黄 2 それからまたしばらく夜神と音信不通だったが、前期テストが終わった頃、 ついまたメールをしてしまう。 『高校生活は如何ですか?期末テストは終わりましたか?』 期待していなかったが、意外にも即返信が来た。 『普通だよ。期末テストはあと二科目』 『ありがとうございます。無視されるかと思いました』 『恋人のお兄さんを無下にも出来ない』 『なるほど。この夏はどう過ごしますか?』 少しだけ、間が開いた後。 『悪いけど会わないよ。休みを利用して渡英しようと思ってる』 ……いきなりだな。 自ら伝えて来たのは、ニアに対して行動するのを、 止められる物なら止めてみろ、という挑発か。 『妹に会いに行くのですか?』 『それもあるけど、別の目的もある』 ニアから、デスノートを奪還する。と? 私が返信を考えあぐねていると、続けてメールが届いた。 『入学祝いにMensaのテストを本場で受けさせて貰う事になったんだ。 丁度受験資格である十五歳になったしね』 くそっ! 揶揄われたか。 『メンサって、IQが人口の上位2%に入る人だけが入会できるというあれですか?』 『うん。お兄さんも会員?』 『いいえ。興味ありません』 馬鹿馬鹿しい、IQテストなど訓練次第でどうにでもなるので意味もないが、 夜神は祖父を説得する為の方便として上手く使ったのだろう。 まあ、どうせ今回は恐らくデスノートを手に入れる事もニアに何かする事も 出来ない。 顔を見る程度だろうが……。 『そうですか。私もそろそろ、妹の様子を見に行くつもりだったんです。 一緒にチケットを取りましょう』 『いや、良いよ』 『知り合い同士が奇遇にも同時期に同じ外国に行く。しかもお互いそれを知っている。 別々に行く方が不自然でしょう?ホテルも同室で良いですか?』 『冗談はやめてくれ。僕の方は彼女からワイミーズハウスに来いと言って貰ってる。 Nさんが許してくれなければ、こっそり部屋に泊めてくれるって』 『それも聞き捨てなりませんね』 下らない遣り取りのメールでは、前世の事などおくびにも出さない。 あくまでも「妹の彼氏」として、用心深く証拠など残さない、という訳だ。 だがそれ故に夜神は私の同行を断る事も出来ず、馬鹿馬鹿しい応酬の後、 共に渡英する事に決まった。 「と言う訳で、妹の彼氏と一緒にそちらに旅行する事になりそうです」 『それはそれは』 「彼もワイミーズハウスに泊めて貰えますか?」 『良いですよ』 「良いんですか?」 『あのメロが選んだ男のバカ面に私も興味ありますし』 その夜スカイプでニアと通信したが、妹のボーイフレンドの存在にも 彼は全く動じなかった。 PCディスプレイの向こうには、銀色の髪とそれをくるくる指に巻く 白い手だけが映っている。 ニアは、妹が付き合っている相手が夜神である事を知らない。 個人的に、二人の話からは本当に恋人と言える状態なのかどうか 判断できないと思う。 それもあって特に伝えていなかったのだが、ニアからすれば、 わざわざ外国まで会いに来る位なのだから、それなりの仲だと思うだろう。 夜神だと言ってやればそれなりに用心もするだろうが、 ニアの反応をこの目で見てみたいので黙っている事にする。 やがて、何らかの作業から顔を上げたニアは、眉を寄せていた。 『それより、彼女です』 「ああ、妹はどうしていますか?」 『最初に挨拶に来た時以来殆ど会っていません。 ……避けられている気がします』 「まあ、そうでしょうね」 『私はメロを苦手だと思ったことは一度もありませんが……』 ニアが奥に下がった為に見えた右手には、細い棒が二本握られていた。 『女の子は苦手かも知れません。最近気付いたのですが』 「何ですか?それは」 『彼女が……せめて箸を使いこなせるようになってから話し掛けて来いと』 ニアが持ち上げたボウルの中には、ひよこ豆が丁度百粒 入っていた。
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