」


にこにこと、作り笑いにはとても見えない完璧な作り笑顔。
この男……。


「準備係だから。今日は拘束ないんだよ」


妹はぶっきらぼうに答えるが、少年は頓着しない。
そして私に目を止めて、少し首を傾げた。
父母の来賓は多いが、年の近い家族は殆ど来ていないので気になったのだろう。
妹は気づいていない振りをしたが、取り巻きの一人が答えた。


「お兄さんなんだって。ここ何年か、全国一位から落ちてないんだって」

「へえ、凄い。何の科目が?」


少年の瞳に、愛想だけではない、値踏みするような光が宿る。
間違いない。こいつが、


「一応全教科ですが」

「さすが!次期会長のお兄さんですね」

「え。妹が生徒会長になるんですか?」

「ならねーよ!」

「みんな言ってるよ。次は君だって」

「言ってねーし!言われてんのはおめーだろうが!」


妹の言う、全国模試一位の「美少年」だ。
そしてニアの言っていた、「Lの世界」の管理人……。
妹とは一位と二位、それなりにお互いを意識する間柄なのだろう。
少年の方が余裕たっぷりのようだが。


「ご一緒して良いですか?」


少年は妹を軽く躱して、私に話し掛けてきた。
栗色の髪、東洋人にしては白い滑らかな肌、涼しげな目元……
どこと言って特徴のない、だが確かに「美少年」と言って通る形だ。

そして……やはり、面影があるな……。
遺伝的には何の繋がりもない筈なので、奇妙な事ではあるが。
中学生時代の彼は、きっとこんな雰囲気だったのだろう。


「良いですよ、ライトくん」

「はい?」

「いえ。こちらの事です」


残念ながら記憶はないようだ。

それから我々は結構な人数の集団で模擬店を回ったが
少年はずっと私に話し掛けていた。
誰か一人の女子と話せば角が立つし、男子と話しても、という事で
私が格好のターゲットなのだろう。

体育館で芸能人が来るイベントがあるとの事(そこいらの大学並だ)で、
子ども達がそちらに行った後、初めて真っ直ぐに少年の方を向く。


「あなたは行かないんですか?」

「ええ、まあ。興味ないし。お兄さんは?」

「私も同じです」

「やっぱり」


何が「やっぱり」かと言えば、私がいかにも芸能人に興味がなさそうな容姿なのか、
全国一位を保つためにはTVなど見ていないに違いないと思われたのか
どちらかだろう。
いずれにせよどうやら親近感を持たれたらしい。


「そう言えば、あなたはどうして私と一緒に回ろうと?」

「うーん……」


少年はまた少し首を傾げ、悪戯っぽく微笑んで私を見上げた。


「あなたともっと話したかったから」

「何故?私は詰まらない人間です」

「そんな事ないですよ!僕、自分以外で全国一位の人に出会ったの、
 初めてだし」


何気に嫌味な台詞が混じるのも、昔通りだ。
だが。


「可愛いですね」


自らの手で人を殺し、嘘を吐く事に慣れ、全力で私を抹殺しようと
躍起になっていた頃に比べれば、可愛いものだ。
本来の夜神は、こんな少年だったのだろう。

だが少年は何を思ったのか少し目を丸くすると、照れた風でもなく微笑んで


「今度勉強を教えてくれる?」


甘えたように、言った。






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