黄 5
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その日の晩には、レスターという人物が到着した。
キラ事件当時に結成したSPIのメンバーで、ニアは今も信頼しているらしい。


「ジェバンニはどうしても都合がつかず……」

「覚えておけと伝えて下さい」

「今は大きな事件の捜査本部の中心人物でどうしても外せないんだ」

「そうですか。キラ事件よりも大きな事件ですか?」

「いや、というか……」


そう言い掛けて、大柄な壮年の白人男性は困ったようにこちらを見た。

モニタだらけの地下室の真ん中にマットレスだけが置かれ、
その上に不機嫌な顔をした夜神とその荷物が乗っている。
私は顔合わせに呼ばれただけで、その隣にただ佇んでいた。


「その、彼がキラの生まれ変わりだと?」

「はい。そして立っている方が初代Lの生まれ変わりです」

「……」


レスターは、また困ったように唇を引き結んだ。


「その、根拠は?」

「Lはともかくキラの方は見て分かりませんか?」

「いや……実際に彼に会っていた時間は一時間かそこらで、
 しかも十数年も前の話だからな。
 そこまで似ているとは……済まないが東洋人の若者は皆同じように見えて……」

「それでも元特殊部隊の隊長ですか」

「そう言われると面目ないが、しかし」


困ったように私を見た後、視線を泳がせて結局夜神を見つめた。
私は頼り甲斐がなさそうだとでも言うのか。
夜神もレスターに向かって、


「彼は、僕が彼の知人の生まれ変わりだと思っているようですが、
 僕にその記憶はありません。輪廻転生も信じていませんし」


困ったような顔を作って肩を竦める。


「留学しているガールフレンドに会うために、今日入国したばかりです。
 フェニックスさんとも初めて会うのに、一体どうしてこうなったのか。
 ……フェニックスさんは彼女の倍以上の年齢かと思いますが、まさか」

「レスター。彼の言葉に耳を貸す必要はありません。
 元々、一時はLをも騙しそうになった程の嘘の天才ですから」


夜神の言葉に、顎が外れそうになっていたレスターにニアがぴしりと言う。
だがそう言われても、いきなり生まれ変わりなどと言われて
この現実主義者らしい大男は困るばかりだろう。
私ですら、自分自身が体験していなければ信じられないところだ。


「まあ、信じて貰う必要はありません。
 彼がキラだという設定で、キラの再来を想定した訓練だと思って下さい。
 ただし、限りなく実践に近いドリルです」


ニアもレスターがあっさり信じるとは思っていないし、
その必要も感じていない、か。


「私の話は終わりです」


そう言ってニアは唐突に消灯し、スーツ姿のままのレスターが
何やら慌てる声を聞きながら私も退室した。






そのまま自室で一人で過ごし、朝になり、食堂へ向かう前にふと思いついて
妹の部屋のドアをノックしてみる。


「おはようございます。私です」


中で何やら気配がしていたし、彼女は元々早起きの質なので
もう起床しているだろう。


「入りますよ」


兄妹の気易さでドアを開けると……。

窓際のデスクに、パジャマ姿の夜神が座っていた。


「!」

「ああ、おはよう」

「……」


私に見られても、慌てるでもなく平然としている。
妹の方は、決まり悪げにベッドの上で膝を抱えていた。

私は黙ったまま夜神の前まで歩く。


「こう言う場合、兄としてあなたを殴っても良いんですかね?」

「良いけど。一回は一回だよ」


冷静な返事に、こちらも努めて冷静に拳を握ると、


「やめろよ!」


妹に止められた。


「何考えてんだよ兄貴。いやらしい」

「いやらしいって……」

「何もやましい事はしてないよ、お兄さん。
 時差ぼけで寝られなかったから、ちょっと話をしに来ただけだ」

「レスターは?」

「ニアがトイレに行っている隙に、用を足したいって言ったら
 普通に出してくれたけど」

「……それは、またニアの機嫌が悪くなりますね……」


昨日のニアの様子を思い出すと、何故か彼に頭が上がらないらしい
大男が不憫になる。
ニアの言葉を真剣に受け止めていないと、自ら証明してしまったのだから。

いや、それよりも。


「やましい事はないと言われても、申し訳ありませんが信じられませんし
 疑われて当然の状況だという事は理解して下さい」

「あのなぁ。兄貴は妹が信じられないっての?」

「どんなに正直な子どもでも、異性と寝た事を正直に家族に伝えたりしないと思います」

「私がコイツと寝てたら、どうする訳」

「まずは殴ります」


私が夜神にした事を思えば人の事は言えないし、
この様子なら男ばかりに責任があるという事はないだろう。
だが。


「ばっかじゃねーの!」

「バカな事をしでかしたのはあなたの方ではないのですか?」

「そこまで言うなら、婦人科で検査して貰うから付いて来い!
 その目で確かめろ!妹が処女かどうか!」

「……」


あけすけな物言いに、こちらの方が言葉に詰まる。
この子には、昔からこんな所があった……。


「分かりました……そちらこそそこまで言うのなら、今回は信じます」


妹は安堵したように眉間を開いて息を吐いたが、次の瞬間、
顔を上げて残忍に微笑みながら夜神を親指で差した。


「もっとも、そいつは処女じゃなさそうだけど?」


……こちらが一歩引いた、次の瞬間にこの反撃。
本当に容赦のない子だ。
夜神も、面食らったような顔をしていた。


「そんな事は今は関係在りません。
 とにかく、今後は自重して下さい、二人とも」


私はそんな言葉で逃げて、夜神の手首を掴んで退散した。






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