黄 8
黄 8








「夜神が、いない?」


寝る前にニアに呼び出されて、いきなり訊かれたのが夜神の所在だった。


「はい。夕食後、彼はどうしましたか?」

「さあ……普通に出て行きましたが、この部屋に来るものだと」

「まだ来ていません。行き先に心当たりは?」

「……妹の部屋は、」

「真っ先に調べましたよ。妹さん以外、虫一匹居ませんでした」


くそっ……。

夜神は、目的の為に手段を選ばないし、どのような不遇にでも耐えるタイプだ。

ニアと寝るのも、口では嫌がっていても内心しめたと
思っているのではないかと思っていた。
それだけ、デスノートの側にいるかも知れない可能性も高くなるのだから。
それに、仇敵であるニアをゆっくりと観察出来る機会でもある。

まさかその彼が、逃げ出すとは……。
後先を考えない、あまりにも夜神らしくない短絡的な行動だ。
それとも何か出奔に理由が……?


「ニア。まず近郊の全てのタクシー会社に問い合わせを。
 あと、バス会社ですね」

「はぁ……」

「ヒッチハイクでしたらちょっと絶望的ですが……町へ向かったとなると
 下手したらロンドンかも知れませんし、誘拐の可能性も無視出来ない。
 いずれにせよハイウェイならもう到着していてもおかしくありません」

「あの」

「何ですか?ニア」

「夜神が行方不明でも、この建物の中に居ないのなら、
 さほど問題ではないと思いますが?」

「……」


そうか……確かに、夜神がこの館を出る事はニアにとって不都合ではない。
デスノートがあるとしてもデスノートから遠ざかるし、妹からも遠ざかる。

どこかで死神を呼び出して別のデスノートを手に入れるかも知れない、
という所まで考えれば不安材料は尽きないが、それは彼が日本に居ても同じ事だ。


「しかし、彼はあなたに昨夜嫌がらせをされたと。
 それで出て行ったんじゃないですか?」

「さあ?そんなに嫌ならば、言えば今日からあなたの部屋にやったのに」


無表情にとぼけるニアに、僅かだが苛立ちが生じる。


「彼はキラですが、外国の罪もない学生でもあります。
 彼がこの国で事件に巻き込まれたら、私の立場が不味い事になります」

「まあ、それがあるから多少は手を打ちますよ。
 現世のあなたはこの国に土地鑑がないのですから、傍観していて下さい」


……結局この国ではニアに地の利がある。
私は同意するしかなかった。






「L、やはりロンドンにいたようです」


ニアが連絡して来たのは、結局明け方近くになってからだった。


「どこにいたのですか?!」

「ソーホーで遊んでいたようですね。
 先程、若い白人男性と居る所を私がCCTVで見つけまして
 ジェバンニが保護しました」


ジェバンニとは、レスターと同じく元SPIのメンバーで、それなりに戦力になる、と
以前ニアが評価していた男だ。
一昨日の話では今手が離せないとの事だったが、何とかなったのか。

いや、そんな事よりも。


「彼は、無事ですか?」

「一見した所、怪我などはないそうです。
 服の下は分かりませんが」

「……とにかく、そのままにしておいて下さい。すぐ行きますから」

「L」

「何ですかニア。急いでいるのですが」

「必死ですね」

「……」


ニアは、含み笑いを浮かべている。
私は無視して、部屋を飛び出した。






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