黄 3 「ここが……前世でおまえが育った所?」 英国、ウィンチェスター。 煉瓦造りの古い門を見上げて、夜神は感慨深げに呟いた。 この、自分もよく知るワイミーズハウスに、夜神が立っている、 という状態の方が私には感慨深い。 「まあ、短期間ですが」 「そうか……ニアも、メロも、だよな」 「そうですね」 二人きりの時には、「キラ」の顔も見せる。 ニアの側近くに来て尚、という事は、もうデスノートを諦めたのか…… いや、逆に私を油断させる為か。 「N……フェニックスさんは快く僕の為に部屋を用意してくれたって話だけど」 「はい。私の隣室です」 「夜這いに来るなよ」 「さて、どうしましょう」 ニアは「妹の彼氏」が夜神だとは知らないので私に対する配慮ではないだろうが 久しぶりに同じ屋根の下で眠る事に、少し胸が高鳴った。 「それより、どうします?ニアに会います?」 「それは世話になる以上、挨拶しない訳には行かないだろ。 ……僕が、分かると思うか?」 「ニアに会ったことあるんですよね?」 「ああ」 「なら、分かると思いますよ」 「まあ、認めないけど」 そんな事を言いながら呼び鈴を押すと、ロジャーが出て来た。 彼は無愛想に案内するだけで荷物を運ぶのは手伝ってくれない。 「妹はどこですか?」 「まだ語学学校です。17:00に迎えに行きます」 「そうですか。ではまずニアに会いに行きましょうか」 長い廊下を進みながら、ぽつりぽつりとそんな事を話していると、 一歩遅れて着いて来ていた夜神が控えめに声を掛けた。 「あの、お世話になります。ミスター……」 「ロジャーで良いと思いますよ。良いですよね?ロジャー」 「……ああ」 「ロジャー、僕の英語は不味いから、分かりにくかったら遠慮無く言って下さい。 あと滞在中、雑用でも何でもお手伝い出来る事があったら言って下さい」 「……」 ロジャーは立ち止まると、ゆっくりと身体ごと夜神の方を振り向く。 「……君のクイーンズイングリッシュは悪くない。 この施設の主は少々気難しいので、君こそ何かあったら 遠慮無く私に言うと良い」 そう言うと態とらしく肩を上げて、前に向き直って。 「何だか、久しぶりにまともな人間と出会った気がする」 聞こえよがしにそんな独り言を言った。 まあ……私も挨拶や社交辞令は省いて言いたい事だけ言ってしまうタイプだが。 ニアに付き合っていると、普通の挨拶や遣り取りに飢えてしまうのかも知れない。
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