緑 3
「……キラは、お兄さんの専門だろ。
『救世主キラ伝説』のサイトで小論文でも書いたら？」
「主治医の件は基本的に口外無用なので出来ません。
あなただから言いましたし、あなたの考えが聞きたいんです。
最近『Lの世界』も更新してませんよね？」
「だから。興味がなくなったんだ」
「だから。キラになりきって、推理して下さいと言っています。
あなたなら容易いでしょう？」
「推理したら、その極秘情報とやらの出所を教えてくれるのか？」
「はい」
少年は……いや夜神は、少し唇を舐めると探るように私の目を
じっと覗き込んだ。
少年がキラなら……いや、キラなのだが。
現在のLがニアだという事も知っている筈。
そして、自らを破滅させたニアにも、必ず興味を持つ筈だ。
そして、私がLである事、
海外の殺人事件の、関係者しか知り得ない情報を知っている事から、
私がニアに接触した可能性に思い至るに違いない。
さて。
どうする？
自らが転生の記憶を持っているのを隠す事を優先し、このまま流してしまうか。
それとも、ニアに近づく為に、諦めてカムアウトするか。
少年は口を開けてから数瞬迷った後、やはり言葉を
続ける事にしたようだ。
「そうだな……キラなら、様子を見ると思う」
「報道では完全に妻が犯人扱いなのに？」
「でも、妻が犯人だと決まったわけではない」
「キラはおおよそ、法で裁けない犯罪者を殺していました。
その情報はネットや報道に頼っていました」
「でも、完全に黒と決まっていなければ裁いていない」
「裁判で有罪が確定した後、冤罪が立証されるケースもあります。
その前にキラに殺されてしまえばもう立証しようもないわけですが」
「……」
夜神は立ち上がり、部屋の隅の作り付けの古い本棚に向かった。
とは言っても中は古い本ばかりという訳ではなく、バインダーなども
よく整理して置いてある。
その中から一冊の背表紙の太いファイルを取り出し、私に差し出した。
「前も見せたけど、キラが裁いたと思われる犯罪者リストと
自白のありなし、裁判に掛かった時間の記録だ」
「はい。よく調べてあるなと思いました」
「99％、自白あり、だ。キラは冤罪の可能性がある犯罪者は裁かない」
「実際、どうです？」
「何が？」
「この『キラが裁いたと思われる』のリスト、正しいですか？」
「……」
凶悪だ……。
少年は殺意を含んだ視線で私を貫いた。
「今日はずっと引っかかる言い方するね。何が言いたいんだ？」
「何がですか？」
「甘い物が好きなのを何故知っているのかとか、手錠がどうとか、
キラに裁かれた犯罪者を、僕が知っているかのような物言いとか」
開き直って、私が何か前世に言及すれば。
全否定して、その話はもうするなと釘を刺すのだろうか。
「さあ」
「正直、全く分からない」
「そうですか？」
受け流していると、突然、少年の顔が奇妙に歪む。
……いや、笑って、いる？
「いや、言いたいことは大体予想がつくよ。
お兄さんが何故そんな妄想に囚われたのか全然分からないけれど」
「……」
「言ってやろう。……僕は、キラじゃ、ない」
一層口の両端を釣り上げて。
わざわざ一言づつ言葉を切って言う。
……そう。
あの頃と、全く同じ口調。
「違うんですか？」
「違うね。当然だろう？」
そうだ。
転生しているのだから、彼がキラではない、というのは嘘ではない。
転生を、認めさせるには……。
「……ところで、極秘情報の出所を教える約束でしたね」
「ああ」
「私、『L』のPCにアクセスできたんですよ」
「……！」
夜神は息を吸って、動揺を隠す。
予想してはいただろうが、やはり驚きを禁じ得ないのだろう。
「……へぇ。それは凄いね……」
「勿論、先方からリークして来た訳ではありません。
……私は、自力でニアを見つけましたよ」
敢えて聞こえるか聞こえないかの小さな声でぼそりと呟くと。
夜神はベッドに座り込んだ。
「どうしました？ニアというのが誰か聞かないのですか？」
「……」
「私がどうやってLを見つけたか、聞かないのですか？」
畳み掛けると、夜神は漸く顔を上げる。
「……ニアっていうのが、Lの別名だというのは、文脈から想像がつく。
長い間……『Lの世界』を運営していた僕よりも、お兄さんの方が
先にLを見つけたと思うと……ショックで……」
「まあ正確に言うと見つけさせた、ですが。
聞きたいですか？……ライトくん」
「……」
それから少年は、長い間沈黙していた。
あまりにも長く、もう何も言わないつもりかと諦めかけた所で突然。
ゆらりと、立ち上がった。
「……そうだ。僕が、キラだ」
| SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||
