緑 4 「おまえの言う通り、僕が、キラだ」 「はい」 「そう言えば、満足か?」 「いいえ。出来ればそれだけでなく、ニアや私には知り得なかった デスノートの情報や動機などについて自白してくれると嬉しいですね」 夜神は、腕組みをして私を見下ろす。 「馬鹿じゃないのか? 僕が例え本当にキラだったとして、おまえにそんな事話すと思うか?」 「さあ。犯罪者の心理を分かりたくもないですが、 転生して自らが罪に問われる理由がなくなったのなら、 ひけらかしたくなるものなのでは?」 「僕はそんなに愚かじゃない」 夜神はそう言って何故か微笑み、小さく肩を竦めた。 ……まるでキラから、少年に戻ったかのように。 「それより、お兄さんに本気でキラだと疑われているのなら悲しいな。 本当に、好きだったのに」 言いながらしゃがみ、するりと私の隣に座り込む。 私が黙っていると、顔を近づけてきて頬に口をつけられた。 「……凄いですね月くん」 「何が?」 「私は、あなたが私を殺した事を知っている。 あなたがその事を思い出した事も知っている。 その状況で、よくそんな事が出来ますね?」 反論するかと思ったが、少年はまたにこりと笑って小首を傾げた。 「もっと凄い事もしたじゃないか」 「それはあなたが思い出していなかったからでしょう」 「お兄さんの言う事はよく分からないけど、『L』には興味あるな。 教えてよ、どうやって『L』にコンタクト出来たのか」 ……この期に及んで、この私を籠絡しようと言うのか。 舐められたものだ。 「興味がなくなったのでは?」 「興味なくなったのは『キラ事件』だよ。 センセーショナルだったけれどLが扱った沢山の事件の一つに過ぎないし。 Lは今でも尊敬してるよ」 「認めないんですね?」 「……認めないね」 ニッと笑って嘯く夜神の、手首を掴むとさすがに真顔に戻って びくりと震える。 「僕は、妹さんの恋人だよ」 「そうですね。でも私も、あなたが忘れられないんです。 月くんの、身体が」 「……」 夜神はまた眉を顰め、腕を引こうとしたが私は離さず そのまま絨毯の上に押し倒した。 抵抗をせず、睨み付ける目だけで咎めるのが強情だ。 「僕は、ライトじゃないよ。お兄さんがそう呼ぶのは勝手だけれど」 「ならば、少しの間我慢していて下さい。 そうすれば、Lにコンタクトを取る方法を教えます」 そう言いながら制服のネクタイに手を掛けると、青ざめて暴れ始めた。 「やめろよ! お兄さんの話では、僕は前世でお兄さんを殺したんだろ? そんな相手とヤろうなんて、どうかしている」 「すみません。変な妄想に付き合わせてしまって。 転生なんて冗談です」 「じょ……下に祖父がいるんだ、本当にやめてくれ!」 「どうしてですか?少し前まであんなに悦がっていたのに」 「別れた相手となんて、普通したくないだろう!」 首に口をつけようとしたら顎を引いたので、唇に口をつけてやる。 慌てて顔を背けたので、遠慮無くその首に舌を這わせた。 「女性的な事を言うんですね。でもあなたは違う筈。 そんなモラルに縛られるタイプでもないでしょう?」 「……!」 「まあ、過去に私が宿敵だったとか、私を殺した事を思い出したとか、 そう言った事でしたら、さすがに気持ち悪いのも理解できますが」 「っおい!」 少年は大きな声を出してから、しまったという風に唇を噛んで、ベッドに縋った。 シャツの裾を掴むと、シャツを脱ぎ捨てながらマットレスの上によじ登る。 馬鹿じゃないのかと呆れながら足首を掴んで捕まえ、後ろから覆い被さると 振り向いた横顔の、横目で睨む瞳が光の加減か美しい緑色に光っていた。 「言ったらどうですか?思い出したと」 「……」 「自分が殺した男に犯されるなんて、ごめんだと」 少年は目を逸らし、身体の力が少し抜ける。 だが白状するつもりは全くないようだった。 「まあ、私はどちらでも良いんですけどね。 あなたを抱きたいのは本当ですし」 そう言いながら少年の前に手を伸ばし、ベルトを外すと 聞いた事のない凄味のある声で唸った。 「……妹の彼氏にこんな事をして、妹に仕返しされるとは思わないのか」 「さあ。あの子はそんなに簡単にやられるような子ではないと思いますが 一応用心するよう伝えましょう」 「頼む……本当に止めろ……無理だ……」 「キラだから?」 「違う!」 強情に、唇を噛む。 ……私が完全に彼がキラだと看破している事は当然知っている。 なのに絶対に自分の口からは認めない、という強い意思表示。 その意味は、何だろう? 可能性としては二つ考えられる。 一つは、夜神月としての矜恃。 もう一つは、不吉なことだが……。
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