黄 10 ばたん。 ドアが閉まり、風圧に少し前髪が揺れる。 残された夜神を向き直ると、やはり憮然とした表情のままだった。 「……勝手に決めるなよ」 「そうでもしないとあなたが素直になってくれないので」 「何だよ素直って」 「正直に言って下さい」 一歩二歩、と近付くと、夜神も同じだけ後ずさる。 「……別に、僕は欲求不満とか、」 「ニアに一服、盛られましたね?」 「……」 警戒一色だった夜神の目が、微かに見開かれた。 「あなたはセックスを楽しみはするが、欲求には流されない理性的な人だ。 そのあなたが外国で出奔するなんて、こんな不可解な行動を取るには 何か外的要因がある筈」 私の言葉が進むにつれ目を細め、遂に窓の方を見る振りをして逸らす。 「だとしたら催淫剤か興奮剤の類いしか思いつかないんですが……違います?」 「……」 しばらく無言で外の景色を眺めていた夜神は、 やがて絞り出すように答えた。 「……ああ、そうだよ。 昨日ニアに飲み物を勧められて……しばらくしたら身体が熱くなって来て」 「あなたにしては迂闊でしたね」 「普通そんな事するか?いや、あいつが普通じゃない事は分かっていたから 油断した僕が悪いんだが」 「それで?」 「一晩中、服の上からだが身体を触られたり、その……おまえとの事について 詰問されたり……ニアの妄想を聞かされたり」 「そして益々興奮してしまったんですね?」 夜神は無意識に身を守ろうとするかのように、右手で自分の左肩を掴んだ。 逆効果だ。 益々嗜虐心を煽られるではないか……。 「時間が経てば収まると思ったけれど……」 「収まらず、我慢できずに男漁りに来た、と。 女性じゃなかったのは私がアナルセックスを教えてしまったからですね」 「別に、男と寝たい訳じゃない!」 「いずれにしても危険すぎます。下手したら殺されてましたよ?」 「おまえが昨日、一人にしてくれなかったからだろ! 今からでも一人にしてくれ。頼むから」 「もしかして、結局自分でするつもりですか?この私が居るのに?」 顔を覗き込むと、激怒した野生動物のように眉を逆立てて歯を見せる。 「だから!一回だけと言っただろう!『L』とは、無理だって」 「過去の事は水に流しませんか?お互いに」 「僕が流さない」 ふい、と顔を背けた瞬間。 私は夜神に飛びかかっていた。 勝手に身体が動いて、自分でも驚く。 無意識に近い予想外の行動だったので、殺気すら出ていなかっただろう。 夜神は驚愕の表情を浮かべたまま二、三歩後ろによろけ、 そのままベッドに倒れた。 私もこれ幸いと押し倒し、マットレスの上で色気もない格闘が始まる。 「ちょ、何考えてるんだ!」 「私の考える事は一つです」 やがて私が急所を掴むと……夜神の全身から、力が抜けた。 「全く……手こずらせてくれましたね……」 「……」 手早くベルトを抜き、両手を束ねて拘束する。 夜神は強く抵抗しなかった。 勝負あり、だ。 以前、「もう力尽くではどうこう出来ない」などと生意気な事を言っていたが。 所詮十五歳、体格でもまだ私が勝っている。 はぁはぁと、息を荒げていた夜神が、私が股間を刺激したのに反応して 緩慢に身を捩った。 「僕を、レイプするのか……最初の時みたいに」 やや声を詰まらせて強がるが、下半身は既に反応し始めている。 「どちらが良いですか?月くん」 「……」 「キラとしての誇りが許さないと言うのなら、強姦してあげても良いです。 でも、私の恋人に戻るなら優しく抱いても良い。 好きな方を選んで下さい」 「……」 必要以上に貶めた言い方をしてみたが。 ぎりぎりと食いしばった唇から、血が滲むのをリアルで見たのは初めてだ。 色の失せた唇が、徐々に赤く染まって行く。 「おまえに、」 キラの目……。 というよりは、獣の、目。 「……おまえにまた抱かれるくらいなら、この場で死んだ方がマシだ」 「……」
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