黄 4
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「では、私はここで失礼を」

「はい。ご苦労様でした」


ロジャーは、まるでニアと顔を合わせたくないかのようにそそくさと立ち去った。

ワイミーズハウスに住む子ども達は知らないが、その地下には
広い空間があり、ニアが一人で占拠している。

扉を開けると、夥しいモニタと悪夢のような玩具の洪水が待っていた。


「ニア、私です。来ました」

「妹さんのボーイフレンドも一緒ですか?」

「はい」


予想外の所から声がして、ドミノの山……と思っていた物がざらざらと崩れ、
中からニアが起き上がった。


「……!」


さすがの夜神も、息を呑んでいる。


「……」


面倒くさそうに立ち上がったニアは、足を引きずりながら我々の前に来て
無言で夜神の顔を見下ろしてまじまじと見つめた。

夜神も、十五年ぶりに会うニアに何を思うのか、じっと見返している。


「……デスノート」

「はい?」

「デスノートは、絶対に手の届かない場所に保管してあります」


思ったより驚いていない。ように見える。
だが、ニアの表情は私にも今ひとつ読めないから分からない。
対する夜神は動じた様子を見せず、白々しい笑顔で小さく会釈をした。


「何の話か分かりませんが……あなたが、リバー・フェニックス氏ですか?」

「L……何を考えているんですか。
 こいつは私の本名も、勿論あなたの現在の本名も知っているんですよ?」

「失礼、フェニックスさん、僕は、」

「何かの拍子にデスノートを手に入れたらどうするんですか、
 死神と取引する奴ですよコイツは」

「あの、ちょっと、」

「そうでなくても直接私を殺そうとするかも知れません。
 ボディガードを増やさなければ」

「いや、あの、」

「ロジャー!レスターとジェバンニに至急、」

「コイツ何なんだ!お兄さん!」


目の前の少年が完全にキラだという前提で話をするニアと、
あくまでも素知らぬふりで通す夜神の噛み合わなさはちょっと面白かったが。


「コイツがキラですよね?L」

「ええとですね」

「ならば妹さんの彼氏は一体……いや……まさか」


なるほど。
ニアは、私が妹の彼氏の替え玉として夜神を連れてきたと思ったのか。
夜神は初めて動揺を見せたニアに、ここがチャンスとばかりに
恐ろしいほどの作り笑顔で一気に畳み掛ける。


「彼女がお世話になってます。そして僕も一週間、お世話になります」

「……!」


ニアは突然、くたりと座り込んだ。
まるで糸を切られたあやつり人形のように。


「大丈夫ですフェニックスさん。恋人同士とは言え、二人ともまだ十五歳ですから
 他所様のお宅で羽目を外したりはしませんよ」

「……」

「もう十五歳……ですよね」


それから、自分の髪の毛をぶちっ、と抜いた後、私を睨み上げた。


「L。キラを二十四時間監視しておいて下さい。出来ないというのであれば、」

「出来ません。現在の彼は犯罪者ではありません」

「では私自身が監視します。
 すみませんがヤガミ、あなたに用意した部屋はキャンセルです。
 ボディガードが来たらこの部屋で寝泊まりを、」

「待って下さい!」


夜神も、この国に来て初めて大声を出した。


「僕が、あなたの知る誰かに似ていても僕はその人じゃありません。
 勿論ヤガミという名前でもありませんし、あなたに害意もありません」

「そうですか。でも私はそれを信じられないので、
 後ろめたい事がないのなら大人しく監視されて下さい」

「はぁ?自分のガールフレンドに会いに来ただけなのに、何故そんな事に?」

「このハウスに滞在したいのなら従って下さい。
 嫌なら日本に強制送還します」

「……」


さすがの夜神も、鼻白んだように黙り込んだ。

二人でニアの部屋を辞してドアを閉めた途端、眉間に深く皺を寄せて
吐き捨てる。


「昔から思ってたけど、アイツ、普通じゃないね」

「あなたは普通でしたか?」

「おまえも普通じゃなかった。いや、今も普通じゃない。
 僕は今は普通の高校生だ」


真顔で言うのに思わず吹き出しそうになりながら。


「普通の高校生が、新世界を作ろうとか考えないと思いますけど」

「考えてませんけど」


まるで付き合っていた頃のような掛け合いに、ついに頬が緩んだ。
夜神はそれに気付いたのか、不機嫌な顔になる。


「僕は本当に、年を取ったニアをちょっと見てみたかっただけなんだ。
 あと、僕と気付くかどうか試したかったというのもあるけれど、
 あんなに極端な反応をされるとは思わなかった」

「そうですね。あんなに怯えられると、逆にデスノートが手近にあるのかと
 勘ぐってしまいたくなりますね?」


希望に、目を輝かせるだろうか?
こっそりと夜神の顔色を観察しながらそろりと言ってみると、


「あるいは、妹さんに異常な思い入れがあるか、だね。
 まるで娘のボーイフレンドに会った父親みたいだったよ」


夜神も平然と、私の顔を伺うように上目遣いに見て来た。






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