緑 6 今度は私が、息を吐く番だった。 夜神月が、認めた……。 前世でしか知り得ない固有名詞を、口にした。 今日中に認めさせる事が出来なければもう機会はないだろうし、 そうなればニアは彼を敵認定し、監視を強化するだろう。 最悪消す羽目になったかも知れない。 夜神はそこまで考えて自白した訳ではないだろうが 最後の最後の逆転に、やはり安堵する。 「……どういう心境の変化ですか?」 「おまえとニアがタッグを組んでいるのなら、とても僕に勝ち目はない。 キラもデスノートも諦めるよ」 「ほう……あなたが簡単に白旗を揚げる程殊勝とも思えませんが。 取り敢えずは真に受けておきましょう」 夜神の白々しい台詞に合わせて、こちらも白々しく微笑む。 彼は今、転生した「L」と「キラ」としての距離を必死で測っているのだろうが 私自身はその辺りの駆け引きに興味が湧かなかった。 我ながら私の自我という物は非常にシンプルだと思うが。 何度生まれ変わってもきっと、復讐で満足する、といった回路は、私にはない。 ……いや、これも、一種の復讐なのか? 「でも、今もです」 「何が?」 「私は今も、あなたに欲望を持っています。 あなたがキラとしてカムアウトした今でも、私はあなたが欲しい」 夜神は怯えたような、ひいたような目をした。 「それは、無理だな」 「何故です?」 「思い出した今となっては、僕は夜神月としての思考を封じる事は出来ない。 竜崎となんて、無理だよ……」 「そうですか?では私とのセックスの記憶はどう処理するんですか?」 「……」 「年を取ったニアに、会ってみたくないですか?」 「……」 畳み掛けると、目を細めて私を睨む。 まだ諦めていない、か……。 それならそれでまた、楽しみようもある。 「ならば少しの間、目を瞑って耐えていて下さい。 優しくしますから。 平方根でも、円周率でも、好きなだけ唱えていると良い」 言いながらその肩を引き寄せると、夜神は無言で身を任せ、 至近距離で私の目を十秒ほども覗き込んだ後、静かに目を閉じた。 「……1.41421 35623……」 どうやら、身体を差し出す覚悟が出来たらしい。 こんな所もさすが夜神だ。 私は少年を改めてベッドに押し倒して、ズボンと下着を脱がせた。 尻を剥き、唾液で湿した指でその窪をまさぐる。 知り尽くした少年の中の、性感帯に触れると数字を読み上げる声が 少し大きくなった。 「6408891986 0955232923……」 自分のジーンズのファスナーを下ろす音が妙に大きく響き、 夜神の身体が緊張のせいか硬くなる。 数字の念仏が、一瞬途切れる。 「入れますね……」 「0、14682、472077…… 」 「何桁まで覚えているんですか?」 「1435、85、48、 うっ……」 少し久しぶりに少年の中に押し入ると、変わらず熱く絡みついて 迎え入れてくれた。 「74155……嫌、だ、入って、来る……」 遂に夜神の顔が歪み、数字の羅列が止まる。 「はい。もっと奥まで、行きます」 「やめろ……竜崎!」 「やめません」 「やっぱり無理だ……嫌だ、変態!」 「月くん」 同性愛やアナルセックスに、抵抗のある質ではない。 やはり、「L」という敵に抱かれるのが耐えがたいのだろう。 身体が、私の与えた快楽を覚えている事が予測出来るだけに。 そう言えば、誕生日に抱いた時。 彼は発狂しそうに混乱していた。 「でも、勃ってますよ?月くん」 「……!」 「以前のように、もっともっとと言って下さい」 羞恥というよりはおそらく屈辱で紅潮したのであろう、赤い顔を腕で隠し 懸命に声を殺しながら感じている夜神に、私も久々に興奮する。 「月くん……月くん、月くん、いいです、」 「おまえ、名前、連呼するな!」 「気付いてないんですか? 誕生日の時も思いましたが、記憶が戻ってからのあなた、凄く、締まります」 「……!」 「特に、月くんの名前を呼ぶと」 「拒絶反応だ!分かるだろう!」 言いながらも夜神は背を反らせ、快楽に抵抗しようとする。 構わず突いていると、やがて最後が近くなって来たらしく息が熱くなって来た。 「……竜崎……頼む。助けて、くれ……」 「!」 思わず止まりそうになった腰を、慣性で何とか続ける。 狂ったリズムに波をやり過ごしたのか、少年は小さく息を吐いた。 今、自分の言葉の何が私を動揺させたのか頭をフル回転させているのだろう。 教えてやろう、夜神。 その言葉の持つ意味を。 私がどれほどその言葉に焦がれたかを。 「その台詞」 「……」 「……前世で言ってくれれば」 「……」 凡庸に。 言ってどうなるんだとか。 僕は助けなど求めていなかったとか。 言い返して来るかと思ったが、少年は無言だった。 ただそこだけ露出した口元が、小さく震えていた。
|